このレーシングカーは一般道で実用的だ|ある「ローラT70 Mk.III」オーナーの証言

1967年ローラT70 Mk.III(Photography:Justin Leighton)



フォードとローラの関係
T70のストーリーの始まりは1963年、フェラーリ買収に失敗したフォードがローラ・カーズのエリック・ブロードレイに新しいフォードGTの開発を持ち掛けたことだ。ローラGT Mk.6とブロードレイの才能に惹かれたフォードは、ローラから2台購入しテストと検討を行った。1963年8月からジョン・ワイヤとエリック・ブロードレイは共同で、後にフォードGTプロジェクトと呼ばれるレーシングカー開発にとりかかった。だが、設計に関する意見の相違と自分の会社の名をつけた車を作りたいブロードレイの意向で、彼はフォードとジョン・ワイヤと袂を分かつことになる。ジョン・ワイヤは引き続きフォードに協力してフォードGT40の製作に取り組み、一方のブロードレイは後にT70となるローラGTの開発を進めた。T70はジョン・サーティースが1966年のカンナム選手権を制したことをはじめ、デイヴィド・ホブスやデニス・ハルム、ブライアン・レッドマンなどのドライバーがグループ7レースで無数の勝利を挙げた。

「ミック・エバンスは、たいへんな手間暇をかけてT70をレース用から、何の問題もなく街中で使えるロードカーに仕立て直してくれた。ミックの一番の心配はラジエターに充分な空気を導くことだった」という当のミックはそれに続けてこう語る。「今は3基のファンを備えている。コンディションに応じて1基だけでも、またすべてを作動させることもできる。むしろ冷えすぎを心配しなければならないぐらいだ」

ターンインジケーターやスピードメーター、一般道用タイヤの他に、公道走行できるようにするために、ミックは油圧ハンドブレーキ用のブレーキキャリパーを後輪に追加し、さらにリアブレーキ用のクーリングダクトも装備した。

「ライト類には苦労した。リアにはデッドストックのルーカス製を使用した。フロントのスポットライトに見えるのは実はターンインジケーターなんだ。スラウのシンプソン・レースエグゾーストが、適当なサイレンサー付きのエグゾーストシステムを特製してくれた。手作業でステンレススチールを丸めた芸術品だよ」とミック。

ギヤボックスの上にもともと備わっていたレース用オルタネーターは、走行中に充分なだけの電気を供給するものだった。そこで低速でも適切な充電を行うために、アルミを削り出した特製プーリーで駆動するもうひとつのオルタネーターがV8右バンク前方に装着されている。エンジン搭載位置がドライバーに非常に近いため、2層ケブラーから成る新しいバルクヘッドが作られた。「念のためだね。なにしろクランクシャフトの端からドライバーの背中までは1インチほどしか離れていないんだ」とミックは言う。

路面の不整を越えるためにサスペンションはわずかに車高が上げられ、調整式ダンパーも含め"耐えられる"程度の乗り心地に設定されている。もしレース仕様のままなら、ちょっと遠出をするのもそれは過酷な苦行になるはずだ。タイヤはサーキット用よりややソフトなものが選ばれた。シボレーV8エンジンはウェバー48IDAを4基備えるレース仕様の5.9リッターで、すべての部品はレース用である。「実際にダンスフォールド飛行場で160mph(257km/h)以上出してみたが、非常に安定していた」とキースは言う。

編集翻訳:高平高輝 Transcreation:Koki TAKAHIRA Words:Ivan Ostroff Photography:Justin Leighton

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