フェラーリの化粧直し│コーチビルダーとの関係を振り返る

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ピニン・ファリーナは、イタリアが好景気に入った1950年代初頭には、既にその優れたデザインで裕福な顧客を獲得していた。エンツォとは1920年代からの知り合いで、いずれフェラーリがスポーツカーメーカーとして抜きん出た存在になるだろうと見抜いていたので、二人が手を組むのは当然の成り行きといえた。問題は、どちらもプライドが高く、自分から動こうとはしなかったことだ。

結局、二人は中間地点のトルトーナで落ち合い、昼食の席で契約をまとめ上げた。しかし、スタートは手探りだった。まずは212インテルのボディを3台(1台は映画監督のロベルト・ロッセリーニの注文)、続いて342アメリカと375アメリカ、250 エウローパを数台担当。並行して、コンペティションカーもいくつか手掛けた。



これが、今日まで続くパートナーシップの幕開けだった。協力関係は、1950年代後半に加速度的に発展する。その頃も、自由な発想のワンオフは自動車雑誌で高い評価を集めていた。だが、ピニン・ファリーナが手掛ける250 MMなどの"量産"プロジェクトは、フェラーリに安定収入をもたらしたのである。その間も、コンペティションカーは主にスカリエッティが担当していた。そして1958年6月、フェラーリとピニン・ファリーナは、真に量産車といえる最初の跳ね馬に着手する。それが250GTだ。

フェラーリの歴史における250 GTの重要性は、いくら強調してもしすぎることはない。このモデルは、従来のように顧客の気まぐれに合わせて1台1台ボディをデザインするのではなく、同じ仕様の製品を大量に生産していこうという自動車メーカーとしての決意の現れだった。また、ファリーナにとっても安定を意味した。まとめて200台の契約を取り付けることで、定期的な収入源を確保できたのである。
 
1960年代になると量産モデルはさらに拡充し、そのすべてを「Pininfarina」(1961年から社名がひとつの単語になった)のロゴが飾った。デザインを手掛けたのは、いずれもキャリアのピークにあったアルド・ブロヴァローネ、トム・ジャーダ、レオナルド・フィオラヴァンティ、パオロ・マルティンらだ。1960 年代にはサブブランドのディーノも誕生。ここで初めてベルトーネが主力モデルを担当した。それが1973年のディーノ308 GT4だ。
 
それまでにもベルトーネはワンオフのフェラーリを手掛けていた。たとえば、ジョルジェット・ジウジアーロの手になる1962年の250 GT SWBスペチアーレは、気品溢れる傑作だ。対して、マルチェロ・ガンディーニによる角張ったシルエットを特徴とする308 GT4は冷たい反応で迎えられ、いまだに意見が割れている。これを最後に、ベルトーネがフェラーリの量産モデルを任されることはなかった。2008 年にはカリフォルニアの内装をベルトーネが手掛けているが、このモデルは、当初マセラティのバッジを付ける予定だったともいわれている。
 
もうひとつ忘れてはならないのがザガートだ。このミラノのカロッツェリアは、フェラーリの歴史でも特に美しい前衛的なボディを生み出してきた。一度も途切れることなく現在まで続くコーチビルダーの中では、フェラーリとのつきあいが最も長い。最初の作品が1949年の166"パノラミカ"で、その7年後には画期的な250 GTZを発表した。のちの作品の中には忘れたほうがよいものもあるが、逆に影響力の大きなものもあった。たとえば348 ザガート・エラボラツィオーネのデザインは、のちの量産モデルF355とサイドスクープやテールライトの形状が似ている。また、テスタロッサをベースにしたワンオフのFZ93は、のちのエンツォを予感させるスタイルだった。最近では、ノリ・ハラダこと原田則彦が、日本人からの注文で手掛けた2006 年の575 GTZがある。かつてのモデルの要素を抽出して巧妙に取り入れており、この名高いスタイリングハウスの再興を感じさせる出来栄えだ。
 
ただしザガートの場合、フェラーリから新しいシャシーを与えられてボディを架装したピニンファリーナやベルトーネと違い、既に完成した車のボディを載せ換えるのが普通だった。それはザガートだけではない。かのジョヴァンニ・ミケロッティも、やはりディーラーや顧客の意向で古いモデルに腕をふるった。有名ではないが、同様の例にネリ&ボナチーニの「ネンボ」シリーズがあり、その美しさは最近になって高く評価されるようになった。
 

Words: Massimo Delbò

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