イタリアを代表する御曹司が特注した、ミリタリー仕様のフェラーリ458イタリア!?

Simon Gosselin ©2024 Courtesy of RM Sotheby's

イタリアを代表する華麗なる一族といえば、フィアットを創業したアニェッリ家であろう。フィアット社を通じて1969年にはフェラーリとランチアを、1986年にはアルファロメオを、そして2009年にはクライスラー(破産申請後)を買収している。そして誕生したフィアット・クライスラー・オートモーティブは、フランスのグループPSAと共同出資でステランティスを設立しているので、アバルト、アルファロメオ、クライスラー、シトロエン、ダッジ、DS、フィアット、ジープ、ランチア、マセラティ、オペル、プジョー、ラム・トラックス、ボクスホールと14ブランドが傘下に収まっている。フェラーリはご存じの通り、単独で上場を果たしているのでステランティスとは無関係であるが依然、ネクソ―ルが大株主として君臨している。

そんなステランティスの14.9%の株式を「ネクソ―ル」というアニェッリ家の実質“資産運用会社”と呼べる投資会社が所有しているのだ。アニェッリ家の当主はフェラーリの会長やステランティスの会長を務める、ジョン・エルカンである。もちろん、ジョン・エルカンはネクソ―ルのCEOも兼務しており、同社を通じてセリエAのユベントス、イタリアの産業用車両メーカー「イヴェコ・グループ」、イギリスの老舗経済雑誌「エコノミスト」なども所有している。…と聞けば華麗なる一族ぶりが通じるだろうか?なお、苗字が異なるのは母親の結婚に伴い、父親の姓を名乗っているからだ。

そんなジョン・エルカンの弟、ラポ・エルカンは高校卒業後、アニェッリ家の伝統に従いイタリアのバイクメーカーであるピアッジオ(1999年までアニェッリ家が大株主)の生産工場でルポ・ロッシという偽名で下働きをはじめ、大学卒業後はヘンリー・キッシンジャーの私設秘書、金融機関であるソロモン・スミス・バーニー、食品メーカーであるダノンなどでの勤務経験もある。やがてフェラーリ、マセラティのマーケティング部門で研鑽を積み、フィアットのマーケティングを担当することに。2007年に投入されたいわゆる新生フィアット500の世界的マーケティングを担当したのは、ラポ・エルカンであった。



そんなラポ・エルカンが特注したフェラーリ458イタリア“アーミー”が5月10日から11日にかけてモナコにて開催される、RMサザビーズに出品されている。カモフラージュ柄に包まれた458イタリアはラッピングではなくペイントだ。エンジンカバーもカモフラージュ柄で、インテリアの本革にもカモフラージュ柄があしらわれているこだわりよう。インテリアに一般的にカーボンパネルが配される箇所には、カモフラージュ柄のケブラーが奢られている。そして、両フロントフェンダーのドアに近い場所に配される“跳ね馬”のロゴは、メタルペイントが施されたピースマーク(平和マーク)があしらわれている。











ラポ・エルカンによる特注は458イタリアが初めてではなかった。2トーンの599では、デニム生地をインテリアやシートに用いたことで話題を呼び、ソーシャルメディアでバズったことが記憶に新しい。そういう意味で、ラポ・エルカンは真のセレブでありながら、インフルエンサーとしての役割をきちんとこなしていた人物である。当時、フェラーリの顧客にパーソナライゼーションを可能にする「テーラーメイド」部門を立ち上げたのが、ラポ・エルカンだと言われている。

ラポ・エルカンはセレブなプレイボーイとしてゴシップ誌を賑わせてきただけでなく、控えめに言って“ヤンチャ”で薬物疑惑どころか虚言誘拐まで企てたことまで… 型破りな私生活は兄への反動なのだろうか、と傍目からは邪推されたものだ。そんなラポ・エルカンだったが、2017年にはフェラーリ社の取締役に就任し、“まもなくフェラーリのCEOに就任か?”とも噂されたが数年でひっそりと退任。自身が設立し上場までこぎつけた、イタリア・インディペンデントというサングラスや衣料品ブランドも、いつしか手放し現在は開店休業だと噂されている。「これからはアーティストとして生きる」とやや意味不明な記事が2カ月前に名門『フィナンシャルタイムズ』で取り上げられていたが、これは生存証明だったのだろうか…?

もとい。

ラポ・エルカンが特注した458イタリアは2016年に本人によりニューヨークで開催されたチャリティ・オークションに供され、なんと100万ユーロで落札された。翌年にはRMサザビーズがイタリアで開催したオークションに出品され、38万5250ユーロで落札。2017年に出品された際の走行距離は1万8760 kmだったが、今回の出品では2万4482㎞となっている。落札予想価格は25万~35万ユーロと見積もられているが、果たしていくらで落札されるのか見ものだ。破天荒な御曹司の特注車両は、いずれ歴史的価値を持つ車両へと昇華する、と個人的には思っている。



文:古賀貴司(自動車王国) Words: Takashi KOGA (carkingdom)
Photography: Simon Gosselin ©2024 Courtesy of RM Sotheby's

古賀貴司(自動車王国)

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