手作業で造り上げられたサラブレッドを「復刻」│待ち受ける困難

Photography:Paul Skilleter and Jaguar Heritage

ジャガー・クラシックがXKSSを"復刻"。そのプロトタイプの製作現場に潜入し、伝説をよみがえらせる仕事がいかに困難なのかを目の当たりにした。

ワーウィックシャーの工業団地に位置する無名のワークショップでは、作業最終日を迎えていた。外に停まる数台のジャガーやランドローバーのほかは、中で行われていることをうかがわせるものはない。そこでは、ジャガー・クラシックの復刻版XKSSのプロトタイプ、"カー・ゼロ"の仕上げに6人のスタッフが取り組んでいた。空気はピリピリと張り詰めている。

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私たちが取材した2016年10月末、カー・ゼロは間近に迫ったロサンゼルス・オートショーで公開するための作業が大詰めだった。9台の"プロダクションモデル"は2017年2月頃から納車が始まる計画だ。詳しくは後述するが、その60 年前、1957年2月12日の夜に、コヴェントリーのブラウンズレーンにあったジャガー本社の組立て工場が火災に見舞われ、壊滅的な被害を被ってしまった。この災難によって、XKSSの生産は予定していた25台のうち16台だけで打ち切られた。

「長いティーブレイクを取ったようなものですよ」とプロジェクトリーダーのケヴ・リッチーズは語り始めた。ケヴはジャガーに40年以上勤めるエンジニアで、余暇は自宅でCタイプのレプリカを造ることだという。

「確かにイギリス人のティーブレイクは桁違いに長い」とジャ
ガー・クラシックのディレクターでドイツ生まれのティム・ハンニッヒも調子を合わせた。二人の話はXKSSの歴史から始まった。まず押さえるべきポイントは、XKSSがDタイプをベースに生まれた点だ。Dタイプの売れ行きが陰り始めた1956年末に、残った25台をスポーツカーにコンバートすることが決まり、XKSSと名付けられた。



そんなときに前述の火災が発生し、コンバート前のDタイプ数台と製造用工具の大半を焼失した。無事に完成したのは16台にすぎなかった。

16台の中でも最も有名なのが、スティーヴ・マックイーンが愛用した車だろう。現在はピーターセン自動車博物館に収蔵されており、その価値は2500 万ポンド以上。他のXKSS でも800万ポンド前後の値が付く。復刻される9台はすべて売約済みで、価格は100万ポンド強だ。「今回は当時より多くの車がイギリスに残ります」とケヴが教えてくれた。

100万ポンド強とは、顧客にとってもジャガー・クラシックにとっても理にかなう金額だろう。XKSSの復活に挑んだチームは、2013年に50周年を迎えたライトウェイトEタイプを6台復刻した経験を持つが、それにも関わらず実現に至るまでは平坦な道のりではなかった。

「理由はパーツが残っていないからですよ。そのせいで、ライ
トウェイトEタイプよりはるかに困難でした」と、カー・ゼロの最終組立にあたっていたエンジニアのリチャード・トレーヴスが貴重な休憩時間に話してくれた。

チームは、ケヴとリチャード、ニール・グラント、デビッド・マーシャル、フィル・ハーウッド、サイモン・ニューマンからなる。この取材の2カ月前には、まだ塗装や内装の済んでいないカー・ゼロをゲイドンにあるジャガー本社のテストコースに持ち込んで、初テストを行った。タイヤに干渉するパネルを少し修正し、ブレーキバランスを調整すると、走りは上々で、かつてジャガーのテストドライバーだったノーマン・デュイスにも大いに気に入られた。

その後、カー・ゼロはいったん解体され、塗装して再び組み立てられた。出荷の期日まで24時間を切った現時点でも、まだ調達して取り付ける必要のあるパーツが残っていたという。さらに2日前には、ミシンやリベット留めの音がワークショップに響きわたっていたようだ。ここに来れば、手作業で造り上げられた歴史的なサラブレッドを正確に再現することがいかに困難な仕事であるかがよく分かる。

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO( Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Paul Skilleter Archive

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