どちらが好み? フェラーリ365GTC/4とランボルギーニ・エスパーダを乗り比べ!

Dean Smith

ランボルギーニのエスパーダとフェラーリの365GTC/4は長い間、より高貴な姉妹車の陰に隠れていた。そろそろこの2台は評価されるべきだと筆者のリチャード・ヘセルタインは主張する。



「パラダイス」という言葉は旅行雑誌で乱用されているが、ここはまさにパラダイスなのかもしれない。紺碧の空、薄っすら彼方にかかる雲、遠くまで続く野生の花畑は、まるで絵画の中に迷い込んだかのようだ。そして、車好きにもっと重要なのは、この美しい景色の中には滑らかな舗装路面があり、長いストレートが流れるようなコーナーで結ばれていることである。完璧だ。

V12エンジンを搭載した2台の主役は、姿を現す前に耳でその登場が分かる。ほぼアイドリングの低い回転で取材現場に登場した2台は、カムシャフトをチェーン駆動する“古き良きイタリアンV12”エンジンサウンドを奏で、まるで共鳴しているようだ。もっといえば、「美しいイタリア製GTカーに乗った美しい人々が、美しい土地へ向かう、過ぎ去った時間を呼び起こすようなサウンド」とでも記そうか。

フェラーリ365GTC/4とランボルギーニ・エスパーダは間違いなく当時は真のグランツーリスモであったが、この組み合わせが“分かりやすい”とは表現しづらい。それこそが今回の特集記事のポイントだ。両メーカーには、もっと有名で、もっと価値のある、優等生のような車がある。それと同時に、この2台は紛れもなくエキゾチックで、それぞれが独自の魅力を発揮し、何時間も乗っていられるほどの快適性を備えている。結局のところ、両車がターゲットにしていたのは超富裕層だった。マラネロのエスタブリッシュメント、サンタアガタのアリヴィストは、それぞれが独自のやり方で超富裕層ビジネスを展開していたのである。

フェラーリ365GTC/4が搭載していた4.4リッターV12エンジンはデイトナと共通だが、シリンダーヘッドが異なり、圧縮比が低く、ウェバー・キャブレターもダウンドラフトではなくサイドドラフト・タイプに替わっていた。このため最高出力が低下し、欧州仕様車は15bhp低い335bhpとなったが、そのぶんボンネットラインを低く抑えることができた。



デイトナとの最大の相違点は、5段マニュアルトランスミッションをファイナルドライブと一体化したトランスアクスル方式ではなく、一般的なエンジンと直結するレイアウトに改められたことだ。サスペンションは前後ともウィッシュボーン方式でリアにはセルフ・レベリング機構付きガス/オイル・ストラットが採用され、またデイトナにはなかったZF製パワーステアリングが装備された。

結果、デイトナよりも背が高く、全長も長く、幅も少し広くなったが、それでも2+2と呼ぶには無理があり、居住性ではデイトナに軍配が上がった。ピニンファリーナはデザイナーの名前を出すことを好まなかったが、最近では365GTC/4のアウトラインはフィリッポ・サピーノ(ボディ生産もピニンファリーナが担当)によるものとされている。1971年のジュネーヴ・モーターショーで発表された365GTC/4は、わずか2年という短期間でモデルライフを迎え、505台が生産された。



エスパーダは、ミドシップエンジンの代表格であるミウラから2年後、インスピレーションの源となったマルツァルの公開から1年後の1968年にジュネーヴ・モーターショーでデビューした。マルツァルと比べるとデザインがやや希薄で、間延びした雰囲気になったからなのか、自動車メディアからの注目度は低かった。ハードウェアは350/400GTやイスレロ(同じく1968年に登場)などと共有し、パワーユニットは定評あるクアッドカム、全合金製の3929cc V12エンジンを搭載していた。



ジオット・ビッザリーニが設計し、ジャンパオロ・ダラーラの手によって改良が加えられた宝石のようなエンジンには6連のツインチョーク・ウェバーを備え、最高出力325bhpを発生した。このエンジンには、自社製の5段マニュアルトランスミッションとファイナルドライブ(オプションでLSDも選択可)が組み合わされ、シートスチールプレス製のセミモノコック・シャシーに収められていた。このセミモノコック・シャシーに取り付けられたチュブラー構造のサブフレームに、エンジン、トランスミッション、サスペンションなどがマウントされている。

