敗者はいかに?│ポルシェ911ターボ vs アストンマーティンV8ヴァンテージ

Photography:Stuart Collins and Matthew Howell



イギリスのメディアは、もちろんアストンを高く評価した。1981年発売のモーター誌は「ヴァンテージはこれまで発明された移動手段のなかでもっとも優れたもののひとつ」と評したのに続き、「78年間にわたってモーター誌がテストしたなかで最良のモデルであり、引き続きイギリス車が世界の頂点の君臨している事実は素晴らしいことだ」と締め括った。



なるほど、このときの比較テストによると、120mph(約
192㎞/h)までの加速でアストンを上回るものはなかった。ちなみに、V8ヴァンテージと比較されたのはランボルギーニ・カウンタック、フェラーリ512BB、ポルシェ911ターボ3.3の3台である。

その数年後、今度はオートカー誌が911ターボをテストした。「リアビューミラーの視界は白い煙で覆われ、ノイズが次第に高まっていく。すると、この世のものとは思えない加速が始まり、その勢いは120mph(192㎞/h)に達するまでまったく変わらなかった。やがて車速は140mph(224㎞/h)に達し、全長1マイルのストレートをまたたく間に駆け抜けた。しかも、ここまでに要した時間は30秒を切っていたのだ!」 

小気味いい音を立ててドアを閉め、フラット6に
火を入れる。軽くうなるような、そして羽ばたきするような音とともにエンジンが目覚める。バケットシートは現代の標準からするとやや小さめだが、それだけにホールド性はバツグンだ。

シフトレバーを1速に送り込み、踏みごたえのしっかりとしたオルガン式のクラッチペダルを戻しつつアクセラレーターを踏み込む。ギア比の高い1 速は3000rpmあたりから力を発揮し始め、4000rpmで勢いを増すと、そのまま6500rpmへと一気に到達する。ここでシフトアップすると回転数は4500rpmに落ちるが、その先はまったく同じことの繰り返しで、何度も強大な加速力を味わうことになる。

いや、圧倒的な迫力という意味ではアストンも負けていない。ただし、そのテイストはいささか異なっている。ボディはより大きく、立派で、ヴァンテージが生まれた当時のことを考えてもやや時代遅れかもしれない。初期のヴァンテージはウッド仕上げのインテリアがオプションで、標準は黒のビニール張りだった。つまり、豪華さよりもスポーティさを強調したキャビンなのだ。

シフトレバーは優雅なデザインだが、シフトミスは犯しにくく、強大なトルクを断続するクラッチペダルは思いのほか軽い。とはいえ、この車のキャラクターはエンジンによって完全に支配されているといっていい。ハードで、力強いビートを奏でながら、まるでマッスルカーのように加速していく。しかも、スロットペダルを1㎜踏めば、それを正確に反映したパワーをエンジンが生み出される。ただし、公道上でそのパワーを完全に解き放つのは、あまりにも無謀というものだ。

911ターボとヴァンテージが現役だった頃と同じように、ふたつのモデルの"テリトリー" はまったくといっていいほど異なっている。現在、中古車市場におけるアストンの価格は8万〜12万ポンド(約1400万〜2100万円)。いっぽうのポルシェは4万〜6万ポンド(約700万〜1000万円)ほど。ただし、ポルシェがエンスージアスト向けのドライバーズカーであるのに対し、アストンは助手席の乗員もドライバーと同じようにその持ち味を味わうことができる。

どちらがウィナーか、だって? 私には到底決められない。ただひとつはっきりしているのは、ここに敗者は存在しない、ということだ。

編集翻訳:大谷達也 Transcreation:Tatsuya OTANI  Words:Glen Waddington 

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事