ガルウィングのレアキャラ!? 世界で1台だけの破天荒な「ボシャートB300」

RM Sotheby's

ボシャートB300は1989年のフランクフルト・モーターショーでデビューした、ガルウィングを備えたメルセデス・ベンツ300CE(C124型:W124ベースのミドルクラス・クーペ)のチューニングカーである。ボシャートはドイツ人エンジニア、ハルトムート・ボシャートが立ち上げたチューニングブランドで、メルセデス・ベンツ300SL(通称ガルウィング)へのオマージュであった。



理由は定かではないがメルセデス・ベンツがなかなかガルウィングを復活させなかったなか1980年代、ドイツのチューナーによるガルウィングの投入が活発化した。スタイリングガレージが投入したC126(W126ベースのフルサイズ・クーペ)のガルウィングを覚えている方もいらっしゃることだろう。メルセデス・ベンツとしては特別なモデルのためにガルウィングの投入を“出し惜しみ”していたのだろうか?

振り返ってみると1980年代のドイツのチューニング・シーンは…、商売上の目論見度外視(?)、ワイルド、奇想天外、そしてなんとなく景気が良さげな勢いを感じさせるものばかり。B300は18万6000ドイツ・マルクという価格が掲げられ、300台の販売が見込まれていた。当時のメルセデス・ベンツ最高級車であるS600の2台以上の価格だったという。

B300のガルウィングは電動油圧式で、まだ同年にデビューしたばかりのメルセデス・ベンツSLクラス(R129型)のフロントマスクを纏っていたことから話題を呼んだ。ベース車両の300CEが搭載していた3L直6SOHCエンジンにギャレット製ターボチャージャーを2基装着し、最高出力が283psにまで引き上げられていた。大した数値には聞こえないだろうが、ベース車両の最高出力はたったの185psだった。







インテリアはエクステリアほどドラスティックには変更されていない…。フロントシートはSL譲りであるほかは、300CEのままだ。リアシートは装着されているが、足元のスペースがほとんどない。なんだかんだ言っても、B300はガルウィングだけで十二分にインパクトはある。開口部が広いので乗り降りはし易そうだ。と同時に、開口部が広いのでボディ剛性を確保するために、サイドシルをはじめ各種補強がなされているそうだ。実作業を行ったのは、ザガートである。







当該車両、オークションに出てくるのは非常にめずらしい。…というのも300台の生産が見込まれたものの、結果として11台しか作られなかったからだ。そして、ガルウィングを備えたB300はなんと当該車両1台のみ、というレアキャラである。



フランクフルト・モーターショーに登場した際、B300はシルバーのエクステリアに黒内装という組み合わせだった。前オーナーがエクステリアをボーナイト、そして2トーンのパープル内装に変更した。この前オーナー、ハルトムート・ボシャートの甥で出資者の一人でもあった。そんな前オーナーがB300を売りに出したのは2005年のことだった。

今回、RMサザビーズに出品している人物(現オーナー)、オークションサイトでは一切触れられていないが、子供の頃に憧れて部屋にポスターを飾るほどB300の熱烈なファンである。まだ学生で無一文だった頃、eBayでB300の売り物に出くわすも気づいたときにはオークションは終了していた。ダメ元で出品者に連絡してみたところ、オークションは不成立だった。そこで後先考えず現オーナーは出品者の元へ駆けつけた、帰りのガソリン代も考えずに…

B300はガレージの奥深くに仕舞い込まれ時間が経っていたのでエンジンはかからず、ガルウィングは開かなかった。しかし、憧れの車に出会った現所有者、前オーナーに熱い思いを伝え、3か月以内に決済する約束を交わし購入するに至った。具体的な金額は明かされていないが、不動車で傷もチラホラあったので破格にて購入できたそうだ。

それまで乗っていた自分の400E(W124型)、過去に購入していた500Eのエンジン、400Eのパーツなどを売却し、あげくの果てには自分の姉の彼氏(後に義理の兄となった)にまで借金して資金を捻出したという。若気の至りであったろうし、それほど惚れ込んだ車であったろうし、情熱はB300購入だけでは終わらなかった。なんとB300に乗って、ハルトムート・ボシャートに会いに行った、というから恐れ入る。



今回、出品されている車両には“付属品”としてハルトムート・ボシャートから譲り受けたB300構想段階のイラストやビデオなども含まれている。実に18年間所有してきた憧れの存在、どういう理由で手放すことになったのか定かではないが、世界で1台だけの破天荒なガルウィングがどれだけ入札されるか見ものだ。



なお、RMサザビーズでは落札予想価格を25万~30万ユーロと見込んでいる。


文:古賀貴司(自動車王国) Words: Takashi KOGA (carkingdom)

古賀貴司(自動車王国)

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事