奇抜に見える正統派│デザイン言語をザガート流に復刻した、本流のシューティングブレーク

Photography:Dean Smith



「私たちは、消えゆくカロッツェリアという流れのなか、なん
とか生き残ることができました」とアンドレア・ザガートは語る。長い間、カロッツェリアは自動車メーカーが造るラダーフレームボディ上にボディを架装するだけでよかった。しかし、モノコックボディが一般的になると、カロッツェリアの大半は消滅していった。20世紀初めのミラノには70社、トリノには70 社があった伝統的なカロッツェリアは、今ではピニンファリーナとザガートのみとなっている。 

ザガートは、1990年代まで生産ラインを自社で構えていた
が、日本の自動車メーカーが実現させた混合生産技術(1本のラインに多種モデルを流す)が止めを刺したという。また、効率化のための外注を拒む労働組合との対立もあったという。そこでザガートが選んだのは、カロッツェリアからデザインアトリエへの転身、そしてコレクターズアイテムとなる車の生産という道だった。
 
アンドレア・ザガートは私にドライバーズシートを譲って
くれた。内装はクリームと赤のコンビネーションレザーが特徴的だ。ザガートの"Z"をモチーフにしたデコレーションが随所に配されるが、基本的に内装はヴィラージュ譲りである。アルミ削り出しのダイアルスイッチ、アルミパネルの使い方は、エレガンスとスポーティさを見事に演出している。  

もちろん、走りもヴィラージュ譲りで、極端に速いわけでは
ないが、グランドツアラーとしてライバルに引けをとることはない。アクセレーターを踏み込めば踏み込んだ分、V12 エンジンが奏でるエグゾーストノートの高まりが心をときめかせる。それは複数の音程が混合されたもので、力強く吠える。シフトダウンしてさらに踏み込めば、強烈な加速Gとともにうっとりする音色を奏でる。フェラーリやランボルギーニとは違う、アストン独特の12 気筒サウンドは病みつきになる。まるでアクセルペダルがボリューム調整機能になっているかのようだ。加速Gが強烈に感じられるのは、排気音の恩恵があるかもしれない。

ヴィラージュ譲りのシートはサポート部分がしっかり
している。路面の凹凸を吸収するサスペンションと相まって驚くほど快適な乗り心地は、シューティングブレークのグランドツアラーとしての性格に相応しい。もちろん、高級サルーンほどフラットライドなわけではないが、路面の情報を正確にドライバーに伝えながら不快な入力を低減させている。運転を楽しむドライバーの長距離移動には、最高の相棒といえるだろう。


 
ヴィラージュ・シューティングブレーク・ザガートは、決し
て奇をねらった車ではない。1980年代に用いられたアストンマーティンのデザイン言語をザガート流に復刻した、本流のシューティングブレークである。そして、中身も走りもヴィラージュ譲りのしっかりしたもので、グランドツアラーでありドライバーズカーとして文句のつけどころがない。そればかりか、ヴィラージュ・シューティングブレーク・ザガートには「コレクターズアイテム」という付加価値まである。今回の三部作、手にできたオーナーは正に"ラッキーガイ"だ。

編集翻訳:古賀 貴司(自動車王国) Transcreation:Takashi KOGA(carkingdom) Words:David Vivian 

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