私が「この車は、学校でノートに落書きしていた車そのものではないか」と尋ねると、アストンマーティンのデザインディレクター、マイルス・ニュルンベルガーは笑みを浮かべた。シャークノーズ、ボクシーなアーチ、カムテール、さらにはフェイクのリアウィンドウルーバーまで、まるでオリジナルのV8ヴァンテージを現代風にアレンジしたかのようなデザイン。LEDリアライトや巧妙なエアロダイナミクスなどのモダンなタッチが散りばめられていて、まったくもって控えめなデザインではない。
この「ヴァラー」は、110台のみが生産され、「Q」部門のオプションにもよるが、価格は100万ポンドを超える。紛れもないスーパーカーではあるが、そのルックスは、いわゆるスーパーカーのそれとは異なるし、アストンマーティンらしさが全面に出ているというわけでもない。しかし、そのカーボンファイバーボディの下には、現代のアストンマーティンのすべてのモデルに採用されているアルミニウムアーキテクチャが流用されている。
パワートレインはAMG製の5.2リッターV12ツインターボエンジンで、このアグレッシブな外観にふさわしいチューニングが施されている。どれほど過激なのだろうか? 705馬力と752Nmのトルクを発揮し、なんとあの伝説的なヴァンテージベースのル・マン マシン「RHAM/1『マンチャー』」を容易に凌駕する。マイルスによれば、ヴァラーはこのマンチャーからインスピレーションを得たとのことだ。
さらにユニークな点としては、この車と、トラック重視の派生モデルである「ヴァリアント」には、6速グラツィアーノ製トランスアクスルと機械式リミテッドスリップデフが組み合わされており、アストンマーティンの他のモデルに搭載されている8速ZFオートマチックから変更されている。
しかし、この車は決してトラック専用ウェポンというわけではない。あくまでロードカーとして設計されており、街中でも見ることができるのだ。
クラッチペダルを踏み込み、ギアレバーを1速に入れることができる現代のスーパーカーのなんと素晴らしいことだろうか。アストンマーティンは、この喜びを想定していたようで、マニュアルトランスミッションのギアリンクを巧みに露出させ、ミッションがマニュアルギアボックスであることを強調している。1980年代なら、このような車のクラッチは非常に重く、シフトはぎこちなかっただろうが、ヴァラーのそれは驚くほど軽く、その強力なトルクにもかかわらずスムーズに発進できる。
ヴァラーには、アダプティブダンパーが搭載されており、コンフォートモードやトラックモードなど3つのサスペンションモードが用意されている。英国の道路では、コンフォートモードが最適だろう。轍や穴の上を通っても受ける衝撃はわずかだ。
私はもっと騒々しい音を期待していたが、V12は洗練された滑らかなサウンドを奏でる。スポーツモードではスポーティーに、スポーツプラスモードでは少し大きく、トラックモードでは派手な音に変わる。もし新しい車しか運転したことがない人でも、ヴァラーのドライビングエクスペリエンスを「粗雑」とは決して感じないだろう。しかし、その一方で、わずかな粗雑さが魅力的に感じられる。排気音の下でかすかに聞こえるトランスミッションの唸り、機械式ディファレンシャルが作動する感触、運転席から見える高く張り出したフロントフェンダーとミラーに映る膨らんだリアアーチの眺め。なんと野獣的だろうか。
この車は、アストンマーティンのデザインスタジオによって、F1チームカラーであるグリーンにダークレッドの「リップスティック」を施されて初めて製造されたものである。すでに顧客に販売されており、残りの109台のヴァラーも世界中のオーナーのもとに向かっている。この車が街中を走るのを見る機会があれば、決して見逃してはいけない。
文:David Lillywhite
David Lillywhite
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