デザイン評論家が語るポルシェ911が持つ美しい一貫性

octane UK

ポルシェが設計した英国初の乗り物はウェールズのアバーデア市のトロリーバスだった。もちろん、今ではもっとずっと多くのポルシェが存在するが、ほとんどの人にとってポルシェが意味するものはひとつ、そう911である。あのマンハッタンでの悲劇の後に、ポルシェは実際に調査を行い、911という数字はそのままこれからも使い続ける価値があると判断した。これは車が持つ意味について多くのことを示唆している。
 
グミュントの木小屋の外で、風変わりなスポーツカーがお披露目されたのは1948年のことだった。356という設計図ナンバーが与えられたその車は、1131ccの40hpエンジンを含めてVWの部品を流用していたが、最も興味深い特徴はその形だった。遺伝子の配列はその時に決まったのである。
 
356が後に911として知られるモデルに生まれ変わる時、フェリー・ポルシェがエンジニアに指示したテーマは「最も純粋な走る形」で世に衝撃を与えることだった。その車はもともと901という名前だったが、プジョーの弁護士が真ん中にゼロを挟んだ数字の並べ方にクレームを付けたせいで、911に変更されたのはご存知の通り。911はフェルディナンド・アレクサンダー"ブッチ" ポルシェの筆によるもので、後にポルシェ・デザインを興した。

このニューモデルは1959年にタイプ695としてスタートしたもので、ブッチはかつて「ヘッドランプが非常に大切な役目を果たす」と語っていた。T7と呼ばれるプロトタイプの不鮮明なモノクロ写真が残っているが、それはすでにポルシェと分かるノーズを持ち、また奇妙なほど大きなグラスハウスと前傾したBピラーを備えている。60年代初めにはプロトタイプが路上を走っていたというが、ウィンドシールドやボンネット、ドアなど全体の配置はひと目で確認できるものだったらしい。だが不思議に大きなフロントインテークを持ち、テールフィンを持つ分割式リアガラスはレドヴィンカのタトラを思い出させるものだった。
 
911の素晴らしい点はエンジニアとデザイナーがフェリーの指示を見事に完遂し、機能とスタイルが一体化された、自動車アートの最も偉大な作品を作り上げたことだ。もし機械に命があるとしたら、それは遺伝子も持っているに違いない。911はその起源をエアロダイナミクスのパイオニア、エルヴィン・コメンダがポルシェ博士の大衆車のために描いた最初のスケッチにまで遡ることができる。そのユニークな形に宿った精霊は現代のポルシェにも宿っている。もちろん、実際に共通する輪郭はないが、1936年のVWから現代の997までを並べてみれば、そこには信じられないほど美しい一貫した形態論が見て取れる。
 
ポルシェ911は進化とインテリジェントデザインの結晶なのである。

編集翻訳:高平高輝 Transcreation: Koki TAKAHIRA Words: Robert Coucher

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