ヨーロッパ遺産の日その2:ART AUTOMOBILE

Tomonari SAKURAI

9月16~17日はヨーロッパ遺産の日。各地で普段は入れない施設が公開されたりイベントが開催されることは前回お伝えした通りだ。日曜はパリ郊外に出かけてみた。

「ART AUTOMOBILE」、このネーミングからして期待ができそうだ。会場はパリから西方、ランブイエ城に近いヌーヴィル城(Château de Neuville)。1701年に建てられたこのお城、名前を見たときは失念していたが、車を走らせているうちに以前にも車のイベント、Motor & Soul(2019/9/9掲載)で一度訪れていたことを思い出した。あいにくの雨。受付で担当者と話をすると、じっくり一日いてくれるように嘆願される。この日はまだ訪れるところがあるので、そうのんびりもしていられないのだが…

参加車両はちょうど最初のパレードランに出かけたところのようで、会場にいる車は数少ない。それでもARTと名付けられているだけあり、気になる車も多くいる。何よりお城の前でつややかに雨に濡れているのは美しい演出だ。

マセラティ・ギブリとアルファロメオ・ジュリエッタ・スプリント。

会場に残っている車に目をこらすと昨日とはうって変わって本格的な車のイベントを感じさせる。雨をしのぐようにテントの下に置かれた赤いシルエットは、まさかのフェラーリ315S。たしか3台が製造され、現存するのは2台のみというモデル。さすがARTと銘打っただけある。…と思ったものの、よく見ると何やら変だ。話を聞くとベルギーのアーティストが忠実に外観のみを制作したオブジェだそうだ。

いきなりフェラーリ315Sが展示されている!?

と思ったらディスプレー用に作られたもの。それでもこの作り込みに胸が躍る。

お城の庭の芝生に溶け混むクライスラー・エイトは同年代のキャンピングカーを牽引。雨の下に美しいドラージュが2台。ホチキス864S49などが雨の雫をまとって停まっている。

クライスラー・エイトと同時代のキャンピングカー。

ドライエの傘下に入ったドラージュのフラッグシップだったD8-120。

この日もう一台のドラージュはD8。

そうこうしているうちに、シトロエン2CVを先頭にパレードの一行が戻ってきた。JAPエンジンのモーガンスリーホイーラーズが続く。シトロエンDSやルノー4などおなじみの車達に加え、1650GTやジャガーDタイプレプリカが続いてくる。

JAPエンジンを積んだモーガンスリーホイラー。

オーガナイザーに指示を受けるマーコス1650GT。

1972年にRAMによって作られたD Typeレプリカ。

会場からお城の前にも車が展示してあるぞ、と教えてもらった。そうだ。前回の時もお城の正面にメインの車を展示していたっけ。そしてそこにはなんとアウトウニオンタイプCが。雨をよけるため、テントの中に停まっている。先ほどのフェラーリ315Sのこともあるので「これも実車ではないのでは?」とちょっと心によぎったが、これはれっきとした実物だ。ベルギーのD'Ieteren Galleryからの1台だった。V16気筒のエンジンを披露している。「これは走らせないのか?」と聞くと主催者側も残念そうに「Non」と答えた。

こんなものまで展示されている!朝の雨でテントを張っていたおかげでV16気筒を披露中。雨が止んでテントをしまった後はエンジンもカバーに隠されてしまった。

雨が降っていることもありまだ来場者も少なく、お城正面ではお城の関係者が目立っていた。その一人が「どこから来たの?」というので「日本から」と返すと「それじゃ、お城も見てもらわないと」と、まだお城を見学できる時間帯ではなかったが親切なこの人のガイドで場内に入ることができた。フランス革命で城主は処刑されたがイギリスに逃れた家族は革命が落ち着くとこの城を売却。それを購入した家族が今も城の主を務めているという。奥のダンスホールの鏡には革命時に放たれた銃弾の跡が残る。一通り城内を見終えると、主とその家族が見送りに来てくれた。何とも人なつこい人たちだろう。「来年はヨーロッパ遺産40周年なので盛大にやるからまたおいで」そういって見送ってくれた。

城に入ると元々の城主、ルイ15世の財務官だったフランソワ・ド・ラヴェルディの胸像が。本人は革命で処刑されている。

城内から眺めた会場。

現在の城主とその家族。王様を囲むプリンセスとプリンス達だ。

素晴らしい車達に出会え、そして温かいお城の人たちと交流出来て素晴らしいヨーロッパ遺産の日となった。そして、ここを後に次のイベントへ向かったのだ。それはル・マン24時間レース100年を記念したイベント。なぜパリの郊外で?それは次回に。


写真・文:櫻井朋成 Photography and Words: Tomonari SAKURAI

櫻井朋成

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