MARINE

-MARINE- update

ARROW460-Granturismo

Edition 1

2016年モナコヨットショーでメガヨット、スーパーヨットの居並ぶ中に華々しく登場した14mのスポーツボートがあった。シルバーに煌めきまるでメルセデスSクラスクーペのようなサーフェスの効いたルーフラインのスポーツボート。ヘルムステーションはかなり後端に位置している。ロングノーズショートデッキ、クラシックモダンかつアバンギャルドなインパクトが話題を呼んだ。このヘルム位置、1911年モナコ港で開催されたボートレースで優勝したLurssen-Daimlerモーターボートに類似する。搭載エンジンにはスリーポインテッドスターマークが刻印されていた。105年の後、突如14mのスポーツボート「ARROW460-Granturismo」がモナコデビューしたのだ。この構想が実現するには4年の歳月がかかっている。1930年代のGPレーシングマシンはシンボリックにシルバーアローと呼ばれた。

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その名を供する海のシルバーアロー「ARROW460-Granturismo」、マネージングするのはSilver Arrow Marine、2012年にモナコで設立された。ことの発端はイタリアコモ湖のメルセデスデザインセンターでのメルセデスベンツとダイムラーAG現副社長チーフデザイナーGorden Wagennerのひらめきにあったとされる。2007年のこととSilver Arrow MarineのPaolo Bonaveriマーケット&コマーシャル部長が語る。翌2010年Mercedes-Benz Styleが活動を始めたことともリンクする。ルフトハンザエアバス機内のMercedes-Benz Styleデザインやヘリコプター"H145"のインテリア、アンビエントライトなどアグレッシブで快適、ハイエンドかつエレガントなアイテムに拡大するモダン&ラグジュアリーなメルセデスワールド。そのシンボリックなプロジェクトが"海のスリーポインテッドスター・メルセデス"へのアプローチだった。

2017年5月モナコGPではメルセデスF1チームのVIPシャトルテンダーとしてモナコエリキュール港内で動く姿を見ていた。一目でメルセデスとわかるそのフォルムとコートダジュールのさんざめく陽光に答えるシルバーの輝き。既成のボートの概念を払拭した存在感に圧倒された。そのARROW460が目の前にいる。2017年9月のカンヌヨッティングフェスティバル。試乗する前の内覧。全てがエルゴノミックな曲線と曲面が織り成すフラッシュサーフェスなそのフォルムはメルセデスSクラスの滑らかでつややかなボディそのものだ。そのクオリティの高さは他に類を見ない。独自にデザインされたクリート、フェンダーホールドのフック、サーフェスを邪魔しない徹底ぶり。

テラスBYザ・シーと呼ぶエクステンドするスイミングプラットフォームから乗り込む。Esthecの新素材による繊細なウッドデッキが張り巡らされるがレジャーエリアのアフトデッキにはセッテもシートもない。両舷にボルスタータイプの曲面が美しいキャプテンシートがあるのみだ。ツインコンソールヘルムという。右舷のキャプテンヘルムに座る。全長14.17m全幅3.97mの後部に位置している。エアスクリーンを通してサロンルーフのはるか先にバウトップが見える。タッチスクリーンのマルチモニター、基本モードは左右エンジンモニターなどがグラフィック表示される、これはメルセデスSクラス同様だ。コンソールから水平に出ている3スポークのステアリング、コクピットには右手を伸ばせばあるべき位置にスロットルコントローラ―、その内側にジョイスティックレバー、Twin Disc製だ。銀のきらめきと滑り止めのしぼが目新しい。コンソールパネルにはアンカー、リアプラットフォーム、イルミネーションのタッチスイッチがグラフィカルに並ぶ。ヘルムから後部はフルオープン。ヘルムセンターからコンパニオンウエイを降りると、まるで近未来的な曲面で前方と後方の両舷側にデザインシートが用意されたワンフロアのラウンジサロンが広がる。曰くLoft-Living。

