連載:アナログ時代のクルマたち|Vol.17 ロータス15

T. Etoh

トライアルカーという言葉をご存じだろうか。トライアルとは試練あるいは試しという意味を持つが、ある意味ではレースカー(レーシングカー)とは対極の位置にあるもので、レースカーが如何に速く走るかを目的に作られた車であるのに対し、トライアルカーは如何に遠くに行けるかを競うために作られた車である。

アンソニー・コーリン・ブルース・チャップマン。言うまでもなくロータスの創始者である。彼が車を作り始めたのは1948年のことで、最初に作ったマーク1と呼ばれたモデルはこのトライアルカーであった。トライアルは2輪でも競技があるが、イギリスでは今も盛んにおこなわれているようだ。

彼が3台目に作ったマークⅢがチャップマンにとって初めてのレーシングカーであり、初めてロータスを名乗った車であった。このようにチャップマンが作り出した車は制作ごとにナンバーが与えられ、10台目のモデルまでは1台の例外を除いてマーク〇と呼ばれていた。それが11台目からは単に数値だけで呼ばれるようになる。現在その数は133に到達しており、さらに134と135の開発が継続されている。

というわけでロータス15は、チャップマンが作り出した15台目のモデルというわけで、当時すでに名声を確立し、その一つ前のナンバー即ちロータス14は、エリートの名を持つ本格的なロードゴーイングカーとしてクローズドボディを持つスポーツカーであったことはご承知の通りであろう。

15の成り立ちはそのスタイルからして大成功を収めたモデル、ロータス11の後継車と思われがちだが、名車イレブン(11)の後継モデルはロータス17と言われている。では15は一体どのような成り立ちを持っているのだろうか。この車が完成したのは1958年のこと。初めて空力を意識したデザインのボディを持ったマーク8以降、軽量、シンプル、そして空力という要素を持つモデルがロータススポーツカーの定番であったが、排気量の小さなクラスではル・マン24時間でもクラス優勝が狙え、実際に1956年のル・マンでは1000cc以下のクラス優勝。総合でも7位に入る活躍を見せた。そこでチャップマンはより排気量の大きなカテゴリー向けに15を開発し、あわよくば総合優勝を狙える排気量のエンジンを搭載できるモデルに仕立て上げたものである。

そのスタイルは大ヒットモデルの11に酷似する。11は空力の鬼才、フランク・コスティンがデザインしたものだったが、実際にボディを作ったのは主としてレーシングカーを専門に作っていたコーチビルダーのウィリアムズ&プリチャードによるもので、コリン・チャップマン自身のアイデアを具現したものだったそうだ。因みにウィリアムズ&プリチャードのクライアントには、ロータスの他にローラ、クーパー、リスタージャガーなど多くのコンストラクターが名を連ねていた。



15に搭載されたエンジンは小さなものでもコベントリークライマックス製の1.5リッターFPFユニットで、大きいものは排気量を2.5リッターに拡大したユニットも搭載していた。シャシーは基本的に11のレイアウトを踏襲していたが、よりパフォーマンスの高いエンジンに対応するために、アルミフロアを持ち、ユニークなトランスミッションを備えていた。そのユニークなトランスミッションは「クィールボックス」というニックネームを持つチャップマン自身が考案した初期のシーケンシャルミッションであった。5速で当時最もコンパクトで最も軽いトランスミッションと言われたものである。ただし、このミッションの信頼性が低く、後年はZFやBMCの4速などに置き換えられていた。

サスペンションはフロントにダブルウィッシュボーン、リアにはチャップマンがパテントを取ったチャップマンストラットが採用され、スポーツカーとしては初めて独立懸架を採用したモデルでもあった。前面投影面積を減らすべく、エンジンは左に28度傾けて搭載されていたが、これも信頼性を損なうひとつの原因となり、改良されたシリーズ2ではその角度を17度に減じている。このため収まり切れなくなったエンジンをクリアするためにボンネットにはバルジが設けられた。さらに59年に登場したシリーズ3ではフロントサスペンションにも改良が加えられていた。

ロータス15は58年から59年の短いライフサイクルでシリーズ1からシリーズ3までの3タイプが存在したが、すべて合計しても27台しか作られていない。そしてここに登場するモデルは、シャシーナンバー627-3を持つ最後期型のシリーズ3である。1959年に生産されて、そのままアメリカに渡ったモデルである。当時搭載されていたエンジンは2リッターのFPF。組み合わされたのはBMC製の4速ミッションであった。その後長くアメリカでレースに出場した後1981年にロッソビアンコのピーターカウスが購入して博物館に展示されていたものだ。

2023年10月現在、多くのパーツやオリジナルエンジンと共に新たなオーナーを探しているということだ。


文:中村孝仁 写真:T. Etoh

中村孝仁

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