憧れのヒロインを所有する│虜にされた車と久しぶりの再会

Photography:Matthew Howell


 
アストンエンジニアリングの新社屋に到着すると、外装、内
装、機械系のオーバーホールなどを経て新車のように生まれ変わったエリックのV8が待ち構えていた。15インチのBBSホイールは、もう少し新しいヴァンテージが履くロナール製の16インチに交換。それにともない、フェンダーは少しだけ叩き出されていた。足回りにはアストンエンジニアリングのハンドリングキットが組み込まれ、少し低まった車高と新たに装着されたチンスポイラーにピッタリだ。
 
新車時には「ウィンザーレッド」だった外装は現行ヴァンキ
ッシュに用意されている「ヴォルケーノレッド」に変更され、内装もクラレットと黒のコンビネーションでエリックの好みに仕上げられている。万人受けしないのは重々承知だが、なかなかどうしてカッコいい。そのほか最近の車では当たり前なリモコンキー、LEDライト、そしてセンターコンソールにスマートフォンや電子デバイス用電源を新設。まるで新しい車を手に入れたかのようですっかりご満悦のエリックは、撮影ポイントまで筆者を助手席に乗せて運転した。

「結局のところ、ノスタルジーに浸りたいんですよね。私より
年上の方々は6気筒エンジンへの思い入れが強いようですが、70年代、80年代が幼少期だった私にとっては断然V8です」と振り返った。
 
今回の取材車両以外に最初期のDBS V8、そして1977年に
登場してアストンマーティンに目覚めさせられた、V8ヴァンテージのプロトタイプも所有するエリック。「2頭のグレイハウンドと映っていたヴァンテージ・プロトタイプの写真は今でも鮮明に覚えていますし、まさか自分が30年後に所有することになろうとは予想だにしていませんでした」。

それぞれに思い入れがあるが、この「4ERL」はエリックにとって
初めてのアストンマーティンになった。ウェストエセックスで見つけ、そのままスコットランドまでドライブしてから、アストンマーティンへの目覚めがようやくカーライフで現実のものとなった。ERLはEuan(ユアン)、Rhys(ライス)、Liam(リアム)という3人息子の名前の頭文字を取ったもので、4は「for(~ために)」という意味が込められている。

「この20年間、家族を最優先に生きてきました。50歳に入り、少し自分を優先してみようかなと思い、贅沢なフルレストアをしてみたんです」とエリック。この18カ月の間、4~5回はアストンエンジニアリングを訪れ、レストア状況を確認しにいったという。仕上がりはエリックが望んだ通りのもので、終始笑顔だった。

「私が所有する車はすべて普段使いしているんです。それこそ
仕事だろうと、送り迎えだろうと、長距離ドライブだろうと、気にしません。車は運転されるために生まれてきているわけですし、乗ると本当に幸せを噛みしめます。昔、仕事においてにっちもさっちもいかない一週間がありました。平日を乗り切った金曜日の晩、プロトタイプに座ってエンジンをかけて約5分…、それまでの憂鬱な思いはキレイさっぱり忘れてまたやる気を出すことができました。アストンにはそんな力が、少なくとも私にはあるんです」

編集翻訳:古賀貴司(自動車王国) Transcreation:Takashi KOGA(carkingdom) Words:Peter Tomalin 

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