メルセデスEVラインナップ最後発、EQE SUVの実力は?

Mercedes-Benz

EQE SUVの登場によって、メルセデスのEVラインナップはとりあえず出揃った恰好だ。EQVだのEQGだのといったニューモデルの計画も伝わってきているので、あくまでとりあえず、といったところだが、SUVモデルがCからSへと飛んでいた穴が埋まったことは間違いない。

最後発であり最新であるからして、当然完成度は高い。エクステリアのデザインはフロントマスクを筆頭に、EQシリーズのコンセプトを継承。空気抵抗係数のCd値は0.25と、かなり優秀。SUVとなって車高が高くなったぶん、アンダーフロアの整流を格段に向上させた。

空気抵抗を減らすため、リアにもアンダーカバーを装着している。

タイヤへの空気の流れを制御するためのスポイラー。空力向上のための工夫が隋所に凝らされている。

これは、単に床下を真っ平らにしたというわけではない。アンダーカバーをもれなく装着し、フロント下にパッドを設置し、タイヤに流れる風を制御するためのホイールスポイラーまで加える念の入れようだ。ドアハンドルの形状やドアミラーの位置変更、サイドステップの形状など、空力向上の工夫が微に入り細に入り、随所に施されている。

当然、空力の工夫は電費の向上に繋がり、航続距離を伸ばすことに貢献する。ヒートポンプの採用で最大10%の走行電費が向上したことも相まって、89kWhのバッテリーサイズで最大528km(WLTCモード)の走行距離を実現している。

薄いグレーとブルーの組み合わせが鮮やかな内装。これまでのメルセデスのイメージとは異なる、明るくて映える質感だ。



インテリアは基本的にEQEのスタイルを踏襲したものだが、試乗車のネバーグレー/ビスケーブルーの組み合わせは、クルーザーやリゾートホテルの雰囲気が感じられて新鮮だった。EQEにも明るいネバーグレー/バラオブラウンの組み合わせが設定されていたが、こちらのほうが爽やかな印象だ。

助手席側や後部座席のシートバックにも大型のモニターが設置可能なEQSやEQS SUVとは異なり、モニターはメーターパネルとセンターの2枚に限られる。ただしEQCなどとは異なり、センターのモニターは車格に相応しい大型サイズのものが与えられている。





リアタイヤが最大で10度切れる4WSの効果で、小回り性能は抜群。Uターンや車庫入れ、縦列駐車などで威力を発揮。

ボディサイズは全長4880×全幅2030×全高1670mmとさすがに大きい。EQS SUVの全幅が2035mmだから、ほぼ同等といっていい。個人的には、狭い路地だけでなく片側一車線の幹線道路であっても、駐車車両や走行中の自転車がいると緊張感が走るレベルのサイズだ。

それでも「曲がる」ことについては、たいした苦労をしないから面白い。ホイールベースはEQS SUVより180mm短い3030mm。さらに最小回転半径は、驚異の4.8mなのだ。メルセデス・ベンツでもっとも小柄なAクラスの最小回転半径が5.0m、EQシリーズ最小のEQAで5.3m。現時点で、メルセデス・ベンツのもっとも小回りがきく車はEQE SUVということだ。

これは、リヤタイヤが最大10度逆位相に切れる4WS(四輪操舵機構)の効果が大きい。とにかく、思ったよりハンドルが切れるのだ。ボディサイズが大きいから、どの駐車場に停めるときも基本的にゆとりがない中での操作となるだけに、実にありがたい。この車で、一発で車庫入れや縦列駐車ができないのであれば、それはドライバーの腕が悪いと潔く認めざるを得ないレベルで、むしろボディサイズとの比較から脳がバグって、ハンドルを切りすぎてしまう。





車両の重さを感じない加速感や操作性にも、良い意味での違和感がある。一般的にEVは重いが、EQE SUVも御多分に漏れず2630kgのヘビーウェイトだ。最高出力292ps、最大トルク765Nmのモータースペックは、そんな巨体を軽々と運んでいく。とはいえ味付けはマイルドで、アクセルをガバッと踏みすぎて、急発進に驚くようなケースはまずない。加速の味付けが絶妙だ。

減速時には回生ブレーキが介入するが、通常回生・強化回生・インテリジェント回生の3モードが選択できる。前方を走行する車両の情報などを収集するレーダーと連動して、回生のレベルを自動で変更するインテリジェント回生は、特に高速道路の走行に便利だ。一方で一般道では過剰に減速したり、反応が遅れる場面が見られたため、通常回生が適しているように感じた。

中高速域でのハンドリングは、短いホイールベースの効果か、想像以上にシャープだ。乗り心地も良好なのだが、後部座席はやや跳ねる。段差の乗りこなし方は上々なのだが、路面が若干たわんだ状態からの収縮が、それほどスムーズではないと感じられた。

もう1つ注文をつけるとすれば、シートだ。EQE SUVに限らず、最近のメルセデスの上位モデルは、決して足が長いとはいえない身にとっては、座面が長すぎるのだ。電動パワーシートでもっとも短くしても、アクセルワークになんとかギリギリ支障を来さない程度の長さだ。女性など小柄な人が対応できるサイズなのかは、ちょっと心配なところだ。





メルセデス・ベンツのEVには、新車登録日より5年間または走行距離10万kmのいずれかに達するまで、一般保証とメンテナンス保証、24時間ツーリングサポートが無償で提供される「EQケア」が付帯される。さらに高電圧バッテリーについては、EQE SUVの場合は10年間または走行距離25万kmのいずれかに達するまで特別保証が適用される。

この保証の手厚さは、メルセデスのEVのアドバンテージといえる。延長保証など、追加費用がかからない点も心強い。一般的な使用の仕方であれば、高電圧バッテリーが劣化しても費用はかからない。むしろ、劣化する前に無償で交換してくれるということだ。

航続距離の長さから、自宅に充電設備が備わっていなくとも、ディーラーなどで月に数回、急速充電器を利用すれば十分であるといった使い方もメーカー側からは提案されているが、さすがにそれは勧めにくい。ただ、既にEV導入を視野に入れた住環境が整っているのであれば、万人にとって有力な選択肢といえるだろう。


文:渡瀬基樹 写真:メルセデス・ベンツ
Words: Motoki WATASE Photography: Mercedes-Benz

渡瀬基樹

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