スピードという魔力を美しいフォルムに表現│アルファロメオのデザインヒストリー

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アルファロメオの好きな点といえば、「デザイン」と言葉にする人が多いだろう。Tipo33ストラダーレに代表される、美しきデザインはどのように生まれたのか。そして、どのように受け継がれたのであろうか。

20世紀初頭のイタリアに、「未来派」という芸術運動があった。ちょうどアルファロメオが創業した頃だ。未来派はピカソのキュビズムに影響を受けつつ、車や航空機といった近代技術がもたらす「スピード」に新たな時代の美意識を見ていた。
 
フランスのアールヌーヴォーやキュビズムに触発され、欧州各地で新たな芸術様式が盛んに模索されたこの時代に、「スピード」に着目した未来派は特異な存在だった。ルネサンス以降、芸術の発展が停滞していたイタリアでは、近代技術の可能性を活かして現状打破する未来派が人々から支持されたのだ。
 
そんな時代に生まれたのが、アルファロメオである。ざっくりといえば、1910年の創業から30年代までの同社はレースばかりしていた。顧客から速い車を求められたことに加え、まだ若い新興メーカーにとってはレースで技術力を証明する必要があったからだが、それがもたらしたのはレースの勝利だけではない。アルファにボディを提供するカロッツェリアたちは「未来派」の志を受け継ぐように、スピードという魔力を美しいフォルムに表現。人々の共感を誘い、アルファロメオの名声向上に貢献した。
 
スピードの美学を技術面から支えるのが空力だ。30年代に「ストリームライン=流線型」のトレンドが世界を席巻するが、アルファロメオはトレンドが去っても、風という目に見えない相手との戦いを続けた。風に磨かれた無駄のないフォルムにスピード感とエレガンスが共存することを、彼らは見抜いていたのだろう。50年代のディスコ・ヴォランテやジュリエッタ・スプリント、60年代ジュリアのスプリント、スプリント・スペチアーレ、TZ / TZ2 …空力に裏打ちされたスピードの美学は多くの名作を生み出した。


 
その極みを挙げるなら、67年にプロトタイプが発表され、その後18台だけ生産された33ストラダーレをおいて他にない。Tipo 33レーシングカーのホイールベースを10cm 延ばし、フランコ・スカリオーネの手になるボディを架装したロードゴーイング・スポーツ。学生時代に航空工学を学んだスカリオーネは、Tipo33という最高の素材を手にして、空力的かつエレガントで、さらに270ps(生産型は230psにディチューン)のV8の鼓動を伝えるような、生命感に溢れるフォルムを創案した。

この33ストラダーレのもうひとつの意味は、スピードと美のシンプルな蜜月関係を終わらせたことだ。Tipo33はその後も改良が加えられてサーキットで活躍するが、そのどれと比べても33ストラダーレのほうが美しい。レギュレーションに制約されるレーシングカーは、いくら速くても美しいとは限らない。スピードの美学が覆されたアルファロメオのデザインは70年代以降、しばし模索の時代を続けることになる。


 
86年に長年のライバルであるランチアと共にフィアット傘下に入ったことで、転機が訪れた。グループのなかでブランド・アイデンティティを発揮するため、デザインで「らしさ」を再興しなくてはいけない。164から始まったこの努力は、156で大きく結実した。タイヤの存在感を示すように前後フェンダーにキャラクターラインを配しつつ、精妙に変化する曲面で包まれたボディサイド。そこに見る無駄のないシンプルさとエレガンスは、スピードの美学という伝統を蘇らせるものだった。そしてその精神は、最新アルファのデザインにも確かに受け継がれている。

文:千葉匠 写真:FCA Words:Takumi CHIBA Photography:FCA

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