イタリアから英国へ|ポルシェ911の歴史における重要モデル、2.5 S/Tの現在【後編】

Photography:Aston Parrott


英国にわたった"0721"の今


その後、S/Tは数人のイタリア人オーナーの手を経てからイギリスに辿り着き、オリジナルの姿を取り戻した。大きく張り出したフェンダーやいかにも競技車らしい佇まいを残すいっぽう、エンジンを始動する瞬間に大量の空気を吸い込むフラット6は、アイドリング時でさえ迫力あるサウンドを響かせる。ロールケージを潜り抜けた私は、タイトなサポートのレカロ製バケットシートに腰を落とし込んだ。



極めて軽量なうえ、レース仕様に仕上げられているので車内は恐ろしく騒々しく、同乗者が何を話したかは想像するしかないが、この点を除けば、S/Tをロードカーとして使うのに何の問題も見当たらない。クラッチは扱い易く、タイプ915の5速ギアボックスも操作は容易。ちなみに、S/Tには1速がドッグレッグだった初期のタイプ901ギアボックスも選択可能だった。もっとも、シフトストロークは大きく、2速に入れるとシフトレバーは右足のヒザあたりにやってくる。乗り心地は硬めだが我慢できないほどではなく、市街地をゆっくり流していてもまったく不満を覚えなかった。

エンジン回転数をさらに上げると、競技車というS/Tの出自は到底隠せなくなる。フラット6は様々な種類のノイズを発し始め、ショートストロークの2.5ℓエンジンは、いついかなるときでも8000rpmのレヴリミットを目指して回転数を上昇させようとする。素晴らしい感触のステアリングは、路面の微細な変化も余すところなくドライバーに伝える。このコンパクトで俊敏なマシンが、タルガ・フローリオで理想的なマシンとなり得た理由が、このときわかったような気がした。それはイタリアのヒルクライム戦でも、モンツァでも同じように有効だったはずだ。

8000rpm 近くに設定されたレッドライン。2.5ℓエンジンは275bhpを発生。燃料噴射装置を始めとする改良により170mph(約 272km/h )が可能だった。

それは古き佳き伝統に基づく、理想的なデュアルパーパスGTといって差し支えない。1970年代初頭、数多くのレーサーたちがシュトゥットガルト詣でを欠かさなかったのも当然のことだ。S/Tの文字はRSほどの知名度を手に入れられなかったかもしれないが、その真価を知る者たちは、ポルシェの歴史におけるこの911の重要性を正しく認識していることだろう。




1971年 ポルシェ911 2.5 S/T

エンジン:2464cc 空冷フラット6、ドライサンプ、
各バンクSOHC、ボッシュ機械式燃料噴射装置
最高出力:275bhp / 8000rpm 最大トルク:192lb-ft / 6300rpm
トランスミッション:5段 MT、後輪駆動 ステアリング:ラック&ピニオン
サスペンション(前):マクファーソン・ストラット、トーションバー、
テレスコピックダンパー、アンチロールバー
サスペンション(後):セミトレーリング・アーム、トーションバー、
テレスコピックダンパー、アンチロールバー
ブレーキ:ディスク 車重:930kg
性能:最高速度 170mph(約 272km/h )、0-60mph 加速 5.5秒

編集翻訳:大谷 達也 Transcreation: Tatsuya OTANI
Words:James Page Photography:Aston Parrott 取材協力:エキスポート56(export56.com)

編集翻訳:大谷 達也 Transcreation: Tatsuya OTANI

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