テーマは「コンテチーズ」人間国宝による見事な「エリオグラビュール」で制作

5月に予定されていた写真展「Comte-コンテ」は自粛のおかげで12月に延期となってしまった。そしていよいよその12月がやってこようとしている。「食」をテーマにした作品から第一弾としてコンテチーズを題材にしたものだ。コンテチーズとはフランスで最も人気のチーズ。スイスの国境に近いジュラ地方で作られる。ジュラシックパークのジュラだ。冬は数メートルの雪が積もる地域でその厳しい気候があったからこそコンテチーズが生まれた。最低6か月の熟成が必要とするチーズだ。長いものでは24か月以上のモノもある。この写真展のためにほぼ1年かけて撮り下ろした作品だ。その写真を19世紀の写真プリント技術エリオグラビュールで制作している。そのプリントを担当したのはフランスの人間国宝のファニー・ブーシェだ。

12月15日〜27日。日本橋ルーニィ247ファインアーツにて開催です。

 
パリの西方、セーヌ川を越えた所にあるムードンという街。そこにPotager du Dauphinがある。ここはルイ14世の息子グラン・ドーファンの為に購入した場所。ここは現在ムードン市が芸術家のために開放している特別な場所だ。建物内はアトリエがいくつもありファニーのエリオグラビュールの他、家具の修復士、絵画の修復士ファッションデザイナーや彫刻家などさまざまなアーティストがここで作品を制作しているのだ。

ゼラチンシートを感光させてそれを銅版に密着させる。感光したところはぬるま湯で溶けていく。

布で余分なインクを拭き取ったら、手のひらで調子を整えていく。
 
このエリオグラビュールは19世紀、写真の黎明期に生まれた技法のひとつ。手間がかかることから20世紀の初頭には消えてしまった。銅版のエッチング版画を学んでいたファニーがこのエリオグラビュールを知り、写真の歴史研究家からその技法の学び、現代のデジタルカメラからそれが出来るようなやり方を見つけ出した。彼女は刷り師として写真家からの依頼を受けてエリオグラビュールを制作する。写真家の表現したいことを理解し、それを形にしていく。道具とそれぞれの作業時間を費やすだけでなく、その研ぎ澄まされた感覚と職人技が単なるプリントではなく作品へと高めていくのだ。その功績が認められフランス人間国宝に指定。2016年には東京国立博物館でフランス人間国宝展に参加する。

酸で溶かして出来たくぼみにインクを残し不要なインクを拭き取る。

コンテの作品は12月15日東京日本橋のルーニィ247ファインアーツの展示を見ていただくとしてここではその制作風景を紹介する。スマホで誰でも簡単に写真が撮影でき、SNSで世界中の配信も容易な現在。作者の意図にかかわらず世界に無数に、拡散していく写真。そしてここでは写真作家とフランス人間国宝によって限られた枚数だけオリジナルプリントとして世に残る。できあがった作品は油性のインクのため退色などもなく紙が多少汚れても洗うことまで出来るため、数百年は残していける。誕生から100数十年しか経っていないが当時刷られたエリオグラビュールの写真はその時を感じないほどにしっかりとその画を残している。

フランス人間国宝ファニーブーシェ。最年少で指定された。4月の外出禁止令の時にこの写真展のための作品を丸2か月かけてプリントしてくれた。そして今回ポートレートをまたまた外出禁止令の中行ったのだ。
 

日本では中々見ることの出来ないプリント技法を用いた作品「Comte-コンテ」を是非実際にご覧いただければと思う。コロナウイルス感染拡大がこれ以上悪化しませんように…

写真&文:櫻井朋成 Photography&words: Tomonari SAKURAI

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