パリダカに挑んだ、レンジローバーとアウディ・クワトロの融合マシン

Max Serra

1986年。とあるプライベティアが「パリダカ」に挑んだ。レンジローバーとアウディ・クワトロの融合マシンの誕生秘話をここにお届けする。



1980年代、セネガルの首都である「ダカール」という名称は、車好きにとっては垂涎の的だった。フランス 人ドライバーのティエリー・サビーヌが究極の挑戦として考案した“ダイハード”な砂漠レース、パリ-ダカール・ラリーの黄金時代であった。

砂漠での遭難体験がヒントになった


1949年、裕福な家庭に生まれたサビーネは1969年にレースを始めた(歯科医であった彼の父親はラリードライブが趣味)。1974年にはフランスのGTタイトルを獲得し、主に個人所有のポルシェ911 RSやRSRでツール・ド・フランスに数回参加。1975年から3年連続でル・マン24時間に参戦し、76年には13位に入賞した腕前の持ち主だった。また、1970年代半ばには気晴らしで、オートバイの砂漠レースに参戦したこともある。そして、この気晴らしが彼の人生を変えたのだ。

1975年、コート-コート・ラリー参戦中、アビジャンとニースの間でサビーヌはエネレ砂漠を横断していたところ、エミ・フェザンの孤立した山の近く、チガイ高原で迷子になった。主催者側がサビーヌを救出するまでに実に3日を要した。生死を彷徨うとまでは言い過ぎかもしれないが、過酷な状況下において、サビーヌは「砂漠を横断する新しいラリーを創ろう」と閃いたそうだ。

過酷ゆえに人気が高まる


1978年12月26日、第1回“パリダカ“はパリのトロカデロから出発し、182台の選手が1万kmを走破した。アラン・ジェネスティエがレンジローバーV8を駆って総合1位、自動車カテゴリーでは1位でゴールした。翌年の同カテゴリーはスウェーデン人のフレディ・コツリンスキーがフォルクスワーゲン・イルティスで、1981年はルネ・メツゲがレンジローバーV8で、1982年はクロード・マローがルノー 20ターボで、そして1983年はジャッキー・イクスがメルセデス・ベンツ280GEで優勝している。

パリ-ダカール・ラリー、もともとは“アマチュア”レースだった。1983年のイクスの優勝は、自動車メーカーと大手スポンサーによって支えられていた、いわゆるプロチームにとって初めての優勝でもあった。なお、同年、サビーヌはパリ-ダカール・ラリーを主催しながら、BMW 635CSiを駆ってスパ・フランコルシャン24時間レースにも出場している。1984年にはポルシェが911 SC-RS 4×4(959の前身)を投入して優勝し、ライバルに新たなスタンダードを打ち立てたことで新しい次元のラリーへと大きく舵を切ることになった。

遡ること1979年、パリ-ダカール・ラリーはイタリア人起業家、フランコ・デ・パオリの目に留まることになった。

フランコのスペシャル・ローバー


「偶然、アフリカにいた私は、第1回大会に出場するドライバーたちにばったり出会ったのです。そして、自分も参戦者のひとりになるべきだと思ったんです」と彼は振り返った。翌年には早速、フランコはパリ-ダカールにレンジローバーV8で参戦した。そして、計24回参戦したという、“ダイハード”なパリ-ダカール・エントラントとなった。レンジローバーを選択したのは当時、ベストな選択肢だったからだ。

「アメリカ車は砂地には重すぎましたし、当時の日本車は“あと一歩”といった雰囲気でした。その点、レンジローバーは完璧でした。ラリーで使える部品がたくさんラインナップされていたばかりか、ラリーのノウハウも蓄積されていて、ランニングコストもそれほど高価ではありませんでした」

フランコは1981年にもパリ-ダカール・ラリーに出場し、1982年には総合 18位を獲得。しかし、1982年以降は事情が変わった。

「1981年に会社を売却したので、レーシングカーを準備する時間ができたのです。そのためにミラノ近郊のブッチャナスコに、オフロードレーシングカー専門の工房“パーソナルカー・センター”を設立しました。パリ-ダカールのために特別な車を造ろうと思ったのです」

1983年に完成した最初のマシンは、レンジローバーのシャシーにローバー3500SD1のボディを被せた“ローバー・レンジV8プロト”だった。

「砂地を時速180kmでラリー走行できる、低重心の素晴らしい車に仕上がりましたよ。両車の長所が組み合わさったマシンでパリ-ダカールは3回、ラリー・デ・ファラオン、アトラス、チュニジアなど、色々なラリーに参戦しました」とフランコは語る。そして、パリ-ダカールに参戦する個人参加者は、努力を惜しまず少しの運と資金があれば、意外と上手くいくとも語っていた。

古賀貴司(自動車王国)

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