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S.I.H.H 2018 REPORT 趣味性を増していく高級腕時計の世界

スイス・ジュネーヴで開催されるS.I.H.Hは世界中の時計愛好家が注目している新作時計イベント。そこで発表された最新作と時計トレンドをレポートする。

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S.I.H.H の会場は、ジュネーヴ国際空港横の見本市施設「パレクスポ」。

スイス第二の都市であり、国際機関が多く集まるジュネーヴは、時計産業の中心地でもある。風光明媚なレマン湖湖畔の旧市街エリアには有名時計ブランドのブティックが立ち並び、郊外には巨大な時計工場がいくつもある。

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「ヴァシュロン・コンスタンタン」は、新コレクション「フィフティーシックス」の世界観を表現。

この地で毎年1月に開催されるのがS.I.H.H(Salon Internationalde la Haute Horlogerie)だ。参加するのは、高級時計コングロマリット「リシュモン」傘下のブランドが中心。盟主カルティエを筆頭に、ヴァシュロン・コンスタンタンなど時計愛好家が憧れる本格派やヴァン クリーフ&アーペルのようなハイ・ジュエラー、そして今年からはエルメスも参加している。こういったビッグメゾンだけではなくジュネーヴ界隈で活動している小規模ブランドのスペースも用意しており、あらゆるジャンルの新作高級時計を見ることができるのだ。

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「ピアジェ」のブースは、水の張ったプールとバーをしつらえ、リッチなライフスタイルを演出。

招待された世界中のリテーラーやジャーナリストのみ(最終日のみ一般開放される)が入場できる会場内には、新作の世界観に合わせて時計ブランドがブースを作る。各社の気合いが伝わってくる会場の中で、特に目立った動きが"時計のハイエンド化"である。そもそも高級時計の世界では、高難度の付加機能を追加した複雑時計の人気は高い。しかしさらにその上を行く独創的なメカニズムを持つハイエンドウォッチが、続々と登場しているのだ。

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「ヴァシュロン・コンスタンタン」は、新コレクション「フィフティーシックス」の世界観を表現。

このような状況を生み出したのは、皮肉にもスマートフォンの影響が大きい。便利なスマートフォンによって正確な時間が分かるようになり、腕時計は生活必需品ではなくなった。しかし"現在時刻を知る実用品"という頸くびき木から解き放たれたことで、腕時計はデザインや素材、機構などのセオリーから自由になった。より精密な計測を可能にしたり、極限の軽さや薄さを追求したり、特殊な時刻表現を提案したりと、自社の技術を表現する場として、ハイエンドウォッチが作られるようになったのだ。

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「A. ランゲ&ゾーネ」は、目玉となる「トリプルスプリット」の巨大模型を展示。

この現象は、ある種の"先祖がえり"ともいえる。そもそも時計とは宇宙や月の動きから導き出された"時間という概念"を機械仕掛けで表現したものであり、かつてはガリレオ・ガリレオやクリティアン・ホイヘンスといった天才学者たちも時計製造に携わっていた。機械工学、天文学、物理学などを集約した叡智の結晶であり、人類が手にした
最初の複雑な機械だった。その希少性と価値の高さで、世界中の王侯貴族を熱狂させたのだった。

現在のハイエンドウォッチもまた、最先端の素材や加工技術を駆使して作られる叡智の結晶といえるだろう。だからこそ、人々の知的好奇心を引き付けてやまないのだ。

NEW MODELS
過激な進化を遂げたハイエンドウォッチたち

今年も数多くの新作モデルが発表された。もちろん手に取りやすい価格帯のモデルも少なくないが、オクタン読者であれば、興味がわくのはハイエンドウォッチだろう。特殊な素材やメカニズムを搭載し、知的好奇心を刺激する世界最高峰のハイエンドウォッチをご堪能あれ。

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VACHERON CONSTANTIN
ヴァシュロン・コンスタンタン

メティエ・ダール・レ・アエロスティエバニョル1785

1755年創業というジュネーヴ最古の時計ブランド。数々の複雑機構を得意とするが、その一方で失われつつある古典技法(メティエ・ダール)も大切に守り続けている。このモデルは18世紀後半に誕生した熱気球がテーマ。パウンス装飾と呼ばれる彫金仕上げで熱気球を表現し、半透明のプリカジュール・エナメルで背景を作っている。針は存在せず、4枚の回転ディスクを使って時刻とカレンダーを表示する仕組みだ。

