テスラ社の歴史を語る上で欠かせない、最初のモデル「テスラ・ロードスター」

RM Sotheby’s

今となっては嘘のような話だが、2008年のクリスマスイブ、テスラ社は倒産寸前の危機に陥っていた。投資家によるテスラ社への4000万ドルの追加融資が完了したのは、クリスマスイブの18時だったそうで…、これが実行されなかったら残り3日で倒産は免れなかったそうだ。この時、CEOだったイーロン・マスクはテスラ社とSpace X社に全財産をつぎ込んでおり、自宅も処分し、賃貸住宅の家賃は友人から借りなければならなかった、という。

2009年までにテスラ社は総額1億8700万ドルにおよぶ出資金を集め、イーロン・マスクは7000万ドルの自己資金を投下していた。満を持して投入された、テスラ・ロードスターはこの年、147台が生産された。電気自動車ならではの加速性能を見せつけ、今までの電気自動車では考えられなかった航続距離320kmを誇っていた。この実績を受けて、アメリカ・エネルギー省の「先端技術自動車製造ローンプログラム(ATVM)」から4億6500万ドルの融資を得られるようになった。ここからの巻き返しが凄かった。

2010年5月にはトヨタからカリフォルニア州フリーモントの工場を購入し、同時にテスラはトヨタと資本提携を結んだ。両社はEVや関連部品の開発、生産システムで協力する一方、トヨタはテスラ社に対して総額5,000万ドルを出資して同社の発行株式3.15%を取得。そして、同年6月にはNASDAQ試乗にフォード(1956年)以降、アメリカの自動車メーカーとしては久しぶりとなる株式公開を果たした。しばらくはEV生産で得る排出権を取引することが主な収入源となったのは事実だが、今ではEV販売だけで利益が出る体質にまで進化。投資家はこぞってテスラの将来性を信じ株式を購入し、いまや時価総額7,913億3,000万ドルを誇る巨人となっている。

そんなテスラ黎明期に登場したロードスターは、2012年までに合計2,500台弱が生産された、と言われている。多いと見るか、少ないと見るかは人それぞれの解釈があろうが、とにかくテスラ社の歴史を語る上で最初のモデルは欠かせない、さながら“生き証人”である。なお、イーロン・マスクが乗っていたテスラ・ロードスターは、Space Xの打ち上げ実験の一環として2018年に宇宙に文字通り旅立ち…、一時期はインターネット上で動画がライブ中継されていた。





今でもアマチュア天体観測家たちが、宇宙を彷徨うテスラ・ロードスターの位置を追っている。現在は火星軌道を大きく超える楕円軌道を取っているそうで、EVから人工惑星へとその立ち位置を進化させている。

今年5月、テスラ社のメンテナンスや中古テスラ車売買を行う、アメリカのグルーバー・モータースが3台の未使用ロードスター3台(シャシー以外の部品1台分含む)を自社のオークションサイトで出品し自動車メディアの注目を集めた。というのも1台5万ドルという入札から始まり、あれよあれよと活発な入札により、結果的に、3台で、200万ドルにまで跳ね上がったのだ!

これら3台は中国で倒産した電気自動車メーカーがリバースエンジニアリング用に購入したものだったが、分解作業を始める前に倒産してしまったものが放置されてきたものだという。バッテリーはもはや使い物にならないだろうが、「未使用車」ということに価値を見出した人が居たのだろう。個人的には“高過ぎる!!”と思ってしまうが、オークションは結果が全て、である。

そんなテスラ・ロードスターが、1月25日にアメリカ・アリゾナ州にて開催されるRMサザビーズのオークションにも登場する。走行距離は3500マイルと極少とまでは言わないとも、少なめな車両でバッテリーは「要交換」というもの。RMサザビーズによる落札見込み価格は4万~6万ドルと、“控えめ”だ。RMサザビーズのような老舗オークションハウスでの落札価格が、今後のロードスター相場動向を左右しそうだ。








文:古賀貴司(自動車王国) Words: Takashi KOGA (carkingdom)

古賀貴司(自動車王国)

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