マセラティMC20チェロ海外試乗|シチリアで解放感たっぷりの空と海を味わう

ノトの大聖堂前にて

マセラティのスーパースポーツカー「MC20」のスパイダーバージョン、MC20チェロ。イタリア語で「空」を意味する「チェロ(Cielo)」を車名に冠したオープントップモデルに、ジャーナリストの小川フミオ氏が試乗した。



マセラティがオープンスポーツ、MC20チェロを発表。2022年10月にシチリアで試乗会を開催した。電動格納式ハードトップをそなえたスタイリッシュなスパイダーの魅力を知るには、陽光にめぐまれたシチリアでのドライブがいい、というのだろう。実際、楽しい経験だった。

マセラティは、MC20チェロのことをあえて「グランツーリスモ」と呼ぶ。ほぼ同時期に発表されたフェラーリ296GTSはピュアスポーツ、一方MC20チェロはGT。生活を楽しむための車、だそうだ。

「MC20チェロはマセラティの伝統を現代に継承したモデルです」。マセラティのヘッドオブデザイン(デザイン統括)であるクラウス・ブッセ氏は、カターニャ空港から1時間ほどで到着するノトという古い街で、実車を前にそう語る。

マセラティデザインを統括するクラウス・ブッセ氏

最初は1952年に登場したA6G2000。つぎに55年のA6G54グランツーリスモ、それから59年の3500GTスパイダーと、ブッセ氏は例をあげる。

「マセラティはオープントップのモデルを数多く手がけてきているうえに、そもそもGTという概念を作ったメーカーなのです。GTとは、レースで走ったあと、そのまま自宅まで乗って帰れる車のことで、両方のよさを兼ねそなえています」

内装はあえてシンプルだけれどシート地やドアの内張りは2層のレザーを使うなど凝りに凝っている

MC20チェロも、F1由来の燃焼技術を盛り込んだツインターボの3リッターV型6気筒エンジン、マセラティが呼ぶところの「ネットゥーノ」をミドシップ。カーボンモノコックのボディを、463kWの最高出力と、730Nmの最大トルクで走らせる。静止から時速100キロまでの加速はわずか2.9秒だ。

重心高は低く、路面に張り付くように走る

一方で、MC20チェロは、2021年に発売されたMC20クーペに対して、「スプリングなど足まわりを少し変更してより快適志向にしています」と、エンジニアリングを担当したフェデリコ・ランディーニ氏は現地で解説してくれた。

MC20のエンジニアリングを担当するフェデリコ・ランディーニ氏

マセラティが用意したドライブコースは、ノトから山を越えて、ヨットリゾートとして知られるラグーサまで。急峻な道はなく、カーブもゆるやかである一方、オープンにして走り、車名(チェロ=空)のとおり青空の景色と、10月おわりなのに半袖でいられるシチリアの暖かい風を味わうことができた。

ノトは、 シチリアの南東部に位置していて、そこからもう少し南東にいくと、シチリア最南端のコレンティ岬がある。ほとんど欧州の南の端っこだ。紀元前からある街で、1700年代にふたたび整備されはじめた。

バロッコ(バロック)スタイルの建物が並ぶ街は丘の中腹に位置し、昨今はイタリア本土をはじめ欧米からの観光客で賑わう。MC20チェロのドライブの起点となったカテドラルは、ユネスコの世界遺産に指定されている。

トップを上げているときガラスの濃度を一瞬で調節できる

目抜き通りは、MC20が2台余裕ですれ違える幅があるが、左右は、先述のとおり丘の地形なので、階段。シチリアにはこういう道が多いようだ。なにはともあれ、ひとが多く、カフェで楽しそうに時間を過ごしている。MC20チェロが軽快な排気音とともにやってくると、みなが立ち上がって笑顔で駆け寄ってくる。こういうのが、イタリア全土に通じる”いいところ”だ。いい車に乗っていることへのごほうびといってもいい。

スペインがかつて支配し、南米からチョコレート(文化)をもちこんだモディカの街を見下ろす

そこから、空いている一般道と、ゆるやかなカーブの続く山岳路へと入った。ドライブモードでGTを選ぶと、サスペンションがよく動き、ほとんどの道で快適。いっぽう、スポーツでは、エンジントルクの太いところを常に使っていられる。ハンドリングがシャープになり、車とドライバーとの一体感が強くなる。

ウィンドシールドが短く、ちょっと目をあげただけで、空が見える。スパイダーの名のとおりだ。気持ちよい。ルーフはトップが分割式でなく、一体のまま格納される。設計はたいへんだったんじゃないかなと、エンジニアの苦労を少し思い描いてしまった。

液晶コントローラーでルーフの開閉やウインドストップの上げ下げなどが出来ると解説するランディーニ氏

マセラティはこの試乗では、車に乗せることに加えて、ブルーを印象的に使いながら作品を作るノトのアーティスト、地中海の空と海のあいだを走る多胴式ヨット「マセラティ・マルチ70」、それにミシュランひとつ星(星だから空つながりだ)シェフの料理、そしてギリシア神話と関係の深いシチリアの星空の観察、というプログラムを用意してくれた。

マセラティがスポンサーする多胴船「マセラティ・マルチ70」は、マルタ島での「ロレックス・ミドルシーレース」で3位を獲得したばかりだった

たしかに昔は、車は無蓋だった。そのときは、つねに上に空があった。その愉快な気分をMC20チェロは、乗るひとに与えてくれるのだ。価格は3385万円で、日本では2023年春の早い時期の発売を予定していると、マセラティジャパンではいう。

ラグーサからモディカのマリーナのあいだにある日没が見られる絶景ポイントにて


Specifications
Maserati MC20 Cielo
全長×全幅×全高 4669x1965x1218mm
ホイールベース 2700mm
車重 1560kg
3000cc V型6気筒ミドシップ 後輪駆動
最高出力 463kW@7500rpm
最大トルク 730Nm@3000〜5500rpm
0−100km/h加速 2.9秒
最高速 323km/h
価格 3385万円


文:小川フミオ 写真:マセラティ
Words: Fumio OGAWA Images: Maserati

文:小川フミオ

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