自動巻き、18KWG ケース、ケース径40㎜、ケース厚12.74㎜。
世界限定5本。ブティック限定。時価(2018年4月以降発売予定)

ヴァシュロン・コンスタンタン
Tel:0120-63-1755
URL:www.vacheron-constantin.com/jp/home.html

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GIRARD-PERREGAUX
ジラール・ペルゴ

ミニッツリピーター トライアクシャル トゥールビヨン

1791年に創業した名門マニュファクチュールは、技術力の粋を集めた新作をリリース。このモデルは重力の影響をキャンセルするために、脱進機と呼ばれるパーツ群を回転させるトゥールビヨン機構を搭載。しかも縦にも横にも回転させるために、巨大ドーム型の風防ガラスを採用した。さらにハンマーとチャイムで音を奏でて時刻を教えるミニッツリピーター機構を、12時位置に収めた。これらの機構を全て見せるために、ムーブメントはスケルトン構造で設計。

手巻き、Ti ケース、ケース径48㎜、ケース厚
21.24㎜。4689万円(予価/2018年6月発売予定)

ソーウインド ジャパン
Tel:03-5211-1791
URL:https://www.girard-perregaux.com/ja

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AUDEMARS PIGUET
オーデマ ピゲ

ロイヤル オーク オフショア・グランドコンプリカシオン

1875年に創業以来、家族経営を守り続ける稀有な独立ブランド。今年は主力コレクション「ロイヤル オーク オフショア」が25周年を迎え、ハイエンドウォッチが発表された。このモデルはミニッツリピーター、パーペチュアルカレンダー、スプリットセコンドクロノグラフという複雑機構をブラックセラミック製のケースに搭載し、精悍かつモダンに仕上げている。スケルトン仕上げのムーブメントが作り出す複雑な小宇宙にも目を奪われる。

自動巻き、ブラックセラミックケース、ケース径44㎜。
価格要問合せ 

オーデマ ピゲ ジャパン
Tel:03-6830-0000
URL:https://www.audemarspiguet.com/jp/

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PIAGET
ピアジェ

「アルティプラノ」アルティメート・コンセプト

1874年の創業当初はムーブメント工房だったが、その後オリジナルウォッチの製作を開始。その際に武器としたのが極薄ムーブメントだった。1957年には2㎜厚の極薄手巻きムーブメントCal.「9P」を発表したが、ここで紹介するモデルは、その記録への敬意を込めた"ケース厚2㎜"という究極の極薄ウォッチだ。ケースの裏蓋に歯車などを直接組み込み、サファイアクリスタルは0.2㎜厚。この薄さに合わせてストラップは1.1㎜厚に抑えた。

手巻き、コバルト基のハイテク合金ケース、ケース径41㎜、ケース厚2㎜。
販売未定 

ピアジェ
Tel:0120-73-1874
URL:www.piaget.jp/

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ULYSSE NARDIN
ユリス・ナルダン

フリーク ビジョン

海洋高精度時計で知られるユリス・ナルダンは、1846年に創業。独自性の高い素材や機構が得意だが、中でも特徴的なのが「フリーク」。巨大な分針のお尻側に脱進機がむき出しになっており、1時間かけてダイヤル上を一周して重力が与える悪影響をキャンセルする。ゼンマイを巻き上げる「グラインダー」というシステムも特殊で、小さな腕の動きでも効率的に作用する。次世代の時計であることを表現するため、リュウズはなし。針はベゼルで動かす。

自動巻き、Pt ケース、ケース径45㎜。
1103万円(予価/2018年6月以降発売予定)

ソーウインド ジャパン 
Tel:03-5211-1791
URL:www.sowind-japan.jp/

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IWC
アイ・ダブリュー・シー

ポルトギーゼ・コンスタントフォース・トゥールビヨン"150イヤーズ"

アメリカ人時計技師が創業し、時計業界ではめずらしくドイツ語圏のシャフハウゼンに拠点を構えるIWC。エンジニアリングにこだわり、機能美デザインでも人気が高い。今年は創業150周年という節目を記念して、「ジュビリーコレクション」を発表した。このモデルはゼンマイが発生するトルクを一定にすることで高精度を維持するコンスタントフォース機構を搭載。さらにムーンフェイズは577.5年に1日しか誤差が生じない。

手巻き、PT ケース、ケース径46㎜、ケース厚13.5㎜。
世界限定15本。2916万円(予価/2018年4月以降発売予定)

IWC 
Tel:0120-05-1868
URL:https://www.iwc.com/ja/

文:篠田哲生 Words:Tetsuo SHINODA