名前はズバリ「12気筒」!フェラーリ「12Cilindri」(ドーディチ・チリンドリ)はデイトナへのオマージュなのか?

Ferrari

最近のマラネッロは予測不可能なことばかり起きる。他のスーパーカーブランドがここのところたいてい“予想通り”の商品展開をみせているのに対して、フェラーリには“いい意味で”裏切られてきた。マラネッロで行われた今回のプレス・プレビューもまた驚かされっぱなし。実際、驚くプレスを見て彼らはとても喜んでもいるようにも見えた。

まずはその名前で驚かされる。「12Cilindri」(ドーディチ・チリンドリ)。英語で12シリンダー、日本語で言うならズバリ、“フェラーリ12気筒”である。あまりにもストレートなネーミング。もっともフェラーリの名付け方を歴史的にみればほとんど“勢いまかせ”で“えいや!”と決めているかのようで、「ラ フェラーリ」(ラはイタリア語のザ、the)なんてのもあったくらいだから、もはや驚く方が悪い。本当はF12トリビュート的な名前がふさわしかったのかもしれないけれど、そこはマラネッロらしく12気筒エンジンへの敬意(過去)と意気(未来)を込めての直接的なネーミングになったと言えそうだ。

812の後継モデルには12気筒自然吸気エンジンが継続して積まれるらしい。そんな噂が流れ始めたのは昨年のこと。F140HBエンジンを積んだ「812コンペティツィオーネ」が最後のNA12気筒搭載モデルか、と思っていた我々メディアやカスタマーにはそれが最初の驚きで、この名称はいわばダメ押し。しかもF140HDと呼ばれるこのV12はユーロ6E対応の新開発もので、最高出力はF140HBと同じ830CV/9250rpm、最高許容回転数も同じく9500rpmとした(ちなみにF140HCはデイトナSP3用だ)。最大トルク値のみ若干下げたが、これは主に排気系を諸々の規制に対応すべく“改良”したため。しかもまったく新しいトルク制御システム(Aspirated Torque Shaping)や8DCTのプログラム変更によって実質的には強大なトルク性能と走行フィールを確保するという。



名前だけじゃない。マラネッロの最もシークレットなエリアであるチェントロ・スティーレ(デザインセンター)に駆けつけたメディアが最も沸いたのは、やはりそのスタイリングが披露された瞬間だった。



筆者の第一印象は生まれ変わった“デイトナ”。低く尖ったノーズにサイドからフェンダーへと至るライト周りの形状はもちろんのこと、黒いセンターのパネルなどもデイトナ初期のプレキシノーズスタイルを彷彿とさせる。なんならライト周りのデイタイムライトの入ったフィンが分割バンパーのようにさえ見えてきた。フロントセクションだけじゃない。サイドには幅のある段差が水平に走っていて、ふくよかなリアフェンダーで断ち切られているあたりもそっくり。ルーフからリアエンドへと流れるやや膨らんだ形状もデイトナのお尻を思い出させる。





もっともチーフデザイナーのフラビオ・マンツォーニはメディアのインタビューに答えて、“「365GTB4」のオマージュではない”、と言い切った。デザインの開発そのものは4年前にスタートしており、その間にその名も「デイトナSP3」という限定車さえ登場している(しかもFRではなくMRだった)。ヘリテージを重要視しつつ、社会的な要請にもマッチした未来志向のブランドであることを印象付けるためにも、この新型12気筒は単に過去のオマージュモデルであってはならない、という思慮が働いたのかもしれない。



もちろん「12Cilindri」のデザインには、そういう意味ではこれまでになくぶっ飛んだデザインエリアも存在する。リア斜め上からのデザインを見てほしい。とんでもなくユニークではないか!フラビオはこれを“デルタ・ウィング・シェイプ”と呼んでいた。ガラスルーフとリアガラス、そして2枚のリアフラップがブラックトーンで統一されている。カーボンパーツに変えることも可能だが、(今のところ)ボディ同色は禁じ手らしい。





インテリアにも驚かされた。このところのフェラーリは「ローマ」、そして「プロサングエ」とコクーン的なデュアルコクピットスタイルを好んで使っていたが、それがかくも極まった。ハンドルを除いてほとんどシンメトリーな左右独立スタイルで、助手席のモチベーションも爆あがりしそう。しかもシートの下にはレザーのカーペットが!なんとゴージャス。21世紀で最も刺激的な跳ね馬コクピットだと思う。





新型FRの開発テーマはスポーツとエレガンスの高レベルでの融合である。最新のフェラーリはそのレンジをドライバー主体で決定しており、最も“甘口”がスポーツドライバーで「ローマ」や「プロサングエ」が属する。いっぽう、”辛口“がパイロット(レーシングドライバー)だ。「SF90XX」を究極に、「SF90ストラダーレ」や「296GT系」といったミドシップカーがそれに続く。はたして新型FRの「12Cilindri」はそれらのちょうど中間に位置付けた。

最後のデザインセッションに移った。もう実車は見てしまったから驚くことはなさそうだ。“次に驚かされるのはきっと試乗会で、だろうね”などと軽口を叩いていたら広報担当が苦笑いした(ように見えた)。普段はカスタマー向けの“アトリエ”(テーラーメードまでいかない軽めのオーダーメードルーム)として使われている部屋に案内され、もう一度驚く羽目になった。なんとそこにはスパイダーモデルの用意もあったからだ。









フェラーリが12気筒のシリーズモデルでクーペとオープンを同時に発表するのは史上初である(812コンペやSF90XXは限定モデル)。



生産は今年度の第4Qに始まる。スパイダーは来季の第1Qからだ。おそらくその頃までに812コンペティツィオーネやプロサングエといった現行型V12モデルの生産が終わることになるだろう。ちなみにクーペのイタリアでの価格は39.5万ユーロ〜である。
 
 
文:西川 淳 Words: Jun NISHIKAWA

西川 淳

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