512TRは、クリス・ハリスがが昔から、そして今でも最も好きなクラシック・スーパーカーで、9年前に2台目のこの512TRを所有する幸運に恵まれた。彼がこの車を愛する理由はたくさんあったが、最近、別の車で別のことをやってみたいと思うようになり、手放す決心をしたのだという。
記憶を頼りに話をするので少し曖昧な部分があるかもしれないが、と前置きをして、クリスはこの512TRとのなれそめについて語っている。
彼がこの車を買ったのは2013年の夏。YouTubeの『DRIVE』企画がうまく行き、どうしてもまた512が欲しくなった。その3年前に所有していた走行距離6,000マイルの512TRはクリスにとっては綺麗すぎたという。売りに出ていた走行距離52,000マイルの512TRを見つけたクリスは「これだ!」と思い購入したそうだ。
Dick Lovett Swindonを通じて車を購入したのだが、イギリス車には触媒コンバーターがあるはずなのに、プレキャットと呼ばれるものが付いていると指摘された。しかし診断の結果、何も問題はなくクリーンな状態であることが判明。つまりこの512TRは、よりパワーがあり、より手間がかからず、新車時はイギリスにデリバリーされたものではない、おそらくそういうことかもしれない。この車がどこに納車されたのかはクリスは気にしたことはないが、今まで乗った512TRの中で最速であることは間違いないだろうと言う。
これは52台の英国仕様の右ハンドルの512のうちの1台かもしれないし、そうでないかもしれない。右ハンドルであることは間違いなく、正直、ドライビングポジションは“最悪”と表現するのがぴったりだろうとクリスは言う。でも、この遺物のようなスーパーカーは、少しくらい悪いところがあっても、すぐにその車をもっと好きになるところを見つけてしまうという魔力がある。
納車後すぐにクリスは家族でフランスに行き「bread」というショートフィルムを撮っている。これはまだYouTubeに残っているのでぜひご覧いただきたい。
クリスがこの車を所有している間に与えたダメージは、右側のピニンファリーナバッジの下にある小さな擦り傷と、マウンテンバイクのペダルが塗装に当たってできたルーフの擦り傷だけだ。
この車はフェラーリ・スウィンドンとボブ・ホートンで整備を受けていた。仕事が忙しくて12ヶ月間車を動かせず、点検をサボってしまった期間があったこともクリスは正直に教えてくれた。
インテリアはかなり傷んでいる。運転席のボルスターは少し平らになっているし、メーター周りにはどうしてそこについたのかいまだに理解できない傷があるし、時々軋んだりもする。
タイヤはいい。ブレーキも問題なし。販売時には、ボブ・ホートンによるカムベルトのフルサービスが付く予定だ。
エグゾーストは標準のものではなく、“クレイジーなほど”騒がしいこともない。だが、ひとたび5000RPMを超えたときの音といったら、これまで聞いた中でも最高の音色だとクリスは言う。
この車を手放したら「あの重いギアシフトと格闘することがなくなるかと思うと寂しいし(寒いときは決して2ndを試さない)、512TRで外出することもなくなると思うと、実に寂しい」とクリスは語る。語りたいことはもっとあるけれど、この車について語れば語るほど「なんでこんな素晴らしい車を売ってしまうんだ」と思うから、これ以上語るのはもうやめておこう、とクリスは締め括った。
この512TRの走行距離は66,827マイル(107,500km)で、カラーリングはロッソコルサ、右ハンドル仕様だ。この512TRは3月21日まで開催されていたオンラインオークション「Collecting Cars」の「スーパーカー・サンデー」で、102,000ポンド(約1600万円)で落札された。
Collecting Cars
https://collectingcars.com/
オクタン日本版編集部
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