ナンバーが付いたポルシェのスーパーカー│911 S/Tをスウェーデンから英国へ

Photography:Gus Gregory


 
そうしているうちに、このドライブでS/Tの本質があらわになった。まず軽量であること。しかも一番の重量物がリアエンドにあることさえも、だ。それに加えて妥協のないサスペンションセットアップとエンジンレスポンスの鋭さ。それらが渾然一体となって、独特の相乗効果を生み出している。今搭載しているエンジンは2.5リッターだろうということだが、いずれにしても次のコーナーへと向かう時のパンチ力は相当のものだ。


 
やがて道路が尽きるところまでやってきた。砂利を踏みしめつつ、灰色の冷たい海が広がるすぐ手前まで行ってS/Tを止める。そこには間をさえぎる柵さえない。人気のない半島を包み込むあまりの静けさに私たちは驚いた。この1時間、大音響を聞き続けてきたからなおさらそう感じたのだろう。経験したことのある人ならわかるだろう。活力にあふれるサウンドに囲まれた車を本気で集中して運転すると、そのあとには、手で触れられるのではないかと思うほどの静寂が訪れるのだ。
 
楽しい時はあっという間に過ぎ去る。これからまだユトランド半島西端の港まで行かなければならない。そこまでの距離と時間を考えて現実に返った私たちは、そそくさとS/Tに乗り込み、再びシートベルトを締めた。"マキシマムアタック"で飛ばし、次の橋があるエスビャウに到着。ユトランド半島へと結ぶ小ベルト橋は、これまでの2つと比べるとはるかに古風な橋だ。あとは真っすぐ港に向かう。そこからフェリーで帰国だ。
 
調査によると、ミュンヘンでは1970年代初頭にアマチュアレースが盛り上がりを見せていたという。

この素晴らしい"マッチングナンバー車"も、その一翼を担っていたに違いない。ただ、その時の戦績は「さわり程度」だったのか「中心的存在」だったのかは分からない。
 
当時は、ナンバープレートの付いたレーシングカーを買える時代だった。その気になれば通勤にも使えたし、週末にはそれでサーキットや山へ出掛けて、気軽に楽しむことも、大まじめにレースに取り組むこともできた。もし私がそんな毎日を送るための車を選べたなら、オーダーしたのはきっとこの車だったに違いない。

編集翻訳:堀江 史朗 Transcreation:Shiro HORIE 原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Adam Towler 

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