史上初めてモータースポーツに参加したポルシェ911に試乗

Photography:Andy Morgan



では今、コーナーでフロントタイヤが外へと押し出されるのを感じながら、試しにアクセレレーターを戻してみよう。すると予想的中。この911は、これまでに経験したことがないほど急激に、しかも簡単にリフトオフ・オーバーステアになるのだ。のちの911は、もっとテールがしっかりと地面に押しつけられている。もちろんGを大きくし過ぎなければの話だが、この911の場合、少しでも調子に乗ったら即座にスピンしそうな感じなのだ。ここから先の連続カーブはまさに綱渡り状態だった。ステアリングの重さとエンジンパワーとアクセル開度とのバランスを取ろうとするのだが、車は常に動き回って、3つのうちひとつだけで調整しようとしても言うことを聞かない。それより、2つを拮抗させるほうがうまくいくと分かった。

だが、初期型911のじっとしていられない性格との付き合い方をいったんつかんでしまえば、実に自然で大きな満足感を与えてくれるものになる。先行の356も、正確さでは劣るが同様の性格を持っていたし、それがこの時代のポルシェに備わる神秘性だったのだ。 

911は進化の過程で、幅の広い高グリップ
のタイヤや、出力の向上、重量の増加によってこの繊細さを失い、代わりにスピードとグリップが生み出す新たなスリルを提供するに至った。現代の991オーナーが最初期の911を運転したら、まったく当てにならないと感じることだろう。まあ、それも無理はない。

当時もそう考える顧客が相当いたと見える。1969年モデルでは、前述のホイールアーチ以外にも設計に若干手が加えられた。初期型では、主に直線での安定性向上をねらってフロントバンパーにウエイトを入れて応急措置としたが、それではエンジニアの沽券に関わる。そこで、1969年モデルからはリアのセミトレーリングアームが伸び、従ってホイールベースも57mm延長された。その結果、リアの重量配分が減り、ヨー角の増加が抑えられて、911は一般人にもよりコントロールしやすい車となったのである。見た目も、新しい形のホイールアーチが少し後方に下がったことで、シルエットが良くなったと大方の好評を得た。



頂上にたどりつく頃には、私はすっかり初期911の虜になっていた。これは911の中でも最も純粋で最も冗舌なモデルであり、ドライバーは忙しく働かされるものの、うまくやりおおせたときの満足感ははかりしれない。そういう意味で、完璧なのは初期の911Sかもしれない。この透明性はそのままに、パワーとブレーキが進化しているからだ。911Sで初めてフロントにベンチレーテッドディスクが採用された。ヘルベルト・リンゲがイタリアのステルビオ峠でテストした結果、必要と判断されたのである。

ちょっとひねった提案をさせてもらえば、繊細さを求める人には912はいかがだろうか。ひょっとすると、「次の人気モデル」になるかもしれない。

編集翻訳:堀江 史朗 Transcreation:Shiro HORIE 原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:John Simister 

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