ポルシェの輝かしい足跡を訪れる│356生誕の地ドイツ グミュントへ

Photography:Delwyn Mallett+Porsche Archives


 
ポルシェがグミュントから拠点を移すと、そこは農業と林業を営む美しく静かなアルプスの村の姿を取り戻し、この村でのポルシェのストーリーは幕を閉じるはずであった。しかし、ポルシェとこの村のつながりを忘れないひとりの男がいた。当時、まだ少年だったヘルムート・ファイフホーファは、ポルシェのシャシーが村の砂利道を走り回る様子や、1944年に彼の家族がポルシェの社屋からあらゆる設備を運び込む手伝いをする光景を見ていた。1982年、ヘルムートはポルシェとポルシェのグミュントでの時代を称え、私設博物館を開き、夢を叶えた。
 
今日、グミュントはA10高速道路がすぐ側を通り、昔とは比較にならないほど交通の便がよく、ファイフホーファはひとりでも多くの人にこの博物館を見てもらいたいと願っている。高速の出口には「Gmünd – Porsche Museum(グミュント - ポルシェ博物館)」と書かれているから、旅行者にもわかりやすい。高速を降りるとあらゆるところに矢印が表示され、その案内に従って進むと、馬小屋を美しく改装した博物館が見えてくる。
 


博物館の入口には、小さな金属パネルを溶接して作り上げた356のフロント部分をモチーフにした大きな庇があり、これから見る宝物への期待に胸が躍る。中に入るとまず、美しい西洋トリネコ材で造られた木型と、その横に展示されたレストアも塗装もされていない356アルミボディのグミュントクーペが出迎えてくれる。
 
時の経過と共に痛んだ少しくたびれたボディを見ていると、職人がパネルを叩き出している音がいまにも聞こえそうな気がしてくる。隣には後期の911が鎮座し、ひと目でリアエンジンに対するポルシェの素晴らしい70年の歩みを感じさせる。
 
続きの部屋には、ポルシェの歴史を紹介するビデオコーナー、そして水平対向4気筒エンジンが展示されている。質素で小さなフォルクスワーゲンのエンジンから始まり、究極の4カムエンジンのカレラまで、歴代のポルシェ356のパワーユニットが並んでいる。2階の木製の梁を備えた大きなギャラリーには、フェルディナント・ポルシェによって1928年に設計されたシュタイアから始まり、多くの展示品が所狭しと並べられている。様々な356が順に並び、そして初期のVWが展示されている。



大きすぎるバルーン・タイヤの上に乗っかっているかのような、非常に珍しい戦時中の軍用ビートル、4WDコマンドワーゲンのシャシーは特に興味深い。さらに別の木型があり、その隣には、愛らしい小さな550スパイダーがジェームス・ディーンの大きなポスターと共に展示されている。彼は愛車の550で事故に巻き込まれ、若い命を落としたのだ。

 
サファリ仕様911ラリーカー、そして906スポーツプロトタイプを見ると、それほど遠くない昔にはロードカーとレースカーの機能が今ほど違っていなかったときのことが思い出される。それとは対照的に、マリオ・アンドレッティがドライブした962は、まるでレトロな複葉機(二枚羽)のハンガーの中にあるスペースシャトルのようにそのモダンな姿が印象的だ。
 
博物館を見終わった後は、この絵のように美しい村で少し休んでみることを、ぜひお勧めする。ここでポルシェのデザイナーたちがビールを1、2杯飲んでリラックスしながら封筒の裏にアイディアを走り書きし、あるいは小さな4輪の"アロイボックス" が周囲の山道を駆け抜ける姿を想像するのは難しくない。メインストリートをさらに上がると、 フェルディナント・ポルシェ博士の銅像がある静かで緑に溢れたポルシェ・パークへたどり着く。この偉大な人物がかつてこの道を走った姿が目に浮かぶにちがいない。

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:渡辺 千香子(CK Transcreations Ltd.) Translation:Chikako WATANABE (CK Transcreations Ltd.) Words:Delwyn Mallett 

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