翼に乗って過去に飛び、おいしいコーヒーを味う│フォインズ飛行艇・海事博物館

Photography: Barry Wiseman

自動車雑誌に飛行艇?と怪訝に思われるかもしれない。車が好きな人は、優れた技術ならどんなものでも好きなはずだ。それに、戦前の魅力的な時代を象徴する点では、飛行艇もヴィンテージカーも変わらない。

アイルランド西岸にあるフォインズ飛行艇・海事博物館は、シャノン川の河口に広がる美しい入江に面し、大西洋横断飛行が始まったばかりのロマン溢れる時代を追体験できる場所だ。当時の建物がきれいに修復されているほか、パンアメリカン航空の飛行艇ボーイングB314「クリッパー号」のレプリカが水の上に浮かんでいる。



熱心なガイドについて、当時ターミナルとして使われた建物の中を歩いてみよう。まず、素晴らしい照明を浴びて、様々な品物やイラスト、ポスターがきれいに展示されている。次には無線・気象室があり、続いて1940年代シアターで、当時のニュース映画を編集した『大西洋を制する』を見る。その先にも当時の新聞や制服、機器などが並んでいる。階段を上ると管制塔が復元されており、シャノン川やドック、フォインズの町を見わたすことができる。また、巨大なボーイングB314の操縦を経験できるフライトシミュレーターもある。

フォインズは大西洋横断飛行の進化の出発点だった。博物館にはショート・メイヨー・コンポジットについての展示もある。母機マイアが小型の水上機マーキュリーを背負って離陸し、空中で分離するものだ。こうすることで、マーキュリーは離陸で燃料を消費することなく飛行を続けられた。また、フォインズでは空中給油の実験も行われた。給油機から飛行艇に向けてロケット推進式の銛が付いたケーブルを射出し、接続したホースで重力を利用して給油を行った。つい忘れがちだが、これはわずか70数年前の話なのだ。ニューヨークまで初めてノンストップで旅客便が飛行したのは、ようやく1942年のことである。当時は25時間以上かかった。



飛行艇が姿を消したひとつの要因は第二次世界大戦だった。戦時中に多くの飛行場が建設されたことで、水上に着陸する必要がなくなったのである。最後の旅客便がフォインズを飛び立ったのは1949年のことだ。

飛行艇博物館は1989 年に開館した。オープンのテープカットをしたのは、女優のモーリーン・オハラ・ブレアで、その夫は飛行艇の機長だった。博物館最大の目玉は、なんといってもボーイングB314の実物大レプリカだ。飛行艇の実物は1 機も現存しないが、来館者はこのレプリカの中を歩き、階上の操縦席や、14 席ある食堂、簡易ベッドなどを見て回ることができる。信じられないほど狭い調理室では、通常二人のコックが働いていた。最後尾には豪華にしつらえられたデラックスルームもあり、よくハネムーンで使われたという。

さて、「おいしいコーヒー」に話を移そう。飛行艇への乗り降りでは、濡れて寒い思いをすることもあった。1943 年のある夜のこと、荒天のため、ニューファンドランド行きのフライトはフォインズに引き返さざるを得なくなった。帰ってくる乗客のために体が温まるものを用意するよう指示されたシェフのジョー・シェリダンは、上等のアイリッシュウィスキーをコーヒーに加えた。ある乗客が礼を言い、このコーヒーはブラジル産かと尋ねると、シェフは「いいえ、アイルランド産コーヒーですよ」と答えたのである。いまや世界的に有名になったアイリッシュコーヒーだが、フォインズでいただく1杯は格別で、レシピも公開されている。



飛行艇博物館に隣接して、新たに海事博物館もできた。こちらも発見の連続だ。アメリカ南北戦争で南軍が着た制服もある。これがアイルランドで作られていたことをご存知だろうか。

アイルランドはドライブにうってつけの国でもある。フォインズに足を伸ばせば、ひと味違うユニークな休日が過ごせるはずだ。

フォインズ飛行艇・海事博物館は、3月中旬から11 月中旬までオープン。営業時間は9:30~17:00。B314レプリカ以外はすべて車イス対応。大人11ポンド、子ども6ポンド。充実したギフトショップや雰囲気のいいレストラン、もちろんアイリッシュコーヒーセンターも見逃せない。

Words and Photography: Barry Wiseman

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