倉庫に眠っていたボコボコのアストンマーティン V8はその後どうなった⁉

Kazumi OGATA, EUROPORT, Octane Japan

年月を経て少し傷んだ車を直すことは、新車を購入するよりも満足度が高い。その理由はモノを大切にするという崇高な志によるところが多いが、それ以上に、車と過ごした多くの時間と体験の積み重ねによって価値を増しているから。オクタンで以前から紹介しているアストンマーティンV8も、その大事の一例である。



正しく直す


この1988年アストンマーティンV8をはじめてオクタンで紹介したのが2019年のことであった。兵庫県明石市の山あいにある閑静な住宅地のガレージに、27年間もの長い期間放っておかれていたのだ。エクステリアにはゴルフボールで出来た細かい凹みが多数。内装の本革にはひび割れがほぼ見られないものの、全体が薄っすらとカビで覆われていた。またウッドパネルはいくつか欠けがある状態。それでもこの車を譲り受けた今のオーナーは元通りに修繕することを決意する。

麻布自動車で新車時に販売された車であったが、今回のレストアにあたっては正規ディーラーであるアストンマーティン横浜に持ち込み、ベテランメカニックによる整備を依頼することに。そこでは試行錯誤の整備を経て納車になった。いくつかのポイントは、最終的には現オーナー自ら仕上げすることで完成と相成った。

部品調達のため待った時間も長く、そのために整備ができない期間もあったので、トータルで約3年におよぶ長いレストア期間。出来上がったその姿を観ていただきたい。



BEFORE:走行距離はわずか1万km! 超レアなワンオーナー車


レストア前の状態について触れておきたい。



ずっと屋内に保管されていたのでサビはあまりなく塗装の艶も見事だったが、ボディには小さな凹みが多数ある。これはオーナーの奥様がこのガレージでゴルフの「寄せの練習」をしていた名残りだという。一時はあまり人気のなかったアストンマーティンV8とはいえ、多少ゴルフボールが当たることも厭わなかった淑女の大らかさには驚かされた。

ボディ左サイドだけにゴルフボールが当たった痕跡が残る。

内装の本革シートは張りも十分でひび割れが見られないものの、全体的に薄っすらとカビで覆われている。またウッドパネルはいくつか欠けがあった。

バッテリーは消耗しておりエンジンは不動であった。ただあまりにも長い期間始動させていなかったので、単にバッテリーを繋いで下手にセルモーターを回すとエンジンへのダメージが心配であった。ブレーキは固着し制動系もオーバーホールが必要。

ボディの艶は30年も経過した車とは思えないほどだ。

抹消登録証明書を確認する限り初期登録時のナンバープレートが外されたのは1999年。1988年に新車として購入したのは、あるメーカーのオーナーだった。オーナーの奥様は当時の様子をよく覚えておられ、「ほかにもランボルギーニも乗ってきてくれて熱心に営業されていました。そこまでしていただくと何か買わなくてはということで、その中でも少し落ち着いた雰囲気のアストンマーティンを主人は選びました」とのこと。メンテナンス記録の頻度から、購入当初はいかにこの車が大事にされていたかは想像に難くない。

DBの付かないアストンマーティン


車名はアストンマーティンV8。



1940年代後半、裕福な実業家デイヴィッド・ブラウンがアストンマーティン・ラゴンダ社のオーナーになり、2-LitreSportsのDB1を手始めに、DB2、DB4、5、6といった流麗なスタイルでスポーツカーメーカーとしての礎を築く。ちなみにDBとはもちろんオーナーであるデイヴィッド・ブラウンのイニシャルである。1967年には英国人デザイナー、ウィリアム・タウンズがデザインしたDBSを発売するが、新しいボディデザインが定着するか否かの段階でデイヴィッド・ブラウンが会社を売却。それ以降しばらくは車名からDBの名が外されており、その時期に登場したのがこのアストンマーティンV8だった。V8は1990年まで生産が続き、総生産台数は4021台だった。ハイパワーバージョンの V8ヴァンテージも用意されていた。

普通に走れるように


ガレージからの搬出から整備全般については、正規ディーラーであるアストンマーティン横浜に依頼することにした。移送した後にクラシックアストンマーティンに造詣のあるベテランメカニックがチェックを行い、レストアのスケジュールを組んでいく。アストンマーティンのレストアといえば英国ニューポートパグネルのアストンマーティン・ワークスが有名だが、日本で新車として販売された車だけに、しっかりと国内で仕上げていくことに決めたのだ。

修理が必要な個所は数えきれないほど。とりあえずボディの凹みはデント法を用いて戻していった。インテリアは清掃と消毒を済ませ、ウッドパネルも含めて修繕を行っていく。エンジンなど機関系や制動系はほぼすべてに手を入れることになった。ガソリンタンクについては、外観はきれいだったがタンク内部はかなり厳しい状態だった。タンクキャップ付近も腐食して蝶番が作動しなくなっていた。

電装系の見直し、エアコンの整備、電動部品の調整その他、実に大掛かりな作業となった。古い車だからなかなか完璧な仕上がりには至らず、納車した途端にエンジンが掛からなくなったこともあった。原因が分からず仕舞いであったが、イグニッションコイルの不良と判明した。部品二つセットで50万円(税込)以上もするパーツであるが、古い部品なだけに調達に時間が掛かり長く待つこともあった。

これが不調の原因だったイグニッションコイル。ヒューズが頻繁に飛びヒューエルポンプが作動しなくなる。

およそ2年間の整備が終わり、再び神戸にアストンマーティンV8は戻ってきた。雨風を凌げるガレージに保管されていたとは言え、あらためてボディをチェックすると広範囲に渡り腐食が確認された。多少のリペアでは中途半端であるので、ボディは完全にやり直すことになった。その作業工程の一部がこの写真である。ここまで仕上げればもう安心だ。

一見ではわかりづらいが、アンダーコートを剥がしていくとここまで腐食が進んでいたことがわかった。ボディ剛性を保つためにも、下地の処理までは手を抜いてはいけない。

艶が残っていたように見えたボディだったが、思い切ってすべて塗装を剥離して新しく塗り直すことに。ウインドウ類もすべて取り外して地肌を整える。

ボディ下部など腐食している部分は大きく切り取り、サビを完全に取り除く。新たに金属素材を溶接して研磨を行って、その上から防錆処理を行う。

ボディ下部のサビを取り除いてから防錆を施し、その上から板金を行っていく。サスペンションなどを一旦取り外し、タイヤハウス内を仕上げていく。

いまは完成して往年の精悍なフォルムが勇ましいアストンマーティンV8。前オーナーの奥様に確認いただく日も近い。





アストンマーティンV8(1972-1990)
エンジン:5340ccV8
最高出力:280bhp/5500rpm 最大トルク:301lbt-ft(約41.6kgm)/3500rpm0-60mph
加速:6.2秒 最高速度:149mph(約240km/h)

堂々としたフォルムであるが、全長 4670㎜、全幅 1830㎜というボディサイズは、現代車と比べると大き過ぎることはない。全塗装を終わらせてクロームバンパーのエッジの修理など細かい作業も終えて、ほぼ新車当時の様子に戻っている。新車からまだ36年。これからが楽しみなアストンマーティンV8である。

文:オクタン日本版編集部 写真:尾形和美、ユーロポート、オクタン日本版編集部
Words:Octane Japan Photography:Kazumi OGATA, EUROPORT, Octane Japan

オクタン日本版編集部

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