時は19世紀。若く才能に恵まれたドイツの時計職人モリッツ・グロスマンは友人のアドルフ・ランゲの説得により、1854年に自らの工房を設立。評価の高い時計企業を運営しつつも、政治的・社会的活動にも努め、1878年には時計学校を開いた。しかし、1885年の突然の死とともに、彼の時計マニファクチュールも解体された。
それから120年の時を経た2008年、時計師クリスティーネ・フッターが、かつてのグラスヒュッテでのグロスマンの時計ブランドに出会い、再び立ち上げることにしたのだ。そして、単に歴史を模倣するだけでなく、構想を練り、最新の技術と高品質の素材を用いて、新たな伝統を21世紀に作り上げている。
そのような経緯のある同ブランドの2モデル、「ベヌー・トゥールビヨン」と「アトゥム・エナメル」が、2018年度の「レッド・ドット・デザイン賞」を受賞した。
同賞はiF賞(ドイツ)、IDEA賞(アメリカ)と並ぶ世界3大デザイン賞の一つで、60年以上の歴史がある。デザインの革新性、機能性、人間工学、エコロジーなど、9つの厳格な審査を通過した製品のみに賞が与えられ、今年度は、59か国から48のカテゴリーで6000以上の応募があり、その中からの受賞となった。
1つ目の受賞モデルである「ベヌー・トゥールビヨン」は、ホワイトゴールドケースにブラックダイヤルが合わせられており、2016年に世界限定10本で製作された。このタイムピースは、いくつかのユニークな特徴と複雑な機構を備えている。
例えば、毛髪ブラシでテンワに負荷をかけることなく優しく止めるストップセコンド機能や、3分間かけてゆっくりと回転するフライングトゥールビヨン。独自のV字型ブリッジの16mm径の大型キャリッジは、25分から35分の間のミニッツレールを横切る大きな円窓からその全体像を見ることができる。
分針がトゥールビヨンの円窓を通過している間は、2つのサブダイヤルの間に設けられた目盛りが補完しているため、分針のカウンターウェイトで正確な時刻を読み取ることが可能だ。これは特許が申請されている。
また、秒針が揺れるのを防ぐ四番車の軸のブレーキリングには、石のように固く、そして樹脂に富んでおり、潤滑油を必要としない木材「ユソウボク」を使用している。
もう一つの受賞モデルはローズゴールドケースの「アトゥム・エナメル」。このモデルは2017年に世界限定25本で発表された。伝統的なグラン・フ―エナメル文字盤にはクラシカルなローマン文字のインデックスが合わせられている。
シンプルなデザインにモダンな個性を添えるのは、1文字だけブルーで刻まれた12時のインデックスだ。そして、職人の手により形作られた、モリッツ・グロスマンの象徴とも言えるブラウンバイオレットに焼き戻された美しい針が純白の針をさらに彩る。
どちらの時計も上質である上に、職人による高い技術と美しいデザインが組み合わされており、権威ある賞を受けるのにふさわしいモデルだ。
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