予期せぬ吹雪に見舞われた、初めてのフレイザーナッシュとの旅|『Octane』UKスタッフの愛車日記

Mark Dixon

『Octane』UK版のマーク・ディクソンが1927年 フレイザーナッシュ TT レプリカを、その道のエキスパートから借り受けているのは以前の記事でもお伝えしたが、そもそも借りることになったきっかけとは? 昨年秋まで遡ってレポートしよう。



昨年9月のこと、素敵なイベント「ボーリュー・オートジャンブル」での夕暮れ時に、私は友人でありフレイザーナッシュの専門家でもあるサイモン・ブレイクニー・エドワーズと静かにビールを楽しんでいた。そのとき彼が突然こう言ってきたのだ。「あのさ、僕のナッシュをしばらく貸すから、乗り心地を確かめてみたらどうだい。そしたら、どうしても自分のものにしたくなって、君の人生は完全に狂ってしまうぜ」

私は、あんぐりと開いた口が塞がらなかった。そしてサイモンは、説得する気があるのかないのかよくわからない様子で、こう続けた。「来年の4月からのレースシーズンまで必要ないし、ガレージのスペースが空くから助かるんだよ」

翌朝になっても、サイモンは自分の言ったことは本気だと言い張り、数週間後には私の家にナッシュを預けていったのだ。

ドライブチェーンには定期的な注油が必要だ。

まずは30分間ほどチェックしてみた。ナッシュはソリッド・リア・アクスルのチェーンで駆動し、駆動を90度回転させてベベル(減速)ボックスを経由して走行する。そのおかげで、レースで優勝するほどの驚異的な速さを誇っているのだ。そんなヴィンテージスポーツカーが、いまや私の手元にあるのだ。

唯一の問題は、私がサイモンよりもかなり背が高い、ということだった。そのせいで、運転席に座ることが物理的にできないのだ。この車のバケットシートは、細い木のスペーサーの上のフロアにボルトで固定されていた。「電動ドリルで穴を開ければいいんだよ」と、サイモンはあっけらかんと言った。私は足場の板材を見つけて黒く塗り、元のボルト穴を使ってフロアに固定した。そうして、シートの位置を後方にずらしたのだ。これで改造をせずに、ようやくハンドルの下に足を入れてペダルの上に置けるようになった。

次の課題は、フロントのナンバープレートを作ることだった。サイモンはこの車をレース用にしていたため、そんなことは気にもしていなかったようだが。私はeBayで、ヤレた金属製のバックプレートを調達した。文字盤ステッカーをステンシルとして使い、ブラシでレタッチして時代を感じさせるフォントを作った。すると、新品に見えない雰囲気を出せた。さらに、B&Qで購入した黒いプラスチック製の排水管クリップで、プレートをチューブ状のフロント・アクスルに固定した。これで作業は完了だ。

そんなこんなで時間がかかり、このナッシュでまともに長距離を走れるようになったのは、12月に入ってからだった。ともあれ、フレイザーナッシュ・クラブのクリスマスパーティーに参加するにはちょうどいいタイミングだ。そのイベントは、私の家から約45マイル離れた場所で開催される“悪名高き騒々しく楽しい”イベントだった。ただ、その時期のイギリスには例外的な寒波が訪れていて、翌日の帰路は吹雪に見舞われた。当然ながら、凍結した雪道をデフのないナッシュがどう対処するのか、確かめないわけにはいかなかった。コッツウォルズの山頂にある人通りの少ない小道で、数分間スリップしながら楽しんだ。なんとも愉快な冒険だった!



しかし私はまだ、この車を知り尽くしたわけではない。すでに、より楽しく走るために変えたい部分がいくつか出てきている。そういったことや、この車の実際のドライビングフィールについてはまた別の機会にお届けしよう。そしてこの場を借りて、信じられないほど慈悲深いサイモンに対し、心からの感謝の気持ちを述べておきたい。もし、あなたの人生にナッシュが必要だと感じたら、彼のウェブサイト(edwardsmotorsport.co.uk)から連絡されたし。彼は本当に最高の男だよ。


文:Mark Dixon

オクタン日本版編集部

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