S・マックイーンも愛した希少車|フェラーリ NART スパイダー

フェラーリ 275GTB/4 NART スパイダー



45年間を家族と共に

スミス家に納車されたNARTはメタリックブルーに塗装されており、標準仕様のフロントグリルガードを装備していた。「父は色が気に入らなかったものの、購入した時その車はすでに生産が始まっていたから、色を変えるには手遅れだったんだ」とエディJrは語った。「手元に届くや否や、父はすぐにマルーンカラーに塗り替えた。色を変えると車の価値を下げてしまうのではないかと心配していたけれど、私は『気にすることないじゃないか。どうせ売る気はないんだから、なんでも自分の好きな色に塗ればいいんだよ』と言ってやったよ。それからほどなくして、今度は父がかねてから望んでいた色、フェラーリ・レッドに塗り替えたというわけさ」エディはことあるごとに息子を連れてセブリングのレースに出ては、フェラーリを駆って楽しんだ。そしてフェラーリ・クラブ・オブ・アメリカに入会。様々なコンクール・ミーティングやトラックデイでこのNARTを披露し、バージニア・インターナショナル・レースウェイ・コンクールで最優秀賞を獲得した。

その後NARTの価値は上がり始め、ついには何百万ドルにもなったが、エディは定期的にドライブを楽しんだ。「これは車なんだ。特別な車ではあるけれど、それでも車であることに変わりはない」そうエディは言った。このフェラーリを求めて数多くの引き合いを受けたが、どんな大金を積まれても売ることはなかった。エディ・スミスSrが2007年にこの世を去った後、このフェラーリはエディJrが所有、経営するボート建設会社の航空機格納庫に大切に保管された。

「私にはこのフェラーリをイベントに持っていき披露する時間も、情熱もなかった。そして家族で話し合った結果、この車を大切にし、喜んでもらえるところへ渡すべきだと決めたんだ。45年間を共にしたのだから、手放すのは寂しいけれど、格納庫の中に閉じ込めておくのは忍びなかったからね。いつも社会に貢献することを私たちに教えてくれた父を想い、私たちは全ての収益をいくつかの慈善団体に寄付することに決めた。きっと父も喜んでくれていると思うよ」「オークションの前に数日間、このフェラーリを思う存分走らせてきたよ。時速130マイルに到達すると、本当に4カムエンジンがこの上なく素晴らしいサウンドを奏でる。売ってしまうと決めたことを少し後悔したね」と言ってエディJrは笑った。

「でもRMは実にいい仕事をしてくれたと心から思っている。オークションによって、あちこちから注目を浴びるのは気が進まなかったけれど、RMのおかげで父の話を知ってもらうことができた。児童養護施設で過ごしたこと、1週間の収入がたったの9ドルだったこと、そしてついには父が心底愛したフェラーリを所有し、走らせたその道のりをね」

「オークションの直前になって、ロブ・メイヤーズがNARTが2000万ドルを超えることに1万ドル賭けると言うんだ。もし彼が勝ったら、彼のスタッフにそのお金を渡すとね。負けてこんなに嬉しいことはないね」

エディ・スミスのNARTスパイダー(走行距離4万3000マイル)は新しいオーナー、ファッション業界のローレンス・ストロール氏に引き取られた。そしてスミスファミリーの寛大な心が多くの慈善団体を助けるだろう。 落札後、すぐにローレンス氏に取材を申し入れることはできなかったが、非常によく似た英国で唯一の NARTスパイダー、車台番号10749を所有している、ロンドン在住のコレクター、クライヴ・ビーチャムが取材に応じてくれた。価格が高騰を起こす7年前、1998年にジョン・ムーアがクリスティーズのオークションに出品した2台のNARTスパイダーのうちの1台だ。ちなみにその収益は医学研究のためスクリプス研究所へ寄付された。こういった高額の車が慈善団体に大きく貢献しているというわけだ。

私はクライヴがフェラーリについての想いを語ってくれることを望んでいたのだが、彼はその期待を上回りとてもよくしてくれた。「来て、運転してごらんよ」そう気さくに言ってくれたのだ。

ロンドンにある彼の自宅に到着すると、 275GTB/4がフェラーリのスペシャリスト、バーカウェイズのイアン・バーカウェイによって荷卸しをされているところだった。眩いメタリックシルバーに塗装され、バーガンディカラーの皮の内装とキラリと光るボラーニのワイヤーホイールを装備し、卒倒しそうなほどの美しさだ。2009年のサロン・プリベ・コンクールでベスト・オブ・ショーを受賞したのも頷ける。「イアンがチューンナップを終えたばかりだ。ちょっと前には全ての塗装を剥離して再塗装もしてもらったよ。以前フロントをへこませてしまってね。その部分塗装の色がどうもしっくりこなかったんだが、今は完璧さ。2人で運転してみて、感想を聞かせてよ。」



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