奇天烈すぎる!? ベントレーV8ターボエンジンをフロントに積んだポルシェ911

何事においても“大人が真剣に遊ぶと面白い”とはよく言ったものだ。予算やこだわりの面において中途半端ではない、というのがポイントなのだろう。そして先日、オークションハウス「ボナムス」が開催したオンライン・オークション（Bonhams|Cars Online）で落札された1995年式ベントレー／ポルシェ・ターボ2シータースペシャルは大人が真剣に遊んだ証である。

1971年式のポルシェ911Tに1982年から1985年にかけて生産された、ベントレー・ミュルザンヌ・ターボの6.75リッターV8エンジンが組み込まれている。「1995年式」とオークションサイトに表記されているのは、完成時期のことだろうか？もし、そうであれば空冷ポルシェが今のように高騰していない時代で“安い911で面白いことしてみよう！”と思った人がいるのだと推察する。もっとも、この車両がオーナーによる「依頼」で製作されたのか、ホットロッド・メーカーによる「自発的」な製作物なのかは、定かではない。



2シータースペシャルを手掛けたのは、フランスが誇るホットロッド・メーカー、ダントン・アーツ・カスタムである。数年前にはランボルギーニ・エスパーダ、直近では6輪のロールスロイス・ファントムを作り上げたことで名を馳せている。実は筆者、2018年に開催されたモナコ・ヨットショーを訪れた際、2シータースペシャルを目撃していた。だた、会場ではエスパーダに目を奪われてしまい、どうやらちゃんと写真を撮っていなかったようだ。

ダントン・アーツ・カスタムが手掛けたエスパーダ。

その後ろに見えるのが2シータースペシャルだ。

2シータースペシャルは写真で見ると、まるで玩具。タイヤがボディからはみ出す…、どころか、もはやオープンホイールのレーシングカー仕立てになっている。AピラーやBピラー部分はスピードスターのように低められ、911なのにフロントエンドにベントレーのターボエンジンを搭載。







トランスミッションは…、ボナムスでも分かっていない、というから凄い話だ。ちなみにボナムスによる紹介では「シーケンシャル、もしくはセミATのようなものを搭載している、と思われる」と案内されていた。写真を確認すると、2シータースペシャルはどうやら2ペダルのようでベントレーのエンジンを流用していることから、ミュルザンヌ・ターボの3速ATでも驚きはしない。



フロントの丸目ヘッドライトの“左右幅”が縮められており、低い車両と剥き出しのエンジンと相まって、可愛らしさと力強さをアーティスティックに両立させている。面白いのはポルシェ911らしさを感じさせるためか、ヘッドライトから20cmほどは911に独特なフロントのフェンダーラインを踏襲していることだろう。丸目ヘッドライトだけだと、何がベースなのかぱっと見分からないからか？なお、車両に向かって左側のヘッドライト、実はヘッドライトハウジングを有しているだけで、実はエアインテークが“仕込まれて”いる。



インテリアは清々しいほどシンプルで、メーター類やスイッチ類の左右対称ぶりも見ていて気持ちが良い。ドア内張部分やセンターコンソールのシフトノブ周りにはリベット留めされたアルミ板がこれまたアーティスティックに奢られている。剥き出しのシートはポルシェ譲りでもベントレー譲りでもなく、アルミで作られたワンオフ。見映えはするが…、衝撃吸収クッションを用意しないと…、身体が文字通り破壊されそうだ。







2シータースペシャルは、今はなき「ロンドン・モーター・ミュージアム」に収められていたが経営破綻により裁判所命令で、今回のオークションに出品された。トランスミッション不明、現状、走るのか否かも不明とあって、落札予想価格は5,000ポンド～1万ポンドと控えめだった。しかし、いざセリが始まると88件もの入札があり、最終的に3万1,978ポンドで落札された。落札予想価格をこれほど上回るオークション、近年稀に見る事象である。

屋根、ウィンドウ類、内装もほとんどない911T…、どう考えても軽いはずだ。ベントレーの6.75リッターV8ターボエンジンは恐らく最高出力300psは超えるだろう。2シータースペシャルはサーキットマシンとしては作られていないだろうが、直線では誰しもに笑顔をもたらすに違いない。

Bentley/Porsche Turbo from Bonhams|Cars Online on Vimeo.

そして…、たとえ走らせなくとも、オブジェとしてのニーズにもしっかり応えてくれるだろう。

文：古賀貴司（自動車王国）　Words: Takashi KOGA (carkingdom)