SUVもセダンもハッチバックも向かう先は4ドアクーペなのか?
今年もジュネーヴ・サロンが幕を閉じた。スイス独特の世界中から集まってきた富裕層マネーをあてこんで、スーパースポーツやスポーツカーの出展も伝統的に根強い。が、一方で、ドイツでもフランスでもイタリアでも北欧でもなく、大規模自動車メーカーをもたいなスイスの自動車ショーは、欧州でもっともニュートラルなサロンといわれる。ゆえに各メーカーとも、地元メーカーの陰に隠れて脇役に回るのを避けたい、あるいは地元プレスの偏狭な視点を逃れるべきモデルについては、ジュネーヴを発表の場とすることが多い。
今年も世界中の市場での勢いを反映して、SUVが多かったという見方は多い。でもSUVはブームというより、欧州メーカーにとっても最大ボリューム・ゾーンであるCセグメント辺りでモデルチェンジを迎えたり、電化が次のキーになりつつあるので、もう2周目のブームであることは間違いない。
ジュネーヴ・サロン開幕に先んじて発表されるようになった欧州カーオブザイヤーは今回、ボルボXC40が獲得した。昨年のプジョー3008に続く、欧州COTY史上2番目のSUV受賞だ。ようは、ボディ形式としてジャンルとして、5ドアハッチバックやミニバンと同列のものとしてSUVは定着したのだ。
そう考えると、未だCセグで欧州産ハイブリッドが現実的に市場に供給されていない中で、当たり前のように「電化済み」パワートレインで登場したレクサスUXは、怖い存在となるだろう。具体的に欧州ではモデル末期を迎えたハッチバックのハイブリッド、CT250hを代替するクロスオーバーである。車高はあまり通常のSUVらしい背の高さでもないし、着座位置も低めで乗降性もハッチバックに近い。
おそらくこの先、秋のパリサロンから来年のジュネーヴ、来年のフランクフルトにかけて欧州メーカーのCセグSUVのハイブリッドが目白押しとなるだろう。そこへしれっとレクサスが完成度の高いハイブリッド・パワートレインを搭載するUXを、先んじてカードとして切ってきた意味は大きい。トヨタ・グループとしてはPHEV化はいつでもできる。
かくして欧州メーカーはより上位セグメント、つまりDセグ以上の車格でテクノロジーや先進性を強調する方向となる。プラグイン・ハイブリッド(PHEV)を含む部分的なものからピュアEVのような100フルのものまで、電化が潮流となっているのは数年前からだが、今年はSUVのピュアEVコンセプトが目を引いた。ポルシェのミッションE クロスツーリズモや、アウディのe-tronだ。
日本ではelectrification(電化)はまるで内燃機関がすぐさまモーターにとって代わられEVになるかのように、よく経済紙辺りに勘違いされているが、実際にはパワートレインの中に徐々に電気が入り込んでいくというニュアンスの方が強い。ベントレー・ベンテイガのハイブリッド化は、象徴的といえる。
電化の流れの中で現在、市場に対してもっとも野心的なオファーといえるのは、ジャガーI-Pace(アイペース)だろう。ピュアEVのDセグSUVだ。直接の競合相手は、今回はプロトタイプとして出展されたアウディe-tronや、メルセデスが用意しているであろうEQ Cだが、現実にはテスラのモデルXを打倒するための一台だろう。テスラがSUVを用意していないのが、欧州メーカーにとってはこれ幸いという時期ではある。F-Paceより5cmほど全長は短いにも関わらず、12cmも長い2990mmものホイールベースがサイズ感をややこしくしているが、I-Paceは現在のNEDCサイクルやJC08モードより厳しいWLTP基準で480㎞の自走距離があると、ジャガーは発表している。ただしバッテリー容量が90kWhと大きいせいか急速充電で80容量を入れるにも約45分と、「充電規格の細さ」がやや気になるところだ。
一方で、SUVと室内スペースを競っても仕方がないとばかり、サルーンやワゴンの新作では低ルーフ化がいきおい進んでいる。後席ドアの利便性・実用性は確保しつつも、パリ議定書が課するCO2排出量の削減に向け、前面投影面積は減じて、パワートレインの内燃機関の配分は控えめ方向で多段化やインテリジェント化の先にはPHEVを見すえ、ひたすらエフィシェンシーを重視。それでいてSUVとの差別感のために「4ドアクーペ」の美しさは確保したい。そんなトレンドなのだ。
というわけで新作のサルーンやワゴンは市販モデルだというのに、どれも過激なほどの車高の低さといっていい。その代表格といえるのはDセグの2台、プジョー508とボルボV60だ。ちなみに今回は発表されなかったセダン版S60はアメリカ工場で生産され、ボルボ伝統のステーションワゴンはスウェーデンで生産することで、輸送経路を圧縮するという。
V60のプロジェクト・マネージャー、パトリック・ウィダーストランド氏によれば、その上のE セグ顧客が快適性やエレガンスを重視する傾向に対し、Dセグの顧客はスポーティかつダイナミック性を重視するという。ちなみにボルボV60の全高は1427mm、プジョー508は1403mmと、先代比でそれぞれ6~8cmほど低い。
さらに上のクラスでも、ポルシェ・パナメーラの独壇場となっている4ドアクーペを、BMWがM8グランクーペ コンセプトで、そしてメルセデスAMG-GT 4ドアクーペが追撃することになった。とくに前者はBMWのフラッグシップになると呼び声も高い。
コンセプトカーとて、例外ではない。アストン・マーチンのラゴンダ・ヴィジョン・コンセプトもそれ風だし、VWのコンセプト、I.D.ヴィジョンもいかにも4ドアクーペ風だ。
むしろ初代の頃はクーペ風といわれていた、新しいアウディA6が、クラシックに見えてくるほどだ。
ただしエフィシェンシ―追及や4ドアの実用性はSUVもキープしたい方向性なので、SUVも軒並み4ドアクーペ化しているのが現在のトレンドといえるだろう。実際に本来的な意味でSUVらしいSUVというか、道なき道を行くような走破性自慢のSUVというのは2018年の今、ジュネーヴの新作の中には見当たらない。マイナーチェンジされたBMW X4がその代表格だが、SUVが4ドアクーペ化している傾向がとりわけ強いのだ。
先に述べたポルシェのミッションEクロスツーリズモや、レクサスのLF-1コンセプトはまさしく4ドアクーペのクロスオーバーだし、アルファロメオに追加されたニュルブルクリンク・パッケージも、SUVの峠仕様スペシャリティといえる。
こうしたトレンドを超越したようなところにある、むしろ伝統芸の領域に入りつつあるのが、ポルシェ911GT3RSやフェラーリ488ピスタ、あるいは欧州プレミアを果たしたジープ・グランドチェロキーのトラックホークだ。911GT3RSは、ブランドのアイコン・モデルで自然吸気を究めるというピュアなモデルで、488ピスタはスモール・フェラーリの頂点を究める最新進化形。グランドチェロキー・トラックホークはV8の6.2Lヘミ・ユニットを積み、モパーの伝統を継承する一台で、CO2削減に躍起になっている欧州勢の中で異彩を放っていた。
文・写真:南陽一浩 Words and Photography: Kazuhiro NANYO
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