W12?V8?PHEV?...ベントレーベンテイガのグレード選びは非常に悩ましい

Photography:Masaya ABE

W12ツインターボか、V8ツインターボか。その選択だけでも実に悩ましかったというのに、 最近ではV6ターボ+電気モーターのPHEVまで上陸した。ベントレーのSUV、ベンテイガを買おうと思うとグレード選びから大いに楽しめそうだ。

もっとも、12気筒やPHEVはキャラクターがまだしもはっきりしている。三つ巴となったことで逆にV8の存在感が希薄になったように感じた方も多いのではないか。筆者でもまずはそう思ってしまう。これから取り巻く環境もいっそう厳しくなって存在理由が問われるに違いない至高かつ不世出の12気筒エンジンと、完全なるバッテリー電動までのセットアッパーとして重要な役割を担うことになるPHEVは、いずれにもパワートレーンそのものに“購う理由”があった。対して奇しくも日本仕様においてはPHEVと同価格に設定されたV8エンジン搭載グレードには、8気筒マニアックを除いて、あえて選ぶ強い動機が見当たらない。少なくともカタログを眺めている限りでは。



実をいうと自分で買うならV8グレードが良いと思っている。なぜか。パワートレーンがベンテイガというモデルのキャラクターによく似合っていると思うからだ。一言でいうと、パーフェクトバランス。こんな風に書くとすぐ、じゃ他の2グレードのバランスは崩れているのか、と返す向きがたまにいらっしゃるのだが、そういうことを言いたいわけじゃない。街路からカントリーロード、そして高速道まで様々な場面においてドライバー中心のテストを試みたときに、その評価チャートグラフが大きな円になるという意味だ。

あれはミュンヘンで初めてベンテイガのV8を試した時のことだった。アウトバーンでは当然ながら極上のグラントゥーリズモで、SUVであることを意識するのは高い視線のみ。もっともこのキャラクターはどのベンテイガにも共通する。V8らしいなと思ったのは、山間部が近づいて一般道に降りてからだった。冬季で周りは当然ながらの雪景色。路面もところどころに凍結が見受けられた。そんななかを優れた電子制御に助けられながら軽快に走破するベンテイガV8。まるで不安がない。むしろ積極的に運転を楽しみたくなる。

グランドトゥーリングカーとしての本質はそのドライビングポジションにもある。アイポイントの高いSUVにもかかわらず安定したホールドが約束されており、コーナーリングや急加減速時においても安定したドライビングを可能にする。

圧巻だったのは広場の雪を固めて作った圧雪&氷結路面コースにおける振る舞いだ。車の重さをほとんど感じさせず、まるでラリーカーのように走る。もちろん出力を絞ったモードでの走行だったからV8パワーを思う存分に堪能、というわけにはいかない。けれども車体のバランスが良いから滑りながらも難なく、そして気持ちよく旋回していける。安全な場所ではそれこそV8パワーを少しだけ解放して豪快なスライド走行もできる。2トンオーバーのヘビー級SUVを駆っているとはまるで思えない振る舞いの素直さ、つまりドライバビリティの高さに舌を巻いた。

W12の滑らかかつパワフルな回転フィールは忘れ難い、電動走行もできるプラグインハイブリッドには未来を感じる。けれどもベンテイガV8の“車体としてのハーモニー”も、やっぱり捨て難い。特に日常のパートナーとして使うというならなおさらだ。

ハイパワーなV8エンジン搭載と聞いて、野蛮な振る舞いや粗野なサウンドを想像する方も多いのではないだろうか。だからV8というワードに対して即座に嫌悪感を抱く人も多いのだと思う。けれどもベントレーの4リッターV8 “ホット”ツインターボは違う。車好き、エンジン好きを虜にする上質なエンジンフィールだ。特に最新世代では12気筒に勝るとも劣らぬ精緻さで、思わず高回転域まで回してみたくなってしまう。回転を上げるにつれてアクセルペダルを踏む右足からそのままエンジンの方へと吸い込まれそうな感覚になる。良いエンジンである証拠だ。



実をいうと実用上は2000回転もあれば十分に事足りる。猫が喉を鳴らしているような心地よいエンジンフィール&サウンドの領域で街中から高速域までをカバーする。ややソリッドながら路面を舐めるように進む上等なライドフィールと相まって、もうむやみに右足を踏み込むことはやめようとさえ思う。あの極上のV8フィールを経験したあとであっても。否、経験したからこその余裕の心持ちなのかもしれない。

回してよし、回さずともよし。そう考えると伝統というべきVバンク式8気筒エンジンを積み、百年を超える歴史の中で唯一のSUVであるベンテイガV8は、内燃機関を積んだベントレーの、ちょっと大袈裟かもしれないけれど、ひとつの到達点であるようにも思えてきた。クーペのコンチネンタルGTでも、サルーンのフライングスパーでもなく、21世紀のスタンダードスタイルであるSUVだからこそ、そう思えて来るのだ。

ベンテイガがもし、いかにもSUVらしいパフォーマンスの持ち主であれば、いかにベントレー好きの筆者でも、否、その長い栄光にみちた歴史をこよなく愛でるいち車好きだからこそ、そこまで話を大きくはしなかったことだろう。

もちろんベンテイガはSUVに必要なパフォーマンス、例えばオフロードの走破性、に優れている。筆者は過去にベンテイガで砂漠から瓦礫道、砂利道、本気のオフロードまで、ドライブモードをすべて試す機会に恵まれたから、そう断言する。はっきり言って、本格派である。それでいて同じ車で砂埃舞うサーキットも楽しめる。タイヤを換えれば前述したように雪道だってこなす。

ベンテイガがパッセンジャーを大事にしていると感じさせる、取り外し可能なタッチスクリーンリモコン。後部座席からエアコンやサンルーフなど様々な快適機能を自在にコントロールすることができる。

けれどもベンテイガの本質は、優れたSUVである前に実にベントレーらしい“グランドトゥーリングカー”であることだった。低速域から高速域までドライバーを安心で包み、心地よい移動を約束する。短距離であれ、長距離であれ。SUVスタイルであっても、ベントレーというブランドがこれまで世に送り出してきた歴史的モデルと同様に優れたGTなのだ。いわばこの車もまた“コンチネンタル”であったのだ。貴族がドーバー海峡を渡り、ヨーロッパ大陸(=コンチネンタル)の各所を目指すための車。その最新版がベンテイガである。だからこそそのV8グレードに筆者は、内燃機関ベントレーの到達点を見た想いがしたというわけだった。

今はもう少し、この素晴らしい“エンジン”を楽しんでおこうじゃないか。

一度ベントレーのコンフィギュレーターを楽しんでみてほしい。たとえばボディカラーのGreensを選んでも、さらに7色もの選択肢が現われる。これぞオーダーチョイスの極みである。


ベントレーベンテイガ V8
全長:5,150×全幅1,995×全高1,755mm
ホイールベース:2,995mm
車両重量:2,470kg
標準ホイール:10.0J×21インチ  タイヤサイズ:285/45 ZR 21
燃料タンク容量:85リッター
エンジン形式:V8気筒ツインターボ 排気量:3,996cc
最高出力:404kW(550ps)/5,750-6,000rpm 最大トルク:770Nm/2,000-4,500rpm
駆動方式:AWD トランスミッション:8段AT
パフォーマンス 0-100km/h加速:4.5秒 最高速度:290km/h
価格:2269万円(税込)


文:西川 淳 写真:阿部昌也 Words:Jun NISHIKAWA Photography:Masaya ABE

文:西川 淳 写真:阿部昌也

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