サスペンションは前後ともに不等長ダブルウィッシュボーン式を用い、スプリング、ダンパー、アンチロールバーが組み合わされせた。ステアリングはZF社のウォームセクター式で、ブレーキは4輪ともガーリング社のディスクブレーキである。

エスパーダの生産にあたっては大部分が外注であった。モデナのマルケージ社がシャシーを製造し、トリノのベルトーネ社に輸送してスチールとアルミから構成されるボディを架装し、サンタアガタでハードウェアなどの最終組み立てをおこなうというプロセスを経ていた。

ランボルギーニはエスパーダの改良を重ね、1970年にはシリーズⅡエディション(400GTEと謳う地域もあった)を投入した。後席のヘッドスペースを拡大するための低床化、使い勝手が向上した(と思われる)ダッシュボードのレイアウト、ベンチレイテッドディスクの大型化が図られた。最高出力は350bhpにまで引き上げられたと謳われたが⋯、どうも謳われただけだったようだ。

1973年には、パワーアシスト・ステアリングとエアコンを標準装備したマイナーチェンジモデルが登場した。さらなるダッシュボードの使い勝手改良とサスペンションのファインチューンが施された。そして、翌年にはクライスラーの3速「トルクフライト」オートマチックトランスミッションがオプションとして追加された。

1978年の生産終了までに合計1217台のエスパーダが製造された。稀少なオフローダーである「LM002」や、「ファエナ」、「ポルトフィーノ」、「ジェネシス」、「エストーク」などのワンオフのショーカーを除くと、2018年にSUVである「ウルス」が登場するまで、エスパーダはランボルギーニにとって唯一の“正統派”4シーターであった。



全高はたったの1185mmながら、全幅は1860mmとワイドで、全長は4730mmであり、エグゼクティブサルーンのプロポーションとしては成立していないかもしれない。365 GTC/4と比較すると全高は95mm低く、80mmワイドで、全長は180mmも長い。それにもかかわらず、エスパーダは魅力的なスタイリングを持つ。特にリアにかけてのデザインは素晴らしく、テールのガラスパネルは秀逸だ。エスパーダのデザインを手掛けたマルチェロ・ガンディーニはマセラティ・カムシンにもこのガラスパネルをテールに採用した。リアサイドに刻まれたエスパーダの文字や、燃料キャップを隠すCピラーのルーバーなど、随所に彼らしいこだわりが見られる。巨大なアルミ製のボンネットに2つのNACAダクトを備え、プレスラインがつけられているのでフラットな“板”のようには見えない工夫が凝らされている。

エスパーダよりも365 GTC/4のデザインのほうが幾分、クラシカルな“魅力”を備えているかもしれないが、両車とも癖が強いことは否めない。一部メディアは356GTC/4をデイトナと比較して“失敗作”と呼ぶが、あまりフェアな批評ではない。デイトナはフェラーリの歴史に残る名車で、デザインも優秀だったからだが。

365GTC/4のインテリアは、大きな窓と背が高めのピラーにより、パノラマビューが楽しめる。四角いブロックに収められた丸い計器は、モダニズムの華を添えている。さながらスキー場のスロープのようなセンターパネルには、スイッチ類と5段MTのシフトが配されている。ドライビングポジションは快適で、ペダルもランボルギーニほど窮屈ではない。タータンチェックのシートインサートに惚れ込まない人はないだろう。まるでオフィスのような雰囲気だが、エアコンを使っても少し暑い。





エスパーダは低いルーフラインとステアリングホイールの傾斜のおかげで、乗降性に優れているとはいえない。シリーズIIではダッシュボードがよりハンサムになり、190mphまで刻まれたスピードメーターと10000rpmのタコメーターに目が奪われる。ステアリングコラムはスパナを使えば調整可能だが、やや脚を伸ばした運転姿勢を取らざるを得ない。ステリングホイールでメーター類は見えにくいのだが、飛ばしていればメーター類よりも見るべきものはほかにある。



古賀貴司(自動車王国)

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