ポルシェのレース史に残るレジェンドマシンを試乗!│常識外れの1台

1974 Porsche 911 Carrera RSR Turbo 2.1(Photography:Alex Tapley)



こうした努力の成果は驚くべきものだった。120リッター(26.4ガロン)の燃料を積んだ状態で、RSRターボ2.1の車重はわずか828kgでしかなかったのだ。これは単にポルシェが主張しているだけではなく、車検で公式に計測された数値である。長距離走行を可能にする大型燃料タンクはボンネットの下ではなく、ドライバーの横に置かれた。満タンで約90kgになる燃料をフロントに積めば前後バランスの改善には役立つが、燃料消費に伴う重量バランスの変化が過大になる。この結果、前輪への荷重は266kgに過ぎず、重量の前後バランスは32:68という極端なリアヘビーとなった。

小排気量で高い過給圧をかけたフラット6が、ターボゾーンに入ったときにどんな反応を示すのだろうか?私は想像を張り巡らせていたが、ジョーが語った次の言葉でイメージを掴むことができた。「フロアまでスロットルペダルを踏むと、まるで手榴弾のピンを抜いたときのような感じになるよ」

それは、助手席と呼ぶにはいささかおこがましい代物だった。なにしろ、グラスファイバーで作った小さな窪みに、申し訳程度にベロアを貼り付けただけなのである。シートの前方はアルミ製パイプで固定、後方はバルクヘッドにリベットで"直留め"されているのみ。強度的には、少し重い買い物袋でも不足するのではないかと思われたが、グループ5は2シーターでなければならない。ただし、それはあくまでも規則上の話。いずれにせよ、私はこの助手席にそっと腰掛け、ジョーのドライブを体験することになった。

ジョーはエンジンを始動させて1速を選択。サーキットを走り始めると、それまでブツクサと不満を述べていたボクサー・エンジンはうっとりするような歌声を披露するようになった。スロットルペダルをぐっと踏み込むと、シューッという音が響きわたり、加速感が一段と高まる。左コーナーに向けてジョーは早めにブレーキングを開始。インフィールドセクションに入ったところでステアリングを切ると、目の前の路面にひどいひび割れがあった。華奢なシートはここで壊れ、私の着座位置は2〜3インチ(およそ5〜8cm)ほど低下。いまや目線はダッシュボードの上端と同じになった。しかも、その後は体重を自分で支えなければいけなくなったのだからたまらない。

それでもジョーはエンジンパワーを徐々に引きだした。そのトルクが高まっていくとき、自分の身体にのしかかる重量の存在を思い知らされることになる。やがてその強大な力は、RSRを易々と加速させていった。それでも、エンジンがミスファイアを起こすため、最高でも5500rpmほどしか回せなかった。しかも、装着されていたのは、なぜかゴムがコチコチに硬いウェットタイヤだ。エンジンが完調で、路面が温かく、充分にウォームアップされたスリックタイヤを履いたときにどんな走りを見せてくれるのか?それを想像しただけで、私の胸は高鳴った。

3周を終えたところで、私の体力が限界に達した。ピットに戻ってコクピットから降り立つと、サイモンが「あのパーツは以前にも修理されたようだ」と説明してくれた。彼が指さす先を見ると、シートの下側が部分的に変色していた。そしてシートのベース部は、まるでフワフワに柔らかいケーキのように潰れていたのである。この車に使われている多くの部品同様、このパーツも2000年代まで生き延びることが想定されていなかったようだ。きっと、この部分もいまにリペアされ、新車時よりも良好なコンディションとなることだろう。

ジョーはさらに2ラップを走行した。幸運にも、この頃になるとミスファイアは解消され、6500rpmまで引っ張れるようになった。そのときにフラット6が奏でる豪快なサウンドに、私たちは酔いしれた。ウェイストゲート・バルブが小刻みに作動すると、まるで音楽のようなチュチュチュチュというノイズを発し、エンジン・サウンドが高まれば、より早く過給が開始されるようになるのがわかる。そして、まるでパチンコではじき飛ばされた小石のように、RSRターボは鋭くコーナーを立ち上がっていったのである。

編集翻訳:大谷達也 Transcreation:Tatsuya OTANI Words:John Barker Photography:Alex Tapley 取材協力:グッディング&カンパニー(http://www.goodingco.com)

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