クルマを長く楽しむための新たな試み|自由で自立した生活を続けるために

大里研究所主席研究員に就任した大里真幸子博士(中央)。スイスジュネーブのコレージュ・ド・レマン、米国カリフォルニア州ウィティア大学卒業後、大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了している。専攻は血液・腫瘍内科学。様々な分野に精力的な活動を続ける林幸泰理事長(右)をメディカルフード(FPP)の研究開発を通してサポートしている。

人生100年時代を見据え、予防医学による医療費削減をテーマにパパイヤ発酵食品FPPの研究を続けている大里研究所の林幸泰理事長。英国車を中心にしたクラシックカーの愛好家でもある彼に、クルマを長く楽しむための歳の重ね方についてオクタン日本版編集長の堀江史朗が話を聞いた。


運転における脳へのストレス軽減とエネルギー供給


林 幸泰(以下 林) 日本人の平均寿命は男女ともに80歳を超えましたが、長生きしても病気やケガで寝たきりでは人生を謳歌することは難しい。リタイア後や 80代になってもいかに元気に動ける状態を維持できるか、それが大事なテーマになっている時だと思います。

堀江史朗(以下堀江) そうですね。オクタン日本版の読者の皆さんにも、シニア世代になりどうやってカーライフをエンジョイしていくか、それを考える時期に来て、内心そう思っている人も多いかもしれません。

林 大里研究所は、アストンマーティンレーシングのパートナーを約20年務めていますが、そのきっかけを作ったのは私の友人であり、当時アストンマーティン・ラゴンダ社 CEOを務めていたドクター(Dr.)・ウルリッヒ・ベッツです。Dr.ベッツはポルシェ時代にパリ・ダカールに挑んでいましたが、2週間という長く過酷なラリーでは、マシンの状態は維持できても生身のドライバーの健康管理は難しかったそうです。

いかにレース中のコンディションを整え、頭をきちんと働かせミスを少なくできるか、彼はそのための方法を常に探していました。車内にイオン系エアを取り込んだり、いろいろな空気清浄機を試したり、フリーラジカルが身体に及ぼす影響 (酸化ストレス)についても勉強していたそうです。その折、抗酸化機能を高めるFPPに興味を持った彼から、2005年にアストンがル・マンにカムバックするから一緒に組もうと誘われたのです。

アストンマーティンレーシングとのパートナー関係は長く続き、ル・マンほか耐久レースにおいて何度も表彰台を確保している。

林理事長が今も大事にするのはアストンマーティンDB7ヴォランテ。アストンマーティン初の V12気筒エンジンはコスワース製であり、今やとても貴重である。

堀江 そこから、アストンマーティンレーシングとは長く良い関係を続けてきたわけですね。

林 はい。ル・マン24時間レースでは、ドライバーを対象にした臨床研究も行いました。 Dr.ベッツの狙い通り、FPPによりドライバーの酸化ストレスは軽減されることがわかり、2007年、2008年とクラス優勝を果たしました。FPPを食べていると24時間レース後も頭がクリアで普通に運転ができたとドライバーたちが言うのです。これは、酸化ストレスによる脳の炎症がFPPにより抑えられたからではないかと考えました。

大里研究所では、認知症予防による医療費削減を目指してFPPによる脳機能の改善についても臨床研究に取り組んでいます。超高齢社会における医療費削減において、認知症予防が社会的かつ経済的に最も効率が良いと考えたからです。というのも、認知症は未だ根本的な治療薬がないため、予防が大切です。FPPは、抗酸化機能の向上や抗炎症作用が明らかになっています。そこで、日本古来の発酵技術により開発されたFPPによる一助の可能性を考えたわけです。

我々は、加齢とともにエネルギー代謝が低下していき、身体には常に小さな炎症が起きるようになりますが、エネルギーが枯渇すると炎症を抑えることが難しくなります。また、運転中はエコノミークラス症候群に近い状態で体内の循環も悪くなります。長距離ドライブなどで脳を酷使する時や疲れている時に、エネルギー代謝を助け炎症を抑えるFPPのメリットが顕著に感じられるのはそのためです。

堀江 その効果はシニア世代により良く表れるということですね。

自由で自立した生活を続けるために


林 私は運転が好きで、比較的長い距離を走ります。でも誰もがいずれ歳をとり運転ができなくなる時が訪れます。大里研究所のある、ここ岐阜県・大野町のような、いわゆるカントリーサイドは日本のいたるところにあります。こういった郊外では公共交通機関が発達していないので、車に乗れなくなるのは死活問題につながります。もちろん高齢者の運転は安全問題を引き起こす可能性がありますが、では高齢者はすべて免許を返納すべきかというと、そんな単純な問題でもない。

堀江 できるだけ長く自由に移動できる自立した生活ができることが理想ですよね。いま75歳以上の方を対象にした認知機能検査と高齢者講習がありますが、具体的にどれくらい衰えてきたのでどうするべきか、それを示すには不十分です。

林 大切なのは自動車の運転技術の評価方法やテスト訓練手法を確立していくことです。ベテランドライバーでも実際に道を走ってみて、「今回は80点ですね」といったように客観的な評価を知ることで、自身の補うべきポイントが見えてくる、それをクリアするために努力をする、そういったシステムが必要という意味です。

大里研究所のある岐阜県揖斐郡大野町は富有柿の産地として有名でもあるが、農業従事者の高齢化によって休耕地が増えてきた。町役場から相談を受けた大里研究所では、地域でリタイアした人が生きがいをもって働ける場があれば認知症予防につながるのではないかとワイン用のブドウ栽培を提案。オリジナルの ORIワイン醸造も軌道に乗ってきたという。常に林理事長は予防医学を念頭に活動を行っている。

堀江 免許を取り上げるための試験ではなく、科学的な視点に立った評価をして、長く安全に運転を出来るようにしていくということですね。

林 クラシックカーやハイパーカーが好きな方は車に多くのお金を掛けますよね。でも脳や身体のケアに同じだけ気を使っているかと言えば、正直なところそうはお見受けしません。健康を維持して病気にならないのが一番ですが、人間ですから限界はあります。それまでをどうやって元気で車に乗り続けられるか、社会問題にもなりうる課題をクリアしていく必要があります。

堀江 衰え方もひとそれぞれです。いかに運転に必要な体力や認知機能を衰えないようにするかということに加え、自分の能力を客観的に認識して、その能力に応じた運転技能を学び直すことも大事ですね。

林 そういう活動は残念ながら予想以上にどこもまだ対応できていません。元気な人ひとほど相談もしにくい。歳を重ねても自由で自立した生活を目指し、FPPによる運転技能の維持について研究を地元の大学と連携して進める一方で、オクタン読者のかたを含め多くのかたと、末永くクルマを楽しむ方法を話し合っていきたいですね。




研究所スタッフと大里真幸子主席研究員。


問い合わせ:大里研究所
www.ori-japan.com
Tel:0585-34-3830


文:オクタン日本版編集部 写真:榎並智和 Words:Octane Japan Photography:Tomokazu ENAMI

オクタン日本版編集部

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