1000psオーバーでもドライバーを「遊ばせる」スーパースポーツカー|ランボルギーニ・レヴエルト

Lamborghini

「1000psオーバーのミドシップスーパースポーツを、自分はサーキットで操りうるだろうか?」

イタリアのヴァレルンガ・サーキットで行われるランボルギーニ・レヴエルトの国際試乗会に参加する直前、私はそんな不安を抱いていた。

これまでに1000psオーバーのモンスターに乗ったことがないわけではない。けれども、そうした経験はすべて公道上でのもので、決して1000psをフルに引き出したとはいえない状況。けれども、サーキットで走るとなれば、そうもいかないだろう。私が1000psを超すパワーと対峙する日は、否応なしに迫っていた。

レヴエルトを間近に見るのは、国際試乗会の場が初めてではなかった。今年3月にサンタアガタ・ボロネーゼで行われたワールドプレミアに招待された私は、そこでCEOのステファン・ヴィンケルマン、技術部門トップのルーヴェン・モール、そしてチーフデザイナーのミティア・ボルケルトらからじっくりと話を聞き、私なりのレヴエルト像を作り上げていたのである。



ランボルギーニがフラッグシップモデルのレヴエルトで必ず成し遂げなければいけなかったのは、V12エンジンを存続させることだった。ただし、CO2削減への要求は日に日に高まっており、V12エンジンを搭載するのであればハイブリッドモデルにすることは不可避。そうしたなか、環境問題をクリアするためだけにハイブリッドシステムを搭載するのではなく、V12モデルの魅力を強調するためにハイブリッドシステムを活用するとの方針をランボルギーニは選択することになる。

このため、クンタッチから続いてきた「ギアボックスをエンジンの前方に搭載する」伝統のレイアウトを捨て、横置き式のコンパクトなギアボックスを新開発してエンジンの後方に搭載。これによって生まれたセンタートンネル内の空間にバッテリーを搭載することで前後重量配分を適正化したのである。



さらにふたつのモーターで左右の前輪を独立して駆動することでトルクベクタリングを実現。ハイブリッドシステムの搭載による重量増を相殺する軽快なハンドリングを生み出そうとしたのだ。

こうして完成したレヴエルトのスペックを紹介すると、排気量6.5リッターのV12自然吸気エンジンは単体で825ps/9250rpmと725Nm/6750rpmを発生。ここに、150psのモーターをフロントに2基、リアに1基を搭載することで1015psものシステム出力を達成した。しかも、カーボンモノコックを用いた軽量設計により乾燥重量で1772kgを実現。パワーウェイトレシオはランボルギーのロードカー史上最小となる1.75kg/psで、0−100㎞/h加速はなんと2.5秒でクリアする。ちなみに最高速度は350km/hでスピードリミッターが作動(!)する設定という。

ついに、そのときがやってきた。私はヘルメットを被ると、スタッフに促されてレヴエルトのコクピットに滑り込んだ。もう、引き下がるわけにはいかない。できるだけのことをやってみるだけだ。



例によって、先導車を操るランボルギーニのインストラクターは、まるで私が追走していることなど忘れてしまったかのように、1周目から思い切ってスロットルペダルを踏み込んでいた。とにかく、これを追いかけるしかない。私も同じようにスロットルペダルを全開にし、1015psのパワーを解き放った。

それでも特段、恐怖を覚えることがなかったのは、主たるパワープラントがV12NAエンジンのため、パワーの沸き上がり方がリニアで不自然なところがなかったことが効いているはず。そして、前輪をモーター、後輪をエンジン+モーターで駆動するフルタイム4WDシステムが圧倒的なトラクション性能を生み出し、安定した姿勢を保ち続けたことも、恐怖を覚えることがなかった理由のひとつだろう。



続いてレヴエルトの印象として心に浮かび上がったのは、車の動きが極めて軽快に感じられたことだ。

これだけパワーがあるのだから走りが軽快なのは当然かもしれないが、たとえばステアリングを切り込んだときの反応も鋭敏そのもので、前作アヴェンタドールのように「よっこらしょ!」とノーズの向きを変える気配はまったく感じられない。あくまでも、ステアリングを切り込んだ瞬間に、ノーズがすっとイン側を向く印象だったのだ。

そのいっぽうでコーナリング時のスタビリティもあきれるほどに優れている。インストラクターに追い付こうとして、コーナーの立ち上がりではついつい早めにスロットルペダルを踏み込んでいるはずなのに、トラクションコントロールが作動する様子も見せることなく、それこそ脱兎のごとくコーナーを立ち上がっていく。そのパフォーマンスの高さには舌を巻くばかりだった。



「なんだ、サーキットだったら1015psもこんなに簡単に扱えるのか……」 このときの私はそんなふうに思い始めていたが、ほどなく、それが浅はかな考えだったことに気づく。

最初の試乗セッションで、私はドライビングモード切り替えのANIMAをコルサ・モードとしていた。これは、サーキットで最高のパフォーマンスを発揮するためのモード。つまり、トラクション性能を最大限に発揮させるとともに、アンダーステアやオーバーステアを打ち消し、もっとも効率的に走るためのモードが、このコルサなのである。



裏を返せば、「私が簡単に扱える」と思い込んでいたレヴエルトは、車載システムのコントロールにより「扱い易い表情」を見せていただけで、正体を隠していたといえないこともない。では、レヴエルトの正体を暴くにはどうしたらいいのか。私は、ANIMAをコルサからスポルトに切り替えれば、レヴエルトの本性を引き出せることを知っていた。

なぜかといえば、スポルトこそは、コルサよりもテールスライドを許容し、派手なオーバーステアを容易に生み出せるモードであるからだ。同様のことはウラカンで何度となく体験してきたが、V12エンジンをミドシップする前作アヴェンタドールでは、瞬間的に後輪のグリップを失わせることはできても、大胆なテールスライドを引き出すのは難しかった。V12エンジンの慣性力が大きすぎて、さすがの電子制御でも正確に姿勢をコントロールするのが困難だったからだ。

では、レヴエルトをスポルト・モードで走らせると、どうなるのか。私は蛮勇を振るって、ステアリング上に設けられたANIMAダイヤルでスポルト・モードを選んだ。



すると、どうしたことだろう。コーナーの出口で、それまでと同じ調子でスロットルペダルを踏み込むと、後輪のグリップが簡単に失われてテールスライドを開始したのである。しかも、そうしたドリフト走行は実に安定しきったもので、私程度のドライビングスキルでも容易にカウンターステアをあてることができる。あとはスロットルペダルの踏み具合をあわせるだけで、レヴエルトはスムーズにリアのグリップを回復し、何ごともなかったかのようにヴァレルンガ・サーキットを加速し始めたのである。

これこそ、1015psの獰猛さというものだろう。しかし、ランボルギーニはその強大なパワーを、4WDハイブリッドシステムや4WSなどの電子制御を駆使することで完全なコントロール下におき、1015psでドライバーを遊ばせるスーパースポーツカーを作り上げてしまったのだ。



ハイブリッドシステムをCO2削減のためだけでなく、新たなドライビングプレジャーを実現するためにも活用するというランボルギーニの野望は、ここで見事に果たされたといっていいだろう。


文:大谷達也 写真:ランボルギーニ
Words: Tatsuya OTANI Photography: Lamborghini

大谷達也

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事