まず姿を現したのはベアシャシーだった!|フェラーリの新たなスーパーカー「F80」発表の瞬間

Ferrari

お披露目の会場はいつものチェントロ・スティーレではなく、今年完成しフル稼働を待つばかりのEビルディング2階であった。施設の見学を終え、F1マシンSF24の置かれたラウンジでエスプレッソを啜って待つ。カメラというカメラに赤いステッカーを貼られ、厳戒態勢のなか、プレゼンテーションルームへ入った。

赤いスペチアーレが5台、並んでいる。言わずと知れた288GTO、F40、F50、エンツォ、ラ フェラーリだ。フリーランス・ジャーナリストとして、すべてのモデルに試乗経験があることを誇りに思うとともに、第6世代のデビューにこうして立ち会えたことも感慨深い。



時間が来た。扉が開く。着席して時を待つ。

いつものようにエンリコ・ガリエラのスピーチから始まった。彼が言いたかったことはひとつに集約される。新型スーパーカーは、全く新しいコンセプトを持ち、そのバックグラウンドの中心にはフォーミュラ1があって、そこで勝ち得た技術の集大成として誕生したのだ、と。

開発部門のトップ、ジャンマリア・フルジェンツィは当然の如く凄まじいパフォーマンスを誇る新パワートレーンについて語り始める。3リッターのV6ツインターボは大型のIHI製タービンを備え、モーターによって駆動するマラネッロ初の電動ターボとした。エンジン単体で驚異のリッター300cv。これに前2+後1基の電気モーターによる計300cvを加えたシステム統合の最高出力は1200cv。ちなみに重量は1525kg。

0-100km/h加速2.1秒から始まり、100-0km/h減速29mまで、“公道を走っていいクルマ”としてはとてつもない数字が並んだ。これは凄いロードカーになりそうだ。極め付けの数字は、フィオラノ・ラップタイム。なんと、1分15秒3。十年一昔、ラ フェラーリを4秒以上引き離すのみならず、スリックタイヤを履いたチャレンジなどレーシングカーとほとんど並ぶ数値だという。
あな恐ろしや…

チェントロ・スティーレのボス、フラビオ・マンツォーニによるデザインの説明が始まった。まったく新しいスタイルを作り上げる。そのために彼らがスタートポイントとしたのは“ドライバー”だ。そして、それは必然的に“シングルシーター”が起点となることを意味する。

そうすればキャビンを可能な限り小さくできて、空力的にも何かと都合が良い。最近のチェントロ・スティーレはデザインのモチーフを空や宇宙を旅する乗り物に求める傾向が散見されるけれども、今回はズバリ、ジェットファイターのキャノピー。とはいえ、まさかロードカーをシングルで出すわけにはいかない(あってもいいし、あったけれど)。そこでフラビオは解決策を見出した。ドライバーがシングルシーター気分を味わえつつ、もう一人座らせることができて、尚且つキャノピー的なデザインに収束できる手法を…

あっと驚くなかれ、それは助手席をシートの厚さ分だけ後ろに、というか助手席用シートそのものをモノコックボディと一体として配することで、ドライバーからすれば助手席の存在が薄まり、左右の幅を絞れることでキャビンの大きさもよりコンパクトにできる。エンリコはその様子を指して、「2シート・シングルシーター」と表現した。



もちろん、エアロダイナミクスもまた新型モデルのデザイン面で最優先に考えられたものだった。否、(実物を見た後では)最優先どころかそれしか考えなかったようにも思われた。

いよいよ、新たなスーパーカーが姿を現そうとしている…

車名が告げられた。その名はF80。車名3択クイズとして出回っていた答えのひとつ。その意味はもちろん80周年。生産が25年末から始まり27年で終わることから、27年の80歳アニバーサリーを記念する名前とした。

まず姿を現したのはベアシャシーだった。マラネッロがこんな演出をすることも珍しい。よほど中身に自信があるということか。否、それならいつものことだろうけれど?



その姿を見て理由がわかった。カノジョのハダカが神々しいまでに美しいのだ。これは見せずにはいられない。

続けてボディシェルを被せた赤いF80が登場する。そしてさらに理解が進んだ。なるほど、ほとんどレーシングカー的であり、そこに例えばデイトナSP3のようなエレガンスはまるでない。あくまでもシンプルに、まるで板かまぼこのようなシンプルさの上半身に、フロントからリアまでぐるりとエアロダイナミクスを駆使した下半身の組み合わせ、恐ろしく低く傾斜したキャノピーに可変式リアウィングというスタイルは、もはや公道には似合わない。誤解を恐れずに言えば「速いクルマは美しい」という時代が終わったようにも思えた。





もちろん、カンファレンスが終わって真っ先に向かったのは奥に置かれたベアシャシーだった。ホイールベースはラ フェラーリと同じながら、タブと床下はF1のよう。前後のパワートレーンも相当コンパクトにまとめられており、そこにマルティマチックと共同開発したアクティブダンパーシステムが収まる。サスペンションに注目すれば、最近流行りの3D金属プリンター製アッパーアームが目に留まった。



リアのV6ハイブリッドパワートレーンはかなり低く配置されており、そのためリアデュフューザーのスペースを稼ぐべく、1.3度傾けられたという。



前から眺めると、そのスタイルはさらに“異様”だった。昔のカンナムマシンのようにノーズからシールドにかけてカウルが滑らかに上がっていく。あまりにシンプルすぎたから、だろうか?ドーディチ・チリンドリ風のデイトナマスクがなかば無理やり組み込まれていた。ヘッドライトはブラックアウトされた中に沈んで、一見、ノーライト風だ。これまたレーシングカー的に見える要因だろう。



フェンダー周りはF40をモチーフにしたというが、ドア周り以外の造形がこれまたシンプル。リアに至ってはまるでロボットフェイス。もちろんデザインの良し悪しは好みである。スーパーカーらしさの定義がまたマラネッロによって変えられようとしているのかもしれない。価値観を含めた“世代交代の画策”とも言えるだろう。





その夜。すでに購入権を持つという複数のオーナーと会うことができた。マラネッロはプレス発表を前に600人ほどのポテンシャルカスタマーを招待し、同じように見せていたのだ。ただし、車名と値段(台数)を秘して。

「ベアシャシーを見た瞬間、これは買わなければならないと思った」、「ボディを被せないで走らせたい」、「この中身に好きなデザインを被せるワンオフが最高かも」、などと皆、言うことは同じだった。ただし、デジタライズされた若い世代はスタイルも肯定的で、アナログ上等な旧世代ほど疑問符が増えるようだ。

日本からは60人程度がマラネッロを訪れたらしい。ちなみに気になるお値段は、ビリオネアも驚くことだろう、なんとなんと3.6ミリオンユーロ。世界限定799台と、これまでに比べて多いと感じるのは、ひょっとしてアペルタがないから、だろうか?F40のように?その代わり、F40にはLMがあった。電気モーターの出力増には余裕がありそうだ。F80LMなんてのが出てくれば、面白いことになると思う。

マラネッロはいつも我々の想像を超えてくる。これだけは今も昔も、変わらない。




文:西川 淳 写真:フェラーリ
Words: Jun NISHIKAWA Photography: Ferrari

西川 淳

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