ジャガーDタイプ プロトタイプを駆って伝説のテストドライバーに会いに行く

Photography:Matthew Howell



残念ながらシャロップシャーへのルート上にはトンネルはない。混雑したA級道路を通って、ノーマンの家に着いた。巨大なジャガーのロゴマークが貼られたガレージドアは、家の持ち主の素性を示すちょっとしたヒントである。そこには駐車するスペースがほとんどないので半分を歩道に乗せたまま放置した。この車がこの通りのほとんどの家をまとめた額と同じ価値があることは思い出さないよう努め、1950 年代には皆そうしていたのだと自分を納得させた。ノーマンは湯沸かし器のスイッチを入れ、私たちはDタイプについておしゃべりを始めた。それは、彼がすべてを知り尽くしている車なのだ。

「そいつは最終のプロトタイプだった。私は数千マイルをカバーした後、MI R A(コヴェントリーの北部ナニートンにある自動車産業研究団体のテストコース)まで行って、そこでテストを行った。車は時間がなく未塗装のままだった。いったい何マイル走ったのか確かめたことはないが、古いログブックが屋根裏にあったから、いつの日かヒマができたら、ゆっくりと見て見るつもりだよ」

「当初Cタイプのプログラムに参加した時は重量バランスがまったく気に入らなかった。巨大なリアの燃料タンクが酷いオーバーステアを引き起こしたのだ。だから私の優先順位は、次のモデルでこの点を改善することだった。あれは当初はDタイプとは呼ばれていなかったが、私たち実験部はこの名称とした。それが論理的であるように思えたのだ」 

「Dタイプでの最もドラマチックな瞬間は、この車XKC401でだと思う。当時ジャガーが買収していたデイムラーにはグラスファイバーボディのスポーツカーSP250があって、ジャガーのチーフエンジニア、ビル・ヘインズはDタイプもグラスファイバーボンネットの使用を検討すべきだと考えた。そこで私たちはひとつ作り、私はテストのためにこれを装着してMIR Aに向かったのだ。私は同時にギアボックスもテストしていたのだが、各部を完全に暖めるため、2 〜3時間にわたる高回転、ハイスピードのバンク走行が必要だった。所定の周回を終え、バンクからレイルウェイストレートに下りたところ、ギアボックスが動かなくなり、車はインフィールドに向かい、そこで横転して私を下敷きにしたのだ。2人の大きなアイルランド人の若者が救助に突進してきた。彼らは私が這い出るに充分なだけ車を持ち上げてくれ、その晩のパブでは彼らが飲めるだけのギネスを奢った。その後戻ってヘインズに壊れたグラスファイバーボンネットの破片を渡してこう言ったんだ。『ほれ、テスト完了』とな」



「私たちのやり方は他の多くの会社とはかなり異なっていたと思う。まず、元ブリッグスカニンガムにいた私たちの素晴らしいボディ職人、ボブ・ブレークが詰めているMIRAに行く。彼は私たちが必要だと決めたものならなんでも作る。それをリベットで留め、テストする。そして結果を設計室に渡す。これが最も迅速な方法だった」

私はおおいに会話を楽しみ、ノーマンの思い出話を一日中聞いていたかった。しかしまだ写真を撮らなければならず、走らなければならないのだ。ノーマンの家の通りを右折するとB4371号線に入る。曲がりくねった典型的な英国の道で、Dタイプにとっては完璧な運動場だ。もっとも、この車の性能のほんの一部を引っ張り出すことしかできそうにないが。初期Dタイプは245bhpに過ぎないが、軽量のためにとても速く感じる。Dタイプは広い高速サーキットでのレースのために造られたマシンだが、ライドクオリティは驚くほど高い。ダイナミクス、ステアリング、サスペンション、ブレーキといったすべてがバランスよく働く。Dタイプは、一緒にラテンを踊っていて、貴方がどちらに動くかを直感的に知るパートナーのように貴方の動きに反応する。

ノーマンの家に戻り"彼の"Dタイプをコヴェントリーに戻すまでの間、一杯のお茶の時間を楽しんだ。思いついて私は尋ねてみた。「あの頃に戻ったとして、Dタイプをどう直したいと思いますか」と。

彼は少し考えてからこう言った。「特にないな。Dタイプは正しかった。最初からね」



1954 ジャガーDタイプ
エンジン:3442cc 直列6気筒DOHC、ウェバーDCO3キャブレター×3基
最大出力:245bhp/5750rpm 最大トルク:242lb/4000rpm 変速機:前進4段マニュアル、後輪駆動 ステアリング:ラック・ピニオン
サスペンション(前):ダブルウィッシュボーン、横置きトーションバー、テレスコピックダンパー
サスペンション(後):固定軸、トレーリングアームAアーム、横置きトーションバー、テレスコピックダンパー
ブレーキ:4輪ダンロップディスク 重量:約870kg(ドライ)
性能・最高速度:約140mph(225km/h)、ル・マン用2.93:1アクスルレシオ装着時170mph(274km/h)
0-60mph:4.7秒( アクスルレシオ3.54:1)

編集翻訳:小石原 耕作 Transcreation:Kosaku KOISHIHARA Words:Mark Dixon 

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事