マセラティグレカーレに「モデナ」と「トロフェオ」の2モデルが投入。その走りは?

Ryota SATO

アルフィエーリ・マセラティとその兄弟が、イタリア・ボローニャで自動車工房を始めたのは1914年のこと。フェラーリよりランボルギーニよりポルシェよりも長い歴史をもつ、来年には創業110年を迎えるのがマセラティだ。

マセラティのルーツには、レースがある。マセラティ3兄弟が目指したのは、レースに勝てる車をつくること。フロントグリルの中央に掲げられたトライデント(三叉の矛)のエンブレムは、ボローニャにあるネプチューン像が右手に握っているものに由来するというが、それはマセラティのハイパフォーマンスの象徴となった。

レースをDNAとするダイナミックな走行性能を前提とし、エレガントなデザイン、ラグジュアリーな仕立て、最先端の技術を融合させることで、マセラティは100年以上にわたって、次々と名車を生み出してきた。

2000年代になると、時代の要請に応じてスーパースポーツカーメーカーやラグジュアリィブランドがSUVをリリースするようになった。マセラティもその例にもれず2016年には初のSUVとなるレヴァンテを導入している。

そして今年、マセラティのSUV第2弾となるグレカーレが日本に上陸した。ミストラル、ギブリ、ボーラ、レヴァンテなど、マセラティは伝統的に風の名前を車名に採用してきた。グレカーレ(Grecale)もその伝統をつぐもので、イタリア語で“地中海の北東風”を意味する。これにはブランドの牽引役となるよう思いが込められている。

ステランティスグループのシナジーを活かし、アルファロメオ・ジュリアやステルヴィオなどと同じく、後輪駆動用「ジョルジオプラットフォーム」を採用。ボディサイズは全長4845mm、全幅1980mm、全高1670mmと、コンパクトとまではいえないものの、全長が5mを超えるレヴァンテに比べて日本の道でも使いやすいサイズになった。



ひとめでマセラティとわかるデザインには、実は秘密がある。真正面からそして横から見た際のグリルとヘッドライトの位置関係は、過去のモデルからの引用で、最近のモデルだとスーパースポーツのMC20との類似性がみてとれる。ボンネットとフェンダーの峰にも連綿と受け継がれている同様のデザイン哲学があるという。





インテリアデザインも現行マセラティラインアップの中でもっとも先進的なものだ。メーターパネルは12.3インチのフル液晶で、センターコンソールには12.3インチと8.8インチの2つのセンターディスプレイを上下に配置。シフトセレクターもこのセンターディスプレイの中に集約されており、従来シフトセレクターがあった位置には広い収納スペースが用意された。また、マセラティの伝統であるダッシュボードのクロックは、液晶表示式となり、時計のほかコンパスやGメーターに表示切り替えできる。レザーをはじめ加飾パネルなどマテリアルの質感は高く、ステッチに至るまで上質な仕上がりとなっている。そして、特筆すべきは後席の広さ。外観からは想像できないがニースペース、ヘッドスペースともに、クラストップレベルで、身長約180cmの男性でもゆったり座ることができる。





エントリーグレードの「GT」で導入が開始されたグレカーレだが、このタイミングで「モデナ」と「トロフェオ」の2モデルが追加された。この3グレードをもってグレカーレのラインアップはいったん揃ったことになる(将来的にはBEV版の導入も予定されているという)

「モデナ」は、GTと同じく2リッター4気筒ターボエンジンに、電動コンプレッサーのeBoosterと48V BSG(ベルトスタータージェネレーター)マイルドハイブリッドの組み合わせだ。GTが最高出力300PS/5750rpm、最大トルク450Nm/2000rpmなのに対して、モデナは330PS/5750rpm、最大トルク450Nm/2250rpmへと出力が高められている。



おそらく言われなければ、これが2リッター4気筒だとは誰も気づかないだろう。eBoosterによって低回転域のターボラグが打ち消されており、ゼロ発進時から力強く加速する。GTでも力強さを感じたが、モデナはそれを上回る力感がある。エンジン回転が上昇すると、eBoosterからターボチャージャーへとアシストが切り替わる仕組みだが、その継ぎ目を感じることもないし、5500回転から始まるレッドゾーンまで息の長い加速をみせる。



試乗車はオプションの21インチタイヤ(ピレリP ZERO)を履いていたが、ボディ剛性が高くまた電子制御ダンパーを装着しており、低速域では硬さを感じるシーンもあるものの、スピードがのるほどにフラットで引き締まった印象に。ステアリングコラムに備わるダイヤルをまわせば、ドライブモードを好みに応じてコンフォート、GT、スポーツ、オフロードなどに切り替えることができる。



一方で「トロフェオ」は、MC20譲りの3リッターV6ツインターボエンジンを搭載する。潤滑方式をMC20のドライサンプからウエットサンプへと変更し、最高出力も少しばかりデチューンされているとはいうものの、最高出力530PS/6500rpm、最大トルク620Nm/2750rpmというスーパーSUVだ。環境対策としては、気筒休止システムを採用。特定の条件下では右バンクが完全停止し、燃費とCO2の削減を実現する。





また500PS超のハイパワー対策として、ストッピングパワーも強化。フロント6ポッド、リア4ポッドのブレーキキャリパーを備えている。さらにエアサスペンションを標準装備するため、オフロードモードでは+30mm、パークモードでは−35mmと、最大65mmの車高調整幅をもっている。V6サウンドに、エアサスならではの足さばきと最上級グレードにふさわしい仕上がりとなっている。





グレカーレに共通する美点は、FRベースのプラットフォーム、フロントダブルウイッシュボーン/リアマルチリンクのサスペンション、そして優れた前後重量配分という素材のよさにある。モデナでおよそ51:49、エンジン重量のかさむトロフェオでも53:47といったところ。狙ったラインをトレースできるハンドリングは、ポルシェ・マカンをも彷彿とさせるとてもスポーティなものだ。こうした動的質感も、内外装の仕立ても、グレカーレはある意味で、レヴァンテをも上回る下剋上を果たすモデルに仕上がっていた。


文:藤野太一 写真:佐藤亮太
Words: Taichi FUJINO Photography: Ryota SATO

文:藤野太一 写真:佐藤亮太

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