今回、
「Citroënist Rendez-vous OWNERS’ FESTIVAL – 2023」へ向かうにあたり、飛騨高山への足として最新のシトロエンC5 X プラグインハイブリッドを往路に、復路はC5エアクロスSUVを借り出したので、そのショートインプレションをお届けしよう。
結論から言えばC5 Xは過去と未来が融合した非常に魅力的なシトロエンだった。新世代シトロエンのデザイン言語をさらに進化させたそのスタイリングは、DSやCXもそうだったようにセダンやステーションワゴンといった伝統的なボディタイプの「次の形」を提示している。
写真:編集部そしてプラグインハイブリッド(以下PHEV)モデルに搭載された「アドバンストコンフォート アクティブサスペンション」がとにかく素晴らしい。これはシトロエンの歴史的資産の代表であるハイドロニューマチックの現代的解釈とする「プログレッシブ・ハイドローリック・クッション」(PHC)に、電子制御による減衰力可変機能を追加した最新版だ。PHCはダンパーの中にもう一つバンプラバーに代わる位置依存型ダンパーを組み込むことでメインダンパーの減衰力を低めに設定し、日常領域での柔らかい足回りを実現している。アドバンストコンフォート アクティブサスペンションはさらにリザーバータンクのような部分に溜めたオイルを電制ソレノイドバルブでコントロールすることで減衰領域を拡大・可変としている。
その効果は絶大だ。PHEVモデルの足捌きは「ほぼハイドロ」と言って差し支えない。特にコンフォートモードにおける街中でのゆらゆらした動きはまるでDSのようだ。XMじゃない。CXでもない。信じられないが似ているのはDSだ。そしてクイックなステアリングもハイドロシトロエンの流儀を受け継いでいる。交差点で曲がるときなどは助手席の人の頭を揺らさないように気を遣う。つまりうまく運転するのには少々慣れが必要で、そのあたりも実にそれっぽい。
ボビンのBXから5台のエグザンティア、そして2代目C5を乗り継いだ筆者としてはコンフォートモードではなく通常モードくらいの柔らかさが心地よかった。高速になれば足回りは程よく引き締まり、周期の長い揺れを楽しませてくれる。さらにスポーツモードでは驚くほど固められた足回りと、重さを増したクイックなステアリングの相乗効果で、タイトな山道を軽快に駆け抜けることができる。この芸風の幅広さはハイドロもハイドラクティブにも真似ができない。
もちろんハイドロとは違う部分もあって、中高速域での揺れの収まり方がちょっとだけ軽い。もう少し粘度の高いオイルを使ってほしい感じだが、それもあえて言えば、というレベルの話だ。
目から鱗のPHEVシステムのスムーズさ
バッテリー残量は驚くほど正確だった(写真:編集部)ショートインプレッションと言いながら、ついつい足回りの話が長くなってしまったが、C5 XのPHEVシステムのスムーズさにも驚きがあった。ハイブリッドモードでもバッテリー残量がある場合は基本的にEVであり、踏み込んだ時などにエンジンがかかる設定だ。パワーもトルクも十二分に余裕があり合流時の加速もかなり速い。新しい時代のパワーユニットらしく、エンジンがかかっている時もATの変速は注意を払っていないと気がつかない。そして加速時のみならず減速のスムーズさも特筆すべきレベルだ。一定の踏力でこれほどトルク変動がなく同じ割合で減速ができる車はちょっと記憶にない。
今回は気温が35度近い状況の中でエアコンへの負荷は相当なものだったが満充電時のEV航続距離は30kmと表示され、そしてその距離はかなり正確だった。燃費は燃費計による概算でバッテリー残量0%時のハイブリッドモードで13~16km/Lくらい、充電モード時で11~13km/L前後だと思われる。欧州メーカーのPHEVを「取ってつけたようなもの」と思い込んでいた筆者の認識を改めるに十分な実力の持ち主だった。
これほど柔らかな足回りのSUVは依然として他にない
復路のC5エアクロスSUVのディーゼルモデルについても手短に触れておこう。顔つきがスマートになったマイナーチェンジ後のモデルは8ATの制御マナーが大幅に改善していた。もしかしたら試乗車が13,000km走っていたことも理由かもしれないが、むやみに2速で引っ張ったり、引っ掛かったりすることがなくなった。ゆえにダイレクト感のある市街地の走りが好印象だった。
こちらの足回りは電子制御なしのPHCだが、タウンスピードだと以前より揺れなくなった気がしたのはC5 Xに乗った直後だったからだろうか。逆に高速では初期モデルよりもしなやかになった印象だ。段差を乗り越えた時に大径タイヤの存在を感じることはあるものの、ラグジュアリーブランド以外で、これほど柔らかな足回りのSUVは依然として他にはない。切り始めが穏やかで、しかし切り込んでいけばシャープで手応えのあるステアリング特性はC5 Xよりも多くの人に受け入れられるだろう。
写真:編集部エンジンはディーゼルにも関わらず6000回転までパワーの衰えを感じさせず、なんなら高回転域でもパンチがあると表現しても良いくらいだ。燃費は高速中心で15~16km/Lと十分。ステランティス、いやPSAのディーゼルの高い実力を改めて印象付けられた。
文:馬弓 良輔 写真:阿部 昌也(特記以外)
Words: Yoshisuke MAYUMI Photography: Masaya ABE