奇想天外なアストンマーティン│催眠術にかかるような魅力とは?

Photography:Matthew Howell



ラゴンダには、催眠術にかかってしまうような感覚に陥いらせる魅力がある。これが40年前の人々が思い描いた21世紀の車だと思うと、どうしても感慨深くなってしまう。アクセレーターを踏み込めば、どっしりと静かに加速していく。アストンマーティンが手掛けた車ではあるが、スポーツカーではなく高級サルーンに仕立て上がっている。アイドリング時にはLEDで表示される数値が上下に行き来する。LEDの数字が踊る計器板もさることながら、異様に小径なステアリングホイールにも目を奪われる。シトロエンの唯我独尊ぶりを超えるとでも記しておこうか。パワーアシストの出来の良さは、想像するよりもオーバーアシストではなく、適度な重さとタイヤからのフィードバックがある。

特別に速いわけではないが優れた前後重量配分と、バランスの良い足回りによって、グランドツアラーとして申し分ない走りを披露してくれる。開発段階にはツインターボを装着した試作車もあったが、エンジンルーム内のスペースの都合上、市販車では見送られた。

『Motor Sport』誌は1982年1月号に、ラゴンダ500マイル
試乗記を掲載している。そこには「丸一日、500マイルを走破しても、アームチェアに座っていたようなもの」と記されている。それはジェントルマンズクラブに置いてあるようなアームチェアに座るような雰囲気こそ、ラゴンダに乗る際には大切な要素だと筆者は考えている。

ラゴンダへの注目度は高い。長年、アストンマーティンの本拠地であり、現在はクラシック・モデル部門があるニューポートパグネルの街でさえ、ラゴンダの姿を見かけるとたくさんの視線が集まる。それほど特異な存在であり、ほかの車と比べようがない。

ラゴンダの車両本体価格は、LED表示のタコメーターのように目まぐるしく変わっていった。1977年5月には2万4570ポンドだったものが、1982年2月には5万6500ポンドにまで跳ね上がった。ちなみに、1979年時点では、ラゴンダはアストンマーティン全体の約半分の売上を占めた。1983年9月には大幅な改良が施され、なんと後席のウィンドウが僅かながら開閉するようになった。従来のステンレス・スチール製ホイールは、BBS製のアルミとなり、計器板はLEDからブラウン管へと変わった。1970年代にアストンマーティンに入社した若きデザイナー、サイモン・ソーンダーズ(後にアリエル・アトムを手掛けて一躍有名になった)に課せられた仕事は、ラゴンダの狭い室内をどうにかすることであった。しかし、それは不可能であったという。

「瀕死のアストンマーティンを救ったラゴンダですが、ボディ
サイズに似合わず狭い車室は、欠陥と言っていいほどです。どうにもこうにも、やりようがありませんでした」とソーンダースは回想している。しかも開発陣は、積極的にラゴンダのテストカーに乗ることを推奨されていたのだが、彼は社用車であったフォード・コルティナに乗っていたという。

編集翻訳:古賀 貴司(自動車王国) Transcreation:Takashi KOGA (carkingdom) Words:Mark Dixon 

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