10メートル走っただけで恋に落ちる「全席ファーストクラス」|BMW ALPINA XB7

Masaya ABE

ちょうど一年前、桜が満開の頃にジャパンプレミアを果たしたアルピナXB7。半世紀以上の歴史を持つアルピナはBMWチューニングのスペシャリストとしてつとに有名な“メーカー”だが、このXB7はある意味、そんな名門ブランドの新たなフェーズを象徴する一台になりそうだ。実を言うと、創始者であるブルカルト・ボーフェンジーペンは、BMWラインナップの主力がSUVに移ってなお、その“アルピナ化”には長らく否定的であった。後を継いだアンドレアスの時代となってようやくアルピナは時流に乗ったのだ。

まずはミドルレンジのX3およびX4をXD3、XD4として見事に仕立て直すと、今度はフラッグシップのX7に照準を当てた。つまり最も高価なSUVのアルピナ化である。性能と見栄えのクォリティの高さで勝負するアルピナにとって、SUVビジネスにおける将来の成功の布石、となるに違いない。それゆえV8ガソリンエンジンベースの超大型SUVにアルピナが手を入れると一体どうなるのか。ジャパンプレミア以来、気になって仕方のなかったモデルでもあった。アルピナを40年以上前に初めて日本市場へと導いたニコル・オートモビルズから、XB7の登録車両の用意ができたという連絡を受け、すべての予定を再調整して車両を受け取った。日本にはまだ一台しかないアルピナグリーンの個体である。



クーペやサルーンで見慣れたグリーンも随分と雰囲気が違って見える。グリーンのSUVといえばその昔のレンジローバーくらいしかイメージがない。実際、街を走っていると、異様な見栄えなのだろう、よく振り向かれた。もちろん、BMWオーナーたちの視線も痛いほど感じる。アルピナのSUVという点も新鮮なのだろう。控えめなロゴ入りエアダムや迫力の23インチクラシックタイプホイール(オプション)など、スタイリングはアルピナの定石に則って仕上げられた。大きなホイールを履いているために遠目で見るとX5くらいの大きさに見える。けれどもXB7は相当にでかい。ちなみに車重は2.5トン超だ。

アルピナファンには見慣れたクラシックタイプの鍛造ホイール。なんと23インチがオプションで用意されている。タイヤとセットで約78万円。

今や主流となった3列シートタイプ。アルピナの真骨頂というべきインテリアのグレードアップにはもってこいの素材だろう。ドアを開けてみれば匂い立つように眩いホワイトレザーに一面が覆われ、乗り込むことさえ一瞬、躊躇ってしまった。全席ファーストクラス質感。流石の仕立てである。

ゴージャスな内装もまたアルピナの見どころのひとつ。BMWのインディビジュアルはもちろん、完全なるオーダーメードも可能だ。取材車両はオプションのメリノフルレザー仕様であった。3列シートのアルピナという点も新しい。

走り出せば、少なくともドライバーズシートもまたファーストクラスであることを知る。10m走っただけで恋に落ちるとでも言おうか。もちろんアルピナの、特にシャシーセッティングの巧妙さに関してはB3やB8で散々味わってきたのだが、そんな筆者でさえ三度驚かされるライドコンフォートを有している。23インチホイールを履いているだなんて、とてもじゃないが信じられない。街中ではやや慎重なアクセルワークが要求された。でかい(そして重いと知っている)車ゆえ、どうしても前のめりに踏み込みがちになるのだが、そうするとアルピナ謹製のV8エンジンは、「そんなに踏まなくてもいいんだよ」とばかり、ぐいいっと車体を前へと押し出す。この辺り、ひょっとするとアメリカ市場の好みなのかもしれないと思いつつ、少しだけ気を使いながら走り続けた。一般道では流石にボディの大きさを感じるが、それでも鈍重さはまるでなく、車体の動きも実にわかりやすい。背の高さからくる不安なロール感などはまるでなく、またしてもアシの出来栄えが極上であることを街中のドライブで早くも知らされたというわけだ。

高速域におけるウルトラフラットなライドフィールこそアルピナ最大の魅力だと筆者は思う。どのモデルを選んでもクラス最良のGTである。

そしてアルピナ最大の魅力はグランドツーリング性能にある。東京で借りだしたXB7だったが、自宅のある京都まで一気にロングドライブを敢行した。期待以上の安楽さであった。その上、ドライブが楽しいのだ。高速領域になると、どこからでも十二分な力を発揮し、心地よいノートをたなびかせるV8エンジンの虜になる。加速フィールはいつだって滑らかで、かつ力強い。それゆえかえって慌てず騒がず泰然としたドライブを楽しむことができる。つまり、まるで疲れないというわけだ。

既にB8やB7でもお馴染みの4.4リッターV8ツインターボエンジン。トルクバンド設定などアルピナ独自のチューニングが施された。

興味深いことに、ドライブモードはコンフォート、スポーツ、スポーツ+、そしてアダプティブ、すべてが違う個性ながら快適にあつらえられていた。アルピナマジックは健在だ。450kmのドライブを楽しんだのちに走った京都の街なかでは、すっかり車体との一体感も出来上がり、ドライブフィールもまたまるでX5サイズのSUVを転がしているかのようだった。

アルピナグリーンのスペシャルペイントは63万円のエクストラコストを要する。憧れのアルピナストライプはシルバー。ゴールドの設定もある。


BMWアルピナXB7
ボディサイズ:全長5,165×全幅2,000×全高1,830mm
ホイールベース:3,105mm
車両重量:2,580kg
標準ホイール:9.5J×21インチ
タイヤサイズ:285/45 R21
燃料タンク容量:83リッター
エンジン形式:V型8気筒ツインターボ
排気量:4,394cc
最高出力:457kW(621ps)/5,500-6,500rpm
最大トルク:800Nm/2,000-5,000rpm
駆動方式:AWD
トランスミッション:8段AT
0-100km/h加速:4.2秒
巡航最高速度:290km/h
価格(税込):25,280,000円(テスト車両:28,640,000円)


文:西川 淳 写真:阿部昌也
Words:Jun NISHIKAWA Photography:Masaya ABE

文:西川 淳 写真:阿部昌也

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