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もちろんインテリアもSクラスクーペに繋がるインテリア、ユーカリウッドパネル、nubuckレザー、メッシュファブリックな素材と色遣いはモダンラグジュアリー、Tommaso Spadoliniのイメージコントロールの成果だ。ダイニングテーブル、TV、オーディオ、アンビエントライト、フロントウインドウのリトラクタブルな開閉、サイドウインドウはクルマのように上下開閉するがこれら全てがタブレットのワンタッチで操作可能なのだ。右舷にパウダールーム、左舷にギャレー、ワインキャビネットなどのエンターテーメントアコモデーションが揃う。もちろんエアコン装備だが、全てのウインドウを開けることでビーチング時の自然なシーブリーズが「太陽がいっぱい」な地中海での最高のリゾートを演出してくれる。Pergolaと呼ぶリゾートの日陰、これの実現にはウインドウガラスシステムのマジシャン、Vision Systemsの果たした役割は大きい。インテリアは全てビスポーク、クルマとマリンのエンジニアたちの高度なレベルでのチームワークがここに2010年ジュネーブショーコンセプトカーF800からのインスパイアを現実化したのだ。

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メルセデスのDNAを受け継ぐスポーツボート、そう簡単なことではない。アバンギャルドであること、気品を保ちながらダイナミックであること、あくまでも情熱的でエレガントであること、最新に終わらず未来を見据えること。カーデザイナーとナバルデザイナーの共同作業が必須となる。腰から下、ハルデザイナーは重責を担う。インテリアデザイナーはSクラスからインスパイアされたイメージをマリンに融合させる。通常のオープンスポーツボートは初期段階でターゲットイメージから外された。一目瞭然で"海のメルセデス"であることの創造。10社以上のトップクラスのサプライヤー(彼らはパートナーと呼ぶ)とチームを組みSilver Arrows MarineのチーフチーフエンジニアAndrea Venezianがまとめ上げる。もちろん重責を負ったのはCEO のJacopo Spadoliniだ。アウトサイドもインテリアもイノベーティブなコンセプトにかける情熱がリーダーシップを発揮する。

バランス、プロポ―ション、知性を感じさせる存在の美学。Sクラスクーペのロングノーズショートデッキフォルムからのインスパイア、ロングフォアデッキ、ショートスターンが生み出すフォルムはまさしくSクラスそのもの。全体のデザインはMercedes-Benz Style、スケールモデルは2013年モナコヨットショーでプレゼンされている。コンセプトハルデザインはメガヨット「KATANA」デザイナーでも有名なMartin Francis。どんな速度でもドライで快適でなければならないハルが要求された。最終的なハル設計作業は世界的にも著名なオランダのVan Oossanenに委託され最先端のCFD解析によるハル設計となった。

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最初のプロトタイプはスイスローザンヌのGroup Carboman SAのシップヤードで建造された。レーシングヨットや航空機、レーシングカーに至るまでカーボンコンポジット技術で世界でも最も経験と信頼を持つ。Decision SAやフランスのMultiplast SASもグループ会社、それらもチームタグを組んだ。水中のナバルデザイン、水上のフォームを維持するフィーチャーラインと水中のラインの統合が課題となる。究極のパフォーマンスと快適性の両立。Van OossanenのNiels Morkeは「私たちの哲学は、ディテールが違いを生むにつれ詳細に焦点を合わせることでした。CFDの助けをかりて最適化されたスプレーレールとプロペラトンネルの設計が鍵でした」と語る。

搭載されるエンジンは2×Yanmar 6LY440-440hp、マリンギアは2×Twin Disc Quick shift gearboxes、Twin Disc V-Drive。ポットドライブは採用せずTwin-Discの最新のジョイスティックシステムを採用しイージードッキングに対応している。パワーユニットが決まるとプロジェクトは加速度をつけて前進する。彼らのこだわりは"ABS braking of the sea"と呼ばれるシステムをTwin Discと共に開発採用したことだ。1978年メルセデスSクラスに始まるABSシステム、これにこだわ意気込みにもDNAが通底する。マリンでの緊急ブレーキは無い。スロットルをニュートラル位置に戻すだけだ。残る行き足が微速領域まで落ちるのを待ちリバースに入れることしかできない。"海のABS"はフルスロットルからフルリバースに一気にスロットルレバーを入れることが可能なシステム。マリンギアへのストレスを適正なまでに解析しコンピュータコントロールでリバースギアに入れプロペラを逆転させる。実に心強いシステムだ。対象物に対してはステアリングで回避行為は必要だが。様々なイノベーションを採用したARROW460、カンヌ沖にて試乗してみた。

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天気晴朗、気温26度、南西風5m。エンジンスタートはマルチモニターのスタートマークをタッチ。ヘルムシート下の両舷のヤンマー6LY3A-ETA440コモンレール6シリンダーエンジンは静かに目覚める。遮音効果も抜群で静寂そのものだ。ジョイスティツクは微細な動作にも的確な反応を示しヘルムから先の長いノーズを容易にスライドさせることができる。混雑したボートショーの港内を抜ける。このフネのコンセプト、メルセデスSクラスカブリオレでマリーナに行き、ARROW460Granturismoに乗り換え、デイクルーズに出かける。コートダジュールの青い空、さんざめく光、クリスタルブルーの地中海。今まさにその真っ最中。Twin Discのスロットルコントローラ―をフォワードに。リニアに船体が反応を起こす。スムーズな加速、Vドライブ15度のシャフトアングルでRolla5ブレードペラが水中にトラクションをかける。1200rpm9.2ノット13.0lt/h(片舷)、1400rpm10.2ノット18.0lt/h、1600rpm12.0ノット12.0lt/h。1800rpm14.6ノット36.5lt/h、2000rpm17.5ノット42lt/h、2200rpm20.0ノット49.0lt/h。一切のバウアップもなく船体はフラットなまま加速を続ける。フラップはノーマル位置。波を切り裂く音のみが響いている。

2400rpm22.3ノット55.0lt/h、2600rpm25.5ノット60.0lt/h、クルージング速度だ。全てが安定と安心、快適な領域にいる。何処までも、このまま南下しポルトフィーノあたりまで行きたい気分に襲われている。2800rpm27.5ノット67lt/h、3000rpm29.0ノット75.0lt/h。ステリングを切りこんでみる。ノーズがきれいに回り込み軽いインサイドバンクを伴い軽快に回頭を始める。フルターンを試みる。なんの抵抗もなくなんの不安感もなく思わず笑顔を受かベルほどの痛快極まりないターンだ。レーシングボートの剛性感と軽量感を伴うターンとは異なり剛性感としなやかな奥深い味わいを伴うのだ。コンフォートからスポーツにSクラスカブリオレのサスペンションを切り替えてワインディングを抜けるあの味わいと類似する。S字ターンを試みる。うねりと波が重なった荒れた領域に突っ込んでいく。あのアクティブサスペンションと同じく切込み柔らかくいなして行くのみ。キャプテンが操船している間にサロンにこもってみる。ノイズ、バイブレーション、ハーシュネス、このすべてが極めてローレベルであることを感じ取った時、海のメルセデス、この言葉が頭をよぎった。コーンケープストライプド複合のハルが生み出す絶妙のバランスとスタビリティ、改めて異次元世界があることを認識した。6名乗船のこの日のMAXは3260rpm34ノット。このARROW460がグランドツーリングを標榜する意味にすっかりはまり切っていた。

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Gorden Wagenerは「我々のゴールは海上での完璧なる新たなメルセデスを生み出すことだ。クルマとボートはまるで異なるが、モダンラグジュアリーな"Silver Arrow of the Seas"をメルセデスデザインフィロソフィとして体験してほしい」。

「プロトタイプは3艇。今後はMONACOを中心に一人一人の顧客の要望を丁寧にビスポークしながら育てていく。プロダクトモデルはシルバーアローマリンからすべてのサプライヤーを通じてFinlandのBaltic Yachtsで建造される」。Silver Arrow MarineのPaolo Bonaveriマーケット&コマーシャル部長が語る。陸上のグランツーリングと海のグランツーリング、ラグジュアリーカーとラグジュアリーモーターヨットの出会い。モナコからヴィルフランシュ=シュメールまでちょっと走り、極上のブイヤベース、行きますかね。「キミはSカブリオレでかね、私は460で行くとするかな。ではあの店で」。

文:山﨑憲治 Words: Kenji YAMAZAKI