コレクション台数はなんと560台!フランス・ミュールーズにある世界最大規模の自動車博物館を探訪【前編】

Tomonari SAKURAI

スイスの国境にほど近い街ミュールーズ。アルザス地方にあるこの街には世界最大規模の自動車博物館がある。98の異なるブランド、560台のコレクション。そのうち430台は歴史的遺産として登録されている。中でも120台以上を超えるブガッティのコレクションは圧巻である。これが国立の博物館であることを考えるとフランスの車文化への力の入れ方は半端ではない。…最初はそう思ったのだが、そもそもこれだけの博物館がなぜこの街にあるのか?そこからひもといていくと、二人の異常なまでのブガッティ愛、そして歴史の、時の流れに翻弄されたドラマが隠されていることを知ったのだ。

エントランスは壁一面ガラスに車が立体的に飛び出してくるようなディスプレイ。この博物館の規模が自ずと伝わってくる。

この博物館には「Collection Schlumpf(シュルンプ コレクション)」と付記されている。この博物館のコレクションはハンスとフリッツのふたりの兄弟によってコレクションされたものだからだ。1904年と1906年に生まれた兄弟は金融業に長け、投資家として繊維織物業で富を築いていく。そこから1935年に、このミュールーズに紡績工場を購入。アルザス地方はスイス、ドイツと国境を接していることもあり紡績と生糸で帝国を築いていった。それだけでなくワインやシャンパンも流通させ成功する。

最初にカーマスコットのコレクションが迎えてくる。

莫大な富を得たシュルンプ兄弟は1960年になると事業以外の情熱を趣味の車に注ぎはじめたのだ。まずはブガッティ社と個人的に親しくなり、一般車ではなくレースで優勝した車を手に入れるためにレーシングドライバーのモーリス・トランティニアンと友好関係をもったり、メルセデス・ベンツとも友好関係を築いていった。

1961年から67年までに年間約100台、トータル560台をコレクションした。フリッツは特にブガッティのコレクションに熱中し、その多くをアメリカから本国に買い戻すという形になった。ちょうどこの間、1963年にはブガッティはイスパノ・スイザに売却された。そのタイミングで、プロトタイプや、書類、部品などを入手。また、エットーレ・ブガッティの個人的なブガッティ・ロワイヤルをブガッティ家から直接手に入れることに成功した。

ブガッティ家が所有していた一台。

1964年には30台のブガッティをアメリカのジョン シェークスピアから購入する。その中には別のブガッティ・ロワイヤルが含まれていた。この段階でシュルンプは世界一のブガッティ・コレクターとなった。

ブガッティType 41 ロワイヤル。アメリカのジョン・シェークスピアからの1台。

1966年には500台を超える車両をオリジナル・コンディションに保つためのレストアに着手。30名のメカニックやボディ・革職人などを従業員として受け入れた。コレクションを公開するためにシュルンプ博物館の準備を始めたのもこの頃だった。

博物館の準備を進める シュルンプ兄弟はパリのアレキサンドルIII世橋のランプのレプリカを作らせ館内の展示用の照明とした。今でもそれが使われている。

1934-57年まで、計75万台が製造されたシトロエン・トラクシオン アヴァン。

ところがそこに2度のオイルショックとアジアからの安い繊維製品により壊滅的打撃を受ける。株主に対する賦課金の支払いが滞り、兄弟が誘拐される事件にまで発展したのだ。その後、警察の保護の元スイスへ亡命した。残された労働者が無許可で紡績工場の倉庫に侵入したところ、このコレクションが発見されたのだ。シュルンプ兄弟は博物館にする構想を持っていたものの、その公開前に亡命。コレクションはあくまでも私的なものだったために世に知られておらず、「シュルンプ事件」として当時は大きく報道された。労働者はこの倉庫を2年間占拠し、これらのコレクションを売却して赤字を埋めることを要求したのだった。

しかし税金の滞納があったためこれらのコレクションは国が没収することとなった。1981年には土地、建物を併せて国立自動車博物館が購入。コレクションの重要性から、解体や売却でフランス車の貴重なコレクションが海外に流れるのを防ぐために歴史的遺産として430台が登録された。1982年に国立自動車博物館として公開が始まり、1989年には「自動車都市-国立博物館-シュルンプコレクション(Cité de l'automobile - Musée national - Collection Schlumpf )」という現在の名称に変更された。

このコレクションで展示されている膨大な車両、そして展示の流れ(写真51点)はこちらからご覧いただきたい。

・・・【後編】へ続く

Musée National de l'Automobile à Mulhouse - Collection Schlumpf
https://www.musee-automobile.fr/en/


写真・文:櫻井朋成 Photography and Words: Tomonari SAKURAI

櫻井朋成

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事