元オーナーと運命的な再会を果たす|あるロータス・エリートの思い出【後編】

Dean Smith

この記事は『かつてのオーナーは元FIA会長|あるロータス・エリートの思い出【前編】』の続きです。

モズレーが手放して以降、エリートは複数のオーナーの元を転々とする時期に入る。モズレーのあとは南ウェールズのJ. G. ブライアント、次にグレーヴズ- モリスが所有し、1969年末にレストアに着手したところでプロジェクトは頓挫した。

再び日の目を見たのは1997年のことで、クラブ・エリートの事務を担当するリチャード・ウィルソンが偶然これを見つけた。ウィルソンからクラブ会長のジョン・ミードに渡り、S2仕様にレストアされ、フランスに買い取られていった。

2015年、グッドウッド・リバイバルで開催されたボナムスのオークションに、このエリートが現れた。カタログには、シャシーナンバーEB1649は「最初、1961年11月23日にマンチェスターのモズレー氏がロータス・カーズから購入」とあったが、あのモズレーだとは気づかれていなかった。だが、熱心なロータスファンのマイケル・ヒッパーソンが、これに気づいたのである。ヒッパーソン本人も興味深い人物だ。エセックスの農場主の息子として生まれ、ブレインツリーで整備工場を営んでいた。兄弟がロンドンのハイゲートの高級車ディーラー、ヘクサゴン社で働いていたこともあり、クラシックカー市場が成熟するはるか前の1972年から80年代中頃にかけて、車に投資していた。4600ポンドで購入したGT40を日常使いにし、4年後にアメリカへ1万7500ポンドで売却したこともある。1975 年にはGT40 のほか、2800ポンドのデイトナと4000ポンドのミウラがガレージに並んでいた。

「私は1947年にエセックスで生まれてこのかた、ほかの場所に住んだことはないし、住みたいとも思わない。1982年に整備工場を売却してリース会社を興し、44年間経営して、2019年に引退した」とヒッパーソンは話す。骨の髄までロータス一色の熱烈なファンで、1968年に最初のエラン(1966年製のクーペ)を購入。次にトライアンフ・スピットファイア、フォード・エスコート・ツインカム、そしてゴールドリーフカラーのエラン・スプリントを手に入れた(キットで購入したが、自分でやったのはサスペンション・レッグを1本取り付け、エンジンとギアボックスを搭載したことだけだという)。のちにはウェッジシェイプのエリート501を所有し、2001年にはエリーゼ、次ももう1台エリーゼ(S2で9年間所有)、そしてエヴォーラと続く。

ヒッパーソンは2000年代初頭に「エリーゼ・ガーデンパーティー」というチャリティーイベントを始めた。サウスエンドにある小児ホスピスのリトル・ヘヴンズをはじめとする慈善団体への寄付を募るためだ。2005年には、オークションと、ゲストスピーカーによる講演会(初回はコーチング理論で有名なジョン・ウィットモア卿)を含むナイトイベントに発展した。以来、デイモン・ヒル、ジャッキー・オリバー、ジョディ・シェクター、クリスチャン・ホーナー、ロス・ブラウン、マーティン・ウィットマーシュ、マーク・ウェバー、ローズマリー・スミス、ルイーズ・エイトケン-ウォーカーなどをゲストに迎えてきた。これまでに集めた募金は35万ポンドに上る。



再会のとき


さて、ここでようやく『Octane』の登場である。前述したボナムスのオークションの翌週、『Octane』はロンドンの王立自動車クラブでマックス・モズレーを迎えて夜のイベントを開催した。ヒッパーソンはそこに出席しており、絶好の機会とばかり、イベント後にエリートの件をモズレーに伝えた。モズレーは昔の愛車が現存することを聞いてたいへん喜び、間違いなく自分が所有していた車だ、ぜひ買い戻したいと訴えた。

これで"めでたしめでたし"ではなかった。例のオークションで、エリートは5万7500ポンドで既に落札されており、落札者はヒッパーソンではなかったのである。ヒッパーソンはボナムスに連絡し、落札者がアメリカ在住のスコットランド人で、エリートがハンプシャー州で輸送を待っていることを聞き出した。ちょっとした交渉の末に、モズレーはエリートを取り戻し、ヒッパーソンを後見人に指名した。



以来、最初の登録番号に戻ったエリートは、オリジナルの赤に塗り直され(ダークブルーとシルバーのルーフに変わっていた)、エンジンは第一人者のトニー・マントルによってリビルドを受け、1500ccに拡大された(オリジナルのエンジンブロックも保管してある)。

エリートの魅力を試す


エリートから受ける第一印象といえば、何と華奢でプロポーションが美しいかに尽きるだろう。ドアのラッチからクォーターバンパー、計器やスイッチ類まで、すべてがミニマムでスレンダーだ。空力を考慮して断ち落とされたテールも、1950年代には賛否が分かれたが、今は違う。車内は意外にも広々としており、決して背が低くはない私でも、ヘッドルームがたっぷりある。シートは快適に体を包み込む。現代の3点式ハーネスは少々場違いに見えるものの、体を固定する効果は抜群だ。ただ、ルーフの内側がむき出しで繊維の織り目が見えるのは、最高に美しいとはいえないし、ドライバーの後ろにストラットタワーが高々と突き出しているのもいただけない。



始動すると、ストイックなコヴェントリー・クライマックスが快調にリズムを刻む。その背後に聞こえるのは、標準のSU製キャブレターではなく、2 基のサイドドラフト式ウェバー40 で、吸気音は徐々に高まっていく。この車の何たるかを最もよく物語っているディテールが、短い棒のようなシフトレバーで、ボールペンほどの細さしかない。まるでロータスが、恐ろしく効果的で速くあるためには、車体と同様、大きくたくましくある必要はないと強調しているかのようだ。親指と人差し指で操作すると、繊細な磁器のカップで飲むときのように、小指が立ってしまう。このレバーで操作するのはZ F 製4 段ギアボックスで、そのギアレシオも動作も極上である。1 速に滑り込ませて発進すると、車軸の小さな音に続いて、聞き慣れない様々なノイズがする。たとえば、デフがアンダーフロアをノックするゴツゴツという音だ。エリートに乗ってすっかりリラックスできるまでには、数分かけて、車やそのサウンドに対する従来の認識を改める必要がある。

ステアリングは予想よりやや重く、エランほどダイレクトではないが、あまり軽くもならないから、スピードを上げれば完璧な重みになるだろう。間もなく、慎重ながらもかなりの速度を出していた。奇妙なことに、いったん走り始めると、700kg足らずのFRP製モノコックのようには感じない。むしろ比較的がっしりした印象で、純然たるスポーツカーというよりGTの感触に近い。本当にそうなら、GTにしては絶妙のハンドリングだ。コーナーを滑るように駆け抜け、苦もなくバランスを保つ。使い古された言い回しだが、この賛辞がふさわしい車があるとすれば、まさにこの1台だ。ウェバーによるトルクと、素早いが強烈というほどではない加速は、スターティングブロックから勢いよく飛び出したスプリンターが、安定した滑らかなストライドに落ち着くのを思わせる。

ペースを上げていくと、まるでエリート自ら油圧で5cmほど車高を上げ、それに合わせて重心も上げたように感じる。さらに本格的に速度を出すと、指先でステアリングを操るだけで、夢のようにコーナーを滑り抜けることができる。155SR 15のタイヤの細さとその動きが、ステアリングから手に取るように伝わってくるのには舌を巻いた。速度を上げれば上げるほど、エリートの安定感は増していく。実際には、綱渡りのように繊細なハンドリングなのかもしれない。しかし、コントロールがあまりにも簡単で軽く、バランスがあまりにも完璧なので、目を見張る速度をキャリーしたままコーナーを抜けても、そうは感じないのである。



冷静に見つめ直してみよう。おそらくエリートの最大の武器は、ドライバーを虜にし、夢中にさせるだけの十分なペースはあるものの、車の限界を超えてドライバーをヒヤリとさせるほど速くはないところにある。ヒッパーソンも同じ意見だ。「1978年に父が1台所有していて、私は大好きだった。ルックスでこれに勝る車はないと思う。マックスが私を管理人にして運転させてくれて、本当に幸運だ。110bhp で650kgだから、真のドライバーズカーではあるけれど、そこまで速くはない。たしかに手間がかかるし、ノイズはうるさいし、みんな車内の反響音に不満をこぼす。だが、その走りはほかのどんなものとも違う。絶えず整備や維持が必要で、毎日のようにマーク・サンフォードが見ている。ロータスオーナーでもある地元の整備工場のオーナーだよ」

最後はモズレーの言葉で締めくくろう。エリートとの再会を本当に喜んでいた。「結婚生活の初期においてとても大きな存在だった」からだ。そして、史上最も美しい車と評価していたからでもある。取り戻してから、大いに活用できたのだろうか。「望んでいるほどではないね。あの車は、現代のロンドンの交通事情に最適とはいえないから、マイケルと田舎暮らしをしているよ」

生前に一度もドライブできなかったのだとしたら、何とも悲しい話だ。けれども、静かなエセックスの田舎道をエリートがのびのびと駆け抜けていたことだけは確かである。


編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.)
原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:James Elliott Photography:Dean Smith


1961年ロータス・タイプ14・エリート(EB1649に関するデータ)
エンジン:1500cc、4気筒、OHC、ウェバー製キャブレター×2基
最高出力:110bhp/6100rpm 最大トルク:9 . 7 kgm/3300 rpm
変速機:前進4段MT、後輪駆動 ステアリング:ラック&ピニオン
サスペンション(前):ダブルウィッシュボーン、コイルスプリング、テレスコピック・ダンパー
サスペンション(後):トレーリングアーム、"チャプマン"・ストラット、コイルスプリング
ブレーキ:4輪ディスク 車重:673 kg
最高速度:185 km/h 0-100km/h:8 . 5秒

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵

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