THE MAGARIGAWA CLUB|エアレースのトップパイロットから観た、アジア初のプライベートコース

Yoshito YANAGIDA

最高速度370km/h、自分の体の上下に重くのしかかる最大重力加速度は10Gを超えるという常人には計り知れない環境のもとで大空を舞う、エアレース・パイロットの室屋義秀選手がアジア初となる本格的な会員制ドライビングクラブTHE MAGARIGAWA CLUBを訪れた。エアレースはそもそもモータースポーツのひとつ。そして室屋さんは飛行機に限らず、自動車やバイクなどモータースポーツのファンでもある。富士スピードウェイなどで数々のフライトパフォーマンスを経験するなど鳥の目をもつ室屋さんに、この新しい施設はどのように映ったのだろうか、ともに現地を訪れ、話を聞いてみた。



“操縦技術世界一”のパイロットを目指して


「アムロ、行きまーす !」。子供の頃にテレビでみた『機動戦士ガンダム』の主人公アムロ・レイに憧れてパイロットを志す。

大学では航空部に入り、グライダーで飛行訓練を開始する。より本格的なエンジン付き飛行機の操縦を目指し、20歳で単身渡米。操縦免許を取得するとともに、アメリカの航空産業の大きさを思い知ることになる。その後帰国するとアルバイトに精を出し、まとまった金ができるとアメリカに渡って訓練を重ねた。



「22歳のときに但馬空港で開催されたブライトリングのワールドカップを見たんです。世界最高峰のエアロバティックパイロットたちの飛行はまさに衝撃でした。その当時は、大学でグライダーの教官をやっていました。部活の先輩よりうまいということで、腕には自信がありました。でもその大会を見たときにこれは人間技じゃないなと。想像もつかない世界がそこにあった。やるならこれだなって。それで目標を“操縦技術世界一”のパイロットになると決めたのです」

ここから本格的にエアロバティック・パイロットへの道を歩き始める。のち世界有数のエアロバティックスの教官であるランディ・ガニエ氏に師事、技術が飛躍的に向上し、素質が一気に開花することになる。25歳のときには国内でエアショーを開始。資金調達に苦労しながらも活動を継続していく。少しずつ活動の幅を海外へと広げ、2007年にはレッドブルとスポンサーシップ契約を結び、世界のトップパイロットとして名を連ねるようになった。2009年にレッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップに、日本人、そしてアジア人として初参戦。2016年には千葉県でおこなわれた日本ラウンドで悲願の初優勝。そして翌年には年間8戦中4戦を制し、ワールドチャンピオンとなった。2019年シーズンをもってレッドブル・エアレースはシリーズの幕を下ろしたが、「ムロヤ」の名は世界中に知られるようになった。

エアレースもモータースポーツのひとつ


現在は、パイロットを目指す15歳以上のユース世代を対象に、約1年間で国家資格である自家用操縦士免許の取得を目指すユースパイロットプログラムをスタート。またエンジニアリングの分野では、福島県立テクノアカデミーの学生たちとエアレース機のパーツ開発を行うリアルスカイプロジェクトに着手する。2011年に起きた東日本大震災以降は、地元である福島県の復興支援活動や子どもプロジェクトにも積極的に参画しており、福島県県民栄誉賞、ふくしまスポーツアンバサダー、福島市民栄誉賞などを受賞している。

もちろん日本各地でエアショーも披露しており、国内でもっとも人気のモータースポーツであるSUPER GTの富士スピードウェイ大会では、室屋さんのフライトパフォーマンスが恒例となっている。富士スピードウェイの長いホームストレートを、まるでゲートをくぐらんばかりに地上すれすれで低空飛行し、グランドスタンドの観客の度肝を抜く。

「ゲートをくぐることは技術的には可能です」。室屋さんはこともなげにそう話す。「海外では実際にゲートの下をくぐることもありますし、坂東正明氏(SUPER GTを主催するGTアソシエイション代表)はいつも「くぐれ、くぐれ」とおっしゃるんですけど(笑)。飛行するには許認可が必要なので、なかなか難しいかもしれないですね(笑)」

考えてみれば、エアレースもモータースポーツのひとつだ。室屋さんはサーキット場で飛ぶ意義をこのように話す。

「モータースポーツが好きな人は、他のモータースポーツも結構好きだったりすると思うのです。僕たちが普段行っているエアショーとは違って、グランドスタンドの人たちにとっては飛行機が自分の目線より下を飛んでいるちょっと異次元な感じはあるのかなと。 SUPER GTのファンの人たちに飛行機を知ってもらう機会になりますし、その逆もあって、ファンが行き来するような循環ができたらうれしいなと思っています」

実際に室屋さんがパフォーマンスをするようになって、それを観にSUPER GTにやってくるファンも増えているという。また室屋さん自身もレッドブルとの契約を機に、F1ドライバーの角田裕毅選手や、WRCドライバーの勝田貴元選手、MotoGPライダーの中上貴晶選手と交流する機会があり、彼らのレースをいつも観戦していると話す。それだけにサーキットとはまったく異なる THE MAGARIGAWA CLUBの雰囲気に驚いたという。

エントランスメイン階段の竹細工は大分在住の竹藝家、中臣一氏によるもの。世界各地の美術館やギャラリーで作品を発表。また、リッツカールトン東京、リッツカールトン京都、福岡空港 VIPラウンジなどのアートワークも手がける中臣氏が丸1年をかけて制作した意欲作。

様々な場所からコースを走る車を楽しむことができる。エリアによっては東京湾を遠望できるポイントもあり、ランドスケープの壮大さを感じ取れる贅沢さだ。

「ここはサーキットじゃないですね。なんて表現すればいいのか、本当に車が好きな人のためのラグジュアリーな空間。屋内にあるピットレーンもこれまで見たこともないし、その発想が面白いですよね」

冷暖房を完備したピットレーンにて。タイル貼りの床、木組みによる凝った造形の天井が車体にキレイに映り込む。今回試乗したのはLEXUS RZ450e versionLだ。BEVのAWDだが前後のタイヤサイズが異なり、最もスポーティなレクサスの一つである。室屋選手はレクサス UXそしてRZと2台の BEVを乗り継いでおり、その魅力のひとつにモーター駆動ならではの緻密な4WD制御をあげる。

ジムの機器にはテクノジムを採用し、メインは有酸素系と筋肉トレーニングの 2種類で全10種 13台が揃う。反応速度や周辺視野を鍛える最新のビジョントレーニングマシンも。

娯楽室には2基のシミュレーターが備わっており、THE MAGARIGAWA CLUBのコースも収録している。コースに出る前にここで予習し、ポイントをつかむことも可能だ。壁に見える富士山と龍の絵は、アーティスト森勉氏の作品。そのほかキッズルームやカラオケなども充実している。

バーラウンジは正会員のみ使用が許されるスペースとなっている。

いずれは世界中のクルマ愛好家のための町に


冷暖房のきいたピットレーンには36台が収容可能で18ものソファセットが用意されている。コースデザインは、F1をはじめ数多くのサーキットをデザインしてきたヘルマン・ティルケ氏率いる「ティルケ・エンジニアーズ&アーキテクツ」の手によるもの。約800メートルのストレート、22のコーナー、標高差は約80mと、山を切り拓いて造られただけに起伏に富んでいる。

ロードコースは全長約3.5km、ストレートは全長約800mと、その規模は岡山国際サーキットやスポーツランドSUGOにも匹敵する本格的なもの。コーナー数は22、最大上り勾配20%、最大下り勾配16%、高低差はなんと80mと、日本有数のチャレンジングなコースとなっている。コース全面を緑で覆われた美しいコースに室屋選手も思わず感嘆の声をあげる。



ミリ単位で操縦桿を操作し、意のままにピタッとブレのない飛行姿勢をとるがごとく、まったく無駄のないステアリングさばきは流石のもの。全身がセンサーになっているようで、車によって異なるトルクの立ち上がりや4WDの制御の違いに体が自然と反応するという。

室屋さんもこれまでに富士スピードウェイやテストコースなどを自らドライブした経験をもつというが、その中でももっともチャレンジングなコースに感じたという。実際にコースは、緑の中を駆け抜けるドイツのニュルブルクリンクやベルギーのスパ・フランコルシャン、そして空に向かって一気に駆け上がり、下るさまはまるでアメリカのラグナセカを思わせる。

「車が好きで知識もある、そういったオーナーのニーズに応える施設だと思います。それはコースだけでなく、ホスピタリティ面も含めてすべての面においてですね。飛行機の世界だと、イギリスにエアショーのチームを所有しているあるオーナーがいて、その人が所有する飛行場は、1キロ四方が芝生ですべてを滑走路として使うことができます。縦、横、斜めどこに下りてもいい。その敷地内の端に、このTHE MAGARIGAWA CLUBとは少し雰囲気が違いますが、500年ぐらいの歴史があるオールドハウスをリノベーションしたゲストハウスがあって、そこにお客様が来て、飛行機に触れたり乗ってもらったりする。大切なゲストを迎え入れるという点において、その世界観と共通するものをこのTHE MAGARIGAWA CLUBには感じます」

ここには、オーナーズパドックと名づけられたヴィラスタイルの宿泊施設があり、開業時には9棟が用意され、開業後には追加で14棟が建設される予定と話すと、このように続けた。

「アメリカには、町自体が空港になっていて、飛行機乗りしか住んでいないエアポートタウンみたいな場所が結構たくさんあります。その町専用に設計された飛行場があって、離着陸する際には、飛行機が町の道路を通過するから道幅がすごく広い。その飛行機は普通の各宅のガレージに入っていく。飛行機乗りが住んでいて、飛行機が好きな人ばかりなので、週末はよくホームパーティーが開かれていてすごく楽しい町です」

オーナーズパドックと名づけられたヴィラスタイルの宿泊施設のテラスにて、コースを眼下にのぞむ。入札形式によってまず9棟を販売。好評のため開業後に追加で14棟が建設される予定。部屋は約 245平米~528平米で、販売は入札制で一次分譲価格はおよそ2.5億~8億円であった。



このTHE MAGARIGAWA CLUBにもいずれ、世界中のクルマ愛好家が集い、オーナー同士のコミュニティが生まれる場所になるのだろう。そして室屋さんはいずれ、この上空も飛んでみたいと話す。

「緑が本当にたくさんあって美しいコースです。タイトな部分も多いのでコースをすべてトレースすることはできないと思いますが、ここは高台にあるのでかなり低い位置を飛べるはずです。クラブハウスから飛行機を見下ろすような、すごく面白いショーができる可能性を感じます」

そしていま室屋さんは世界トップクラスのエアレース・パイロットのひとりとして新たな競技の場を生みだそうと奔走している。今年3月には、エアレースデビュー同期でトップパイロットのマット・ホール選手、ピート・マクロード選手とともに、新たなエアレース「AIR RACEX」の立ち上げを表明。今年の10月にはシリーズのスタートを予定する。レッドブル・エアレースのフォーマットに則った実際のフライト「リアルラウンド」と超高精細なフライトデータと AR(拡張現実)というデジタル技術を駆使した「デジタルラウンド」の2つのレースフォーマットを組み合わせることで、スポーツの新たな熱狂と興奮を創り出すことができるのではないだろうか。これはクルマ愛好家が持続的に自動車の楽しみを享受できる環境をつくろうという THE MAGARIGAWA CLUBの理念とも共通するものだ。

「ムロヤ、行きまーす!」。いま彼は、心の中でそう叫んでいるに違いない。


室屋 義秀(むろやよしひで)
エアレース・パイロット/エアロバティック・パイロット
1973年生まれ。1991年、18歳でグライダー飛行訓練を開始。2009年、3次元モータースポーツシリーズ、レッドブル・エアレースワールドチャンピオンシップに初のアジア人パイロットとして参戦。2016年、千葉大会で初優勝。翌2017年にはワールドシリーズ全8戦中4大会を制し、アジア人初の年間総合優勝を果たす。現在、航空スポーツ振興のために全国で活動中。地元福島の復興支援活動や子どもプロジェクトにも積極的に参画している。


文:藤野太一 写真:柳田由人 取材協力:レクサス
Words:Taichi FUJINO Photography:Yoshito YANAGIDA Cooperation:LEXUS
THE MAGARIGAWA CLUB
https://www.magarigawa.com/jp/

文:藤野太一

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