ビーチを美女と車が占拠する!素晴らしきユニークなイベント「ポルトゥ・クアトゥ・クラシック」

Shinichi EKKO / Poltu Quatu Classic

今年もポルトクアトゥ・クラシックのシーズンがやってきた。

サルディニアの美しいエメラルド海岸をベースに開催される、このクラシックカー・コンクールデレガンスに筆者はこのところぞっこん入れ込んでいる。それはこのイベントがきわめてユニークであることに加えて、関係する人々の人間関係がとても楽しいからだ。



そしてテーマも“エンターテインメント風味”たっぷりだ。今回のテーマは"007オクトパシー"。『007/私を愛したスパイ』においてロータス・エスプリが大活躍した当地への敬意を払っての設定であり、ビーチを美女と車が占拠するという、なんとも脳天気(笑)なテーマであるが、劇中車レンジローバーのレプリカを作りあげる出展者まで現われるほど、このイベントは当地で愛されている。そしてもうひとつの特徴は参加者が“いかにイタリアの夏を楽しむことができるか“を最重視したプログラムだ。昼間は美しいビーチでゆっくりまったりし、渋滞しらずのワインディングをツーリングする。そして夜はビーチサイドのパーティを楽しむという隙のない設定だ。



一方、私達審査員は結構忙しくもある。60台あまりのバラエティに富んだ車達全てを全員で審査する。通常はグループに分け、それぞれの審査員はそのうちの何台かの審査を担当するのがフツウであるが、ポルトクアトゥはそれを全員で行う。これも参加者への敬意を払い、全ての車を評価するというひとつのポリシーだ。エンターテインメントの為に参加車両はビーチへツーリングと出ずっぱりになるから、うまく審査のタイミングを併せる必要があり、あるときは炎天下の審査でへとへとにもなる。しかし、筆者を含む審査員達はこの世界観を充分に楽しんでいる。ランボルギーニの語り部であるヴァレンティノ・バルボーニ氏をはじめとする14名の審査員達はこのイベントが来ないと夏が始まらないのだ!



このように解説すると、なにやらお手軽なコンクールデレガンスであるように感じるかもしれないが、それは正しくない。実はこのイベント、FIVAとASIという世界で重要な意味をもつクラシックカー団体の公認を得ている数少ないイベントなのだ。クアトロルーテとルオテクラッシケというイタリアで最も重要な自動車メディアのディレクターやコンクールデレガンスの常連審査員達の車を見る目は厳しい。審査委員長はコンコルソ・デレガンツァ・ヴィラデステの選考委員でもあるエマニュエル・バケであることも付け加えておこう。

さて、参加車両もきわめてバラエティに富んでおり、”庶民的な車”の参加も大歓迎ときわめて民主的だ。ノミネート基準は車への愛とここサルディニアへの拘りだ。VWタイプ2を熱愛するカップルはここサルディニアの”地元民”だ。リアの荷台には美味しい地元のチーズやワインを載せ、皆に振る舞ってくれる。



この60'sフィーリングに満ちた個体で美しい海岸を走ってみたいという参加者がいれば、親しげに車へと招き入れ、タイプ2の楽しさを共有してくれる。また、マトラ530 LXのファミリーは旧車マニアのユーチューバーとして有名が13歳の長女が、弟と共にマトラのスペックを含むプレゼンテーションを行い、大喝采を浴びている。一方で最新プロトタイプBergmeisterを持ち込んだRufのオーナーであるアロイス氏や、マニアックなKIMERA EVO37のプロトタイプを持ち込んだ殿堂入りのラリードライバー、ミキ・ビアシオンといった大御所の参加など、枚挙にいとま無い。付け加えるなら、彼らは皆、このところ毎年このイベントに参加する常連なのだ。





さて、コンクールデレガンスの各クラスとそのウィナーをまとめてみると以下のようになる。

ラ・ドルチェ・ヴィータ賞 - ランチア・フラミニアGTコンバーチブル・ツーリング(1967年)


ピース&ラブ・クラス - マトラ530 LX (1972)


セックス・オン・ザ・ビーチ・クラス - ガット・プーマ・デューン・バギー(1976年)


フェラーリ・トリビュート・トゥ・ルマン2023クラス:フェラーリ365GTB/4デイトナ(1970年)


ポルシェ75周年記念クラス - ポルシェ911ターボ(1980年)


SUPERCARクラス:ビッザリーニ 5300 アメリカ(1968年)


ラリークイーンクラス:ランチア037プロトタイプ(1981年)(写真左)


サムシング・スペシャル・クラス - キメラEVO37マルティーニ(2022年)


ベスト・オブ・ショーを獲得したのは1953年フェラーリ340MM(s/n0294AM)であった。コレクターのロベルト・クリッパがサルデーニャに持ち込んだスカリエッティのボディワークを持った美しい個体だ。1953年のミッレミリアに参戦したスクーデリア・フェラーリのワークスカーであり、ルイジ・ヴィロレーシがステアリングを握り、マイク・ホーソーンがシルバーストーンでツーリスト・トロフィーを獲得したという珠玉のヒストリーを持つ。



フェラーリに詳しい方なら、このボディスタイルにあれっ?と思われるかもしれない。そう、340MMはピニンファリーナのベルリネッタとトゥーリング、ヴィニヤーレのスパイダーしか存在せず、スカリエッティ製ボディは採用されていなかったはずだ。この個体のヒストリーはスペシャリストにより詳しく分析されており、以下の事実がわかってい。つまり、当初はトゥーリング製のボディが懸架されていたが、レースのアクシデントによりフロント部が大破。車両はフェラーリが引き取り、マラネッロで完全に修復された。その時にボディはスカリエッティ製のモンツァ仕様へとコンバートされたというワケだ。ちなみにその後、北米のインポーターのオーナーであったルイジ・キネッティのプライベートカーとしてしばらくの間、北米に保管されたという。 

このレースにおける素晴らしいヒストリーとオフィシャルとしてファクトリーでボディをコンバートされたというストーリー、それらの希少性に加えて、適切なレストレーションが行われたオリジナリティの高さから、満場一致でベスト・オブ・ショーに選考された。この素晴らしい個体が迫力あるエグゾーストノートを響かせながらVWタイプ2と併走するなどという興味深いシーンをポルトクアトゥ・クラシックの参加者は満喫したのだった。



例によって遅い時間から始まるディナーに引き続いて、深夜のパレードランと表彰式が行われ、主宰のシモーネ・ベルトレロとミッレミリアのコメンテーターとしても有名なサヴィーナ嬢の掛け合いで楽しく進行していく。興奮冷めやらないとはいえ、もう時刻はまもなく午前4時だ。さて、明日の朝のフライトでオルビア空港を発つ筆者としたらどうしたものであろうか。


文:越湖信一 写真:越湖信一、Poltu Quatu Classic
Words: Shinichi EKKO Photography: Shinichi EKKO, Poltu Quatu Classic

越湖信一

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