スペインまでオフロードドライブの冒険記 第二弾

Photography: Mark Dixon and Alex Tapley


 
土曜日の目玉は、レス・コメスで最も標高の高い地点を目指すマンモス・ヒルクライムだ。オーガナイザーは、できるだけ多くの参加者を集めようと熱心で、様々な組み合わせのルートを用意していた。難易度で色分けされており、我々イギリス代表団が割り振られたのは黒のルートだ。あとでプログラムを読んで分かったのだが、星4個中3個の難コースだった。
 
長年の間にオフロードの経験をかなり培ったとはいえ、私の腕はとてもエキスパートといえるレベルではない。しかもこのレンジローバーは数年前に購入して以来、一度もローレンジに入れたことがないのだ。エアサスペンションにも幾分不安があった。初代レンジローバーがコイルスプリングだったのに対し、2代目のP38はコンプレッサーで加圧されたエアバッグをバネにしている。スイッチひとつで車高を変えられるなど利点は多いものの、エアバッグはゴム製だから劣化すれば穴が開く。このP38は製造から25年たつが、その間にエアバッグを交換したことがあるのか私には分からない。万が一破裂したら、どうやって家に帰ればいいんだ?
 
というわけで、低木に覆われた山を登るつづら折りに入ったところで渋滞を引き起こしたのは、不安を抱えていた私かもしれない。それでも最初の1マイルほどは余裕で、少々岩の多い箇所はあったものの、ローレンジにすれば(ありがたいことにちゃんと入った)2速と3速が完璧に仕事をこなしてくれた。オートマチックであり、余裕のある4リッターソリンエンジンだから、ドライバーが特に何もしなくても"レンジー"はゆっくり着実に登っていく。

私の仕事は、岩だらけの路面に急な段差がないか、タイヤをパンクさせそうな鋭い岩が飛び出していないか見張ることだけだ。今回の旅で何度も感じたことだが、出発直前に頑丈なグッドイヤーのラングラー・マッドテレーンタイヤ(235/70×16)に履き変えたのは大正解だった。ブロックパターンなので、アスファルトを走行する際のノイズやふらつきを懸念していたが、どちらもまったく気にならなかった。今はその頑丈な造りが心底ありがたい。



 
いよいよコースが"面白く"なってきた。最初の難関はV字の深い溝だ。片側がもう片方より高くなっているので、溝をまたいだ際に滑り落ちない位置に慎重に車を持っていく必要がある。私の家には1940年代にロンドン交通局が発行した古い宣伝用の本がある。その中にダブルデッカーバスが傾斜台に乗って試験を受ける写真があり、目を疑う角度まで傾いても横転しない様子が示されていた。不自然極まりない不安定な角度でゆっくり進みながら、私はそれを思い出して自分を落ち着かせた。
 
だが、何度か曲がった先で待ち受けているものに比べれば、これはまだ序の口だった。曲がりくねる上り坂で数十台のランドローバーが渋滞し、ずいぶん長く待たされた理由もそれだった。上りながら鋭く左に折れるコーナーがあり、そこを分断するようにまたもや深い溝が道を横切っているのだ。これが大問題を引き起こし、経験豊富なドライバーでさえ手を焼いていた。スリップしたら最後、ボディパネルに深刻なダメージを負いかねない。とはいえ、今まで見事なパフォーマンスを見せてきたレンジーがこの難局をどう乗り越えるのか、私の好奇心は高まった。果たしてエアサスペンションは、ディフェンダーの伝統的なコイルスプリングに勝てるのか。その答えを出す方法はただひとつだ。
 
ローレンジで1速に入れ、エアサスペンションは最も高い設定にする。溝にアプローチするときは、45度の角度で入るのが最善だ。まっすぐ入るとノーズから溝の向こう側に刺さって身動きが取れなくなる恐れがある。私は慎重にも慎重を重ねて、できるだけ右に大きく振ってから左にステアリングを切った。ドライバーに指示するためここに配置されたインストラクターが、いいぞと頷く。まるで深淵をまたいでいる気分だ。インストラクターが挙げた手にひたすら集中し、もう少し左へ、右へと指示するのに従って、文字通り1インチずつじりじりと進んでいく。V8エンジンはほとんどアイドリング状態だ。
 
右のフロントタイヤが溝の縁を乗り越えて空をかく。残りの3 輪で、さらにゆっくりゆっくり前進していくと、突然──いくら覚悟していても心臓が止まりそうになった──車が横に傾いて、右のフロントタイヤからドンと着地し、同時に左のリアタイヤが宙に浮いた。巨大な金属製のシーソーの中に乗っているようなものだ。
 
だが、もう大丈夫。最悪の部分は切り抜けた。フロントとリアのスカートにもダメージはない(少なくとも音はしなかった)。エアサスペンション万歳!
 
少し先の安全な場所に車を駐めると、私は急いで引き返し、ロブとアレックスが小さなシリーズIでどう切り抜けるのか見にいった。すると信じられないことに、いや、さすがというべきか、ロブの手にかかると何の苦もなくスイスイと溝を乗り越えるではないか。ほとんど減速する必要すらなかった。少々癪ではあるが、完全に脱帽だ。
 
その後もオフロードをたっぷり楽しみ、パエリアに舌鼓を打ち、お土産にワインを買い込むと、私たちは埃だらけのノーズを切り返して帰宅の途に就いた。スペインの平原を西へと引き返す長い道中では、ポール・ヘガティのレンジローバー・クラシックにリアサスペンションのトラブルが発生(トニー・オキーフが荷台に赤ワインを何ケースも積んだせいだろうか…)。とはいえ、往復1000マイルの強行日程にもかかわらず、9台で起きたメカニカルトラブルは、これと前述のシリーズIの燃料ポンプだけだった。ランドローバーの信頼性も捨てたものじゃない。

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo. ) Transcreation: Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA Words: Mark Dixon

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