"Bond, James Bond" この車さえあれば誰もが007に。

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後方ではツインエグゾーストパイプが低く唸るようなサウンドを奏で、ウッドリムのステアリングホイールを介して私の身体に響き渡る。運転席から見えるボンネットの曲線美にはついつい酔いしれてしまう。この車には前述したように様々なガジェットが装備されているが、パワステやエアコンなどの、いわゆる快適装備の類はついていない。あるのはドライバーと道路、そして純粋な車だけだ。

古いアストンマーティンはスポーツカーというよりもクルーザーであるといえる。週末にモンテへのツアーに出向いたり、スコットランドの隠れ家へ散歩に行くのにちょうどいい車だ。ジョン・F・ケネディがまだ生きており、ビートルズがデビューした時代に設計された車にしては悪くない。しかし私が1963年生まれで一癖ある人間なのと同様に、1963年に生まれたDB5にも癖があることは否めない。5段ZFギアボックスはドイツ製で、唯一とはいえイギリスで製造されていないパーツである。またこの車は急ぐのにはあまり向いていない。高速域でブレーキをうまく使うのは至難の技だからだ。しかしドライブ自体は非常に楽しく、ただそれゆえにアームレストに隠されている電話や回転式のナンバープレート、レーダースクリーントラッカーなど刺激的なガジェットの存在をついつい忘れてしまっていた。





ボンドはいつも様々な武器を駆使して敵を蹴散らしてきた。後続車に煙幕や油をお見舞いするシーンは有名だ。この車は環境に配慮し、油の代わりに水を巻くことができる。さらにトランクリッドからは弾道シールドが飛び出す。バンパーから突き出る銃口はロンドンの駐車場に停める時にも役にたつかもしれない。そうこうしていると私の車の前に1台の白いバンが飛び出してきた。とっさに私はギアスティックノブの蓋を開け、赤いボタンに指を添えた。何を隠そうこの赤いボタンはフロントバンパーから飛び出す機関銃の引き金であり、銃口がけたたましい音を鳴らす準備はできていた。DB5が履いている時代遅れのクロスプラスタイヤが軋む音を立て私を牽制しようとするがそんなことはお構いなしだ。照準を合わせ、発射…!といきたいところであったが、もちろん実際には弾は出ない。とはいえ、光と音の演出で本当に弾が出ているかのように銃口は激しく動く。



「そのような機能がふんだんに装備されていることが、公道で合法的に走行できない理由のひとつです」と、アストンマーティンワークスの社長であり、”新しい”DB5の発案者でもあるポール・スクワイアは語る。

「007に憧れる者たちがこの車に装備されたガジェットでいたずらしてしまうのは容易に想像が付きました」

もちろん25台すべてが007シルバーバーチで塗装されており、オプションで選べるのはハンドルを左右どちらにするか、助手席の天井に取り外し可能なパネルを装着するかの2種類だけだ。ボンドが座るイジェクターシートの天井にも開口部はあるものの、もちろん安全上の理由から本当に飛び出すことはできない。残念なことに、リアパイプから排出されるスモークも、電子タバコと同じただの水蒸気だ。メンソールじゃ敵を倒すことはできないのだが…。

このDB5はDB4GTとDB4GTザガートに続く、アストンマーティンコンティニュエーションプログラムにおける3台目のモデルだが、間違いなく最も話題になるモデルだといえるだろう。私なら装備されている全てのガジェットを犠牲にしてでも公道で思う存分DB5のエンジン音を聴きたいと思うが、非常に高額で少なくともボンドの祖国であるイギリスでは公道走行不能でも、25台すべての嫁ぎ先はすぐに見つかるだろう。

Words : Jeremy Taylor 訳:オクタン日本版編集